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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
エルフの里と臆病な灯
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森の異変

 カスミはリュウの頼みに応え、レプトとジンを起こし、建物の一階にある広い部屋に連れてきた。その部屋はどうやらこの建物にいた者達にとっての憩いの場的なものらしく、業務に関連しそうなものは置かれていなかった。それらの代わりに、ソファや背の低いテーブル、観葉植物など、小休憩にピッタリなものが多く置かれている部屋だった。

 三人が部屋に入ると、スペースの真ん中辺りに先ほどのエルフ、リュウが一人で立っていた。彼は扉の開く音を耳に入れると、そちらに振り向いて小さく会釈する。


「おはよう。わざわざ手間を取らせてしまって申し訳ない。ただ、聞きたいことが少しあって」


 彼は社交辞令のような謝罪で三人を迎え、大方の用件を伝える。そんな彼を見て、レプトとジンは確認を取るように前を歩くカスミの顔を覗き込む。すると、彼女は頷いて応えた。


「あの人がリュウ。何かを調べるために森を歩いてたら、ここに辿り着いたんだって」


 カスミの説明を受けるとジンは、なるほど、と呟いた。反面、レプトはというとカスミの話を全く聞くことなくリュウの方へ駆け寄り、彼の顔をまじまじと見つめる。そして、珍しい昆虫を発見した子供のような、感動の混じった声を上げた。


「エルフって本当に耳とんがってんだなぁ……」

「僕達を見るのは初めてなのかな?」

「ああ、初めてだ。色んな所を回ってきたけど、じっくり他人と話す機会もなかったからな」

「ふぅん……。そういう君は、顔を隠しているけど……」


 レプトは朝、自分の顔を見たことがない人間と会うということで予めフードをかぶっていた。そのフードの奥を見るようにしながら、リュウは問う。

 一瞬返答を詰まらせるレプト。そんな彼の隣に今日は顔を隠していないジンが立ち、代わりにリュウの言葉に応える。


「すまないが、それについては触れないでやってくれないか。こいつは……」

「アグリ、ね」


 ジンの言葉が出るよりも先に、リュウが答えを口にする。そして、彼は気が付くとすぐにレプトに向き直って謝罪する。


「見たことがあるよ。すまない。君の事情を考えてなかった」


 アグリとは、外見が醜悪なことによって人間に迫害を受ける亜人のこと。そのことを知っていたらしいリュウは、レプトが顔を隠すのは彼がそのアグリだからだと予想したのだろう。リュウはすぐにレプトに謝った。

 それを受けると、レプトは軽い調子で言う。


「ああいや、いいって。別に聞かれたくらいで機嫌崩すほど子供じゃねえしさ」


 ここでレプトは、それに、と言ってカスミを振り返りながら笑う。


「事情があるって言ってんのに無理矢理見てきた奴もいたしな」

「……っ。あの時は悪かったって……」


 自分のことを言っているのだと即座に感じ取ったカスミは、苦虫を噛み潰したような表情をする。


「ってことでよ。別にそこまで深い問題って訳でもないから、気にしなくていいぜ」


 レプトはカスミのことを引き合いに出して、自分の顔のことは重く考えなくてもいいと言いたかったらしい。しかし、リュウはまだ少しだけレプトのことを気にするように彼の方へとチラと目線を投げている。

 それを感じ取ったのか、レプトはすぐに次の話題に移る。


「俺はレプト、こっちはカスミで、こっちがジン。よろしくな」

「……ああ。僕はリュウ。カスミに紹介されたと思うけど、エルフの里に暮らしてる一人だ。よろしく」


 レプトの気遣いを受け、リュウも合わせて簡単に自己紹介をした。二人のこの数秒のやり取りで先ほどの少し気まずい空気は薄れる。

 話に一段落ついたところで、リュウは三人の顔に目を通してから口を開く。


「じゃあ、気が早いかもしれないけど、早速質問させてもらってもいいかな」


 質問とは、やはりリュウが先ほどに言っていた、森で起こっている妙なことについてだろう。彼の表情からは柔らかさが消えて、真剣さによる硬さが出てくる。

 ただ、ジンが手を上げてリュウが話し出そうとするのを止める。そして、ちょっと待てと言って話し始めた。


「森で起きているという妙なことの内容を先に話してくれないか。それが分かっていれば質問にも答えやすいはずだ」


 ジンの言葉を受け、リュウは確かにと頷いて口に指を当てて考える。彼はそのまま少しの間だけ話す内容を頭の中で整理し、説明を始めた。


「最近、この森では火事がよく起きるんだ。あっちこっちで、何度もね」

「……火事?」

「そう。ただ、普通の火事とは全く違う。さっきも言った通り、いろんな所に何度も発生しているというのが一つ。加えて、その火事はあまり燃え広がっていないんだ」

「燃え広がってない? そりゃあいいことなんじゃねえか?」

「いいことはいいことだけど、奇妙なことには変わりない。普通、火の手が森で上がったら治まるまでにとても長い時間がかかる。人の手が加わったとしても数日は見ることになる。だけど、今この森で起こっている火事は、火が発生した後に自ら消えていくようなんだ。大規模なものでなく、小規模なものが何度も起こっている……。明らかに自然の現象じゃない。それに、その火が起こっただろう間隔や、位置にも少し気になるところがあるしね……」


 リュウは一息に森で起きている事件について説明した。

 彼の話を聞いたレプト達は、互いに顔を見合わせる。そして、お互いが頭の中に思い描いている予想が同じものであるか、という確認をする。


「なあ、これって……」

「そう、よね」

「恐らく、間違いないだろう」


 三人の意見は一致していた。彼らは目を合わせるだけでそれを知る。それが確実に答えであるという確証は今のところ存在しないが、少なくとも三人の中ではそれと確定していた。


「僕としては、この火事は魔物か何かの仕業なんじゃないかと考えてるんだ。火が上がったと思われる場所には多少の距離があるという法則があって、それがその魔物の習性なんじゃないかと……」


 リュウはレプト達が何かに気付いたことを知らず、自分の見解を話していた。それが一区切りつくと、彼は三人の方へ目を向ける。


「で、これに関係するようなこと、君達は知ってたりするかな」


 改めて問われ、再びレプト達は顔を合わせた。


「俺が話そう」


 リュウの問いに、自分が答えようとジンが進み出る。そして、彼はリュウにこの建物の中で起こっていたらしいことと、森に危険な状態の火を扱う能力を持った少女が歩き回っているということについて説明した。


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