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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
シャルペス動乱編
353/391

逼迫

 気を失ったシャルペスの住民達と共に、レフィはエレベーターで転送装置のある階へ、職員達やフレイのいる階へと移動していく。その間、彼女はなんとか冷静に話を進められるよう、口に出す言葉を頭の中で組み立ててから対処しようと備えた。

 エレベーターが動き出してから少し後、時間を空けずに目的の階にまでは辿り着いた。すぐに扉が開く。先ほど転送装置の座標を入力する際に見た無機質な廊下が視界に入ってくる。そこには、床にしっかりと足を着けて立っている職員が数人と、フレイが立っていた。


「っ……よかった!」

「君はカスミの友達の……いや、それよりこれは……?」


 転送装置のある階ではガスが散布されていないようだった。フレイをはじめ、その後ろで協力してくれている職員達数人は何かに体を侵されている様子はない。彼らを目にしたレフィは、下の惨状がこの階にまで波及していないことに安堵の声を上げる。彼女のそれとは反し、フレイをはじめ安全な階にいた者達は、エレベーター内で倒れている住民達を見て何事かと身構えた。


「そ、そうだ。下が大変なんだ。有毒なガスが出てきて、皆気絶しちまって……動けなくなっちまったんだ」

「……それなら、俺達が助けに」

「駄目なんだッ! その……この街で暮らしてた奴らが皆倒れっちまって、まだガスが出てる。だから……」


 レフィは先ほどまで整えていたはずの話すべきことをバラバラに話し始めてしまい、動揺する。そんな彼女を前にしても、実際の状況を見ることの出来ないフレイ達は事態を把握することは出来ない。見に行こうと下に向かえば、たちまち毒に侵されてしまう。

 ともかくレフィから話を聞き出さなければならないと判断したフレイは、彼女と目線を合わせるように屈み、冷静に一つ一つ自分達のするべきことを聞き出す。


「落ち着くんだ。下の詳しい状況は話してくれなくていいから、とりあえず俺達が何をすればいいか、それを教えてくれ」

「そう……だな。えと、まずこの人達を転送装置に運んでくれ。だから……さっきまでと同じ、そのままでいい」

「運ぶだけ、か。よし、じゃあとりあえずこの人達を廊下に出してしまおう」


 目先の状況を進ませられる最低限の情報を聞き出したフレイは、職員達に目配せし、エレベーターの中に倒れていた住民達を廊下に出して転送装置の方まで運びに行かせる。彼は自分もその陣頭に立ち、カスミと同様の力を使って次々と人を運んでいく。その最中、彼はレフィに段階的に状況を整理しようと問いを重ねた。


「カスミや君達は無事なのか?」

「あ、ああ。多分、この街で暮らしてた奴だけに効く毒みたいで……」

「なるほど。それなら下にいる職員達も全員……しかし、これだけなら特段急ぐ必要もないんじゃないか? 見たところ生きてはいるようだが……」

「それが、外から増援が来ててよ。そいつらが来るまでに運び終えなくっちゃいけねえんだ」

「それなら、エレベーターもすぐに下に戻した方が良いな」


 話を進めながらの作業は、下より人手があることもあってスムーズに進む。エレベーターに倒れている人がいなくなってスペースが生まれると、レフィはようやく冷静さを取り戻してきたのか、次の行動を自分で探し出す。


「オレ、もう一度下に戻る。アンタ達はこのまま、上にきた人達を運んでてやってくれ!」


 その場にいる者達に頼み込んだ後、すぐにレフィはエレベーターに乗り込み、その扉を閉じた。人を運ぶには非力だが、ガスの充満した下の階にいることができ、特異な力を持つ彼女だ。別にできることがあると判断しての事だろう。その姿を見送ったフレイは、娘達には過剰な心配を向けることはなく、目の前のことに集中して作業を再開し始めた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





(体を侵す毒素が分からない以上、処置は出来ない。何より人数が多すぎる……回復を待つしかない)


 右手に電話をかけている状態の携帯を持ちながら、メリーは監視室内にて、倒れている職員の状態を見る。周囲に倒れた彼らは、呼吸は正常、心拍も問題ないが、意識だけが戻ってこないという奇異な身体状況であった。その効力から、恐らくはコントロールされた毒素によるものだとメリーは考察するが、それに対処することは出来ないというのが結論だ。


(塔の全ての出入口を塞ぐシャッター。時間稼ぎになるかは分からないが……)


 自分の医学や薬学が太刀打ちできない状況にあると判断したメリーは、すぐさま思考の方向性を変え、監視室内でできることをし始める。監視室は、シャルペスの至る所に設置された監視カメラの映像をモニターする以外に、中央塔に備えられた最低限の防壁を稼働させる設備があった。シャルペスの住民達が自分達で移動できている間、それをあらかじめ確認していたメリーはそれを手早く稼働させていく。


(正面、裏もできた。が……食堂裏の駐車場に繋がるエレベーターか? こいつは(じか)に操作しないとといけないのか……仕方ない。それより……)


 監視室内で操作できるシャッターや中央エレベーター以外の移動に使われる装置の稼働を停止させたメリーは、次に出来る事を解消しようと顔を上げる。そんな中、彼女は既に電話をかけ始めてしばらく経った右手の携帯を睨んだ。


「どうして……何故出ない、フェイ……!?」


 メリーはカスミ達と別れてすぐ、既にカーダへ向かっていたフェイに連絡をしていた。意図は勿論、人手を少しでも要するシャルペスに戻ってもらい、助力してもらうためだ。だが、携帯は虚しく待機を告げる電子音を鳴らし続けていた。既にそうして二分は経っている。これまで冷静に物事を運んできたメリーの顔に、薄くはあるものの明確な恐怖が映り込む。


「まさか何かあったんじゃ……フェイ」


 手元で発信を続ける携帯の画面には、相手の連絡機にはしっかりと電波がいっている旨を伝える表示があった。それを目にしていたからこそ、メリーはそれを手に持っているはずのフェイに何事かあったのではないかと不安を覚えた。携帯を手に持つ彼女の手は、小刻みに震えている。


「……いや、今は私に出来る事を……」


 少しの間放心状態になってフェイの安否を憂いていたメリーだったが、すぐに今の状況を思い返すと、決死の覚悟で携帯の発信を切った。そして、先ほどに見つけた不安要素を潰すため、監視室内を飛び出す。

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