リュウの目的
「僕はリュウ。この近くにあるエルフの里の長、の息子。ここまで来たのは、最近この森で起きている妙なことを調べるためさ」
「変なことって? 具体的には……」
「ちょっと待ってよ」
リュウと名乗った少年は続けて問おうとするカスミの言葉を遮る。そして、口元に小さな笑みを残しながら、少し威圧するように言う。
「僕の方の質問も聞いてほしいな。その妙なことっていうのは、僕達にとっては割と大問題なんだ。あと、僕にとって君は、かなり怪しい相手なんだよね」
「怪しい?」
「こんな森にあるわけがない感じの建物。それに、森に起きている妙なこと、その痕跡がこの周囲でよく見られる。入ってきたら、人がいた。それが君。……怪しいと思わない方が無理さ」
リュウは落ち着き払った調子のまま、カスミに自分達の事情をすべては話さず、大まかなことだけ伝えた。そして、彼にとってカスミは敵とまではいかないまでも、警戒している相手だということも伝える。彼はそれを、優しい表情、そして起伏のない口調で言った。
それに、カスミは焦った様子で言葉を並べる。
「ち、違うわよ。私達がここに来たのは昨日の夜。アンタの言う妙なことっていうのがいつから起こってるのかは知らないけど、私達じゃない。この場所のことだって、私達は全然知らなかったんだから。私達は旅をしてただけで、いい休み場所だと思ってここを選んだだけなの」
カスミはここまで言い切って息を一つ吐く。そして、首の辺りに流れる冷や汗を拭った。目の前の青年が自分の言葉を信用したかどうかが分からず、緊張しているのだろう。
ただ、彼女のそんな心配を溶かすように、リュウは笑顔になって元気な声を上げる。
「なんだ、早くそう言ってくれればよかったのに。ごめんね、威圧するような言葉づかいをしちゃって。怖がらせたかな?」
「え、え……」
「昨日に来たっていうのなら、僕が調べようとしてることと君は関係ないはずだ。重ねて言うけど、疑ってごめん」
リュウは頭を下げてカスミに謝る。先ほどまでの様子とあまりにもかけ離れた調子にカスミはついていけず、あたふたとしてしまう。
「あ、ああ……えっと」
「はは……そんなに動転することもないのに」
リュウはカスミの落ち着かない様子を見て少し笑い、その後、すぐに切り替えて真面目な顔になる。そして、話を元に戻してカスミに問う。
「ともかく、だ。僕としては、君と一緒にここにいるはずの人にも話を聞きたいと思っているんだけど、いいかな?」
「分かったわ、それで……ん?」
カスミはリュウの言葉に思考を挟まず頷こうとした。だが、その直前に踏みとどまる。リュウの言葉に引っかかる点があったのだ。彼女はそれをすぐに口にして問う。
「……どうして、私以外に人がいるって分かったの?」
カスミは問いながら、消えかけていた警戒心を取り戻して身構える。そんな彼女に、また笑ってリュウは答えた。
「君、自分で私達って言ってたよ?」
「……あっ」
指摘されて、カスミは低い声を上げて口を押える。それを見て更にリュウは笑った。
「隠すことでもないでしょ、別に」
「……そうだけど」
自分の発言の粗を突かれたようで、カスミは少し恥ずかしく思ったらしい。顔を赤くしている。そんな彼女を尻目に、リュウは調子を崩さずに頼む。
「事情を大雑把に説明して、その人達を僕に会わせてくれないかな」




