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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
シャルペス動乱編
299/391

入門

 日が昇り始め、空が青に染まっていく頃。レプト達一行はメニカルを抜け、シャルペスへと続く道を行っていた。彼らが搭乗しているのはニックに借り受けたトラックだ。荷を運ぶのを偽装するために拝借したトラックには、操縦室にフェイとメリー、後ろの(とばり)に包まれた荷台にレプト達四人がついている。明らかな子供が検問の際に顔を合わせては怪しまれると考えてのことだ。

 日差しを帳に遮られた薄暗い荷台にて、カスミは固い床に胡坐をかいて座っていた。彼女は居心地が悪そうに何度も姿勢を変えては、低い唸り声を上げて床を睨んでいる。


「……落ち着かないわ。メリーの持って来た車って便利だったのね。床にしか座れないってのがこんなに……くっ」


 足を組んだり、帳に背を預けたり、どうあがいても体が楽にならない不便な床にカスミは顔をしかめる。レプトはそんな彼女を目の端に置き、欠伸をしながら鬱陶しそうに手を振った。


「相変わらず短気だなぁ。別に長くこうしてるわけじゃねーんだしよぉ」

「う、うっさいわねぇ……別にいいじゃない」


 小さい文句を付けられたカスミは、自分の非が分かっているからか、反対する声を小さく上げた。


「まあ、カスミが落ち着かないのも無理ないんじゃない」


 小さく貧乏ゆすりをするカスミ、それ鬱陶しそうに横目で見ていたレプトにリュウが声をかける。彼はカスミの方を一瞥すると、自分達を乗せる車が向かう先に目を向けた。


「これから行くのは久しぶりの故郷なんだしさ。両親とも会うことになる。その時何話そうか~とか、考えることが色々なんでしょ」

「あぁ~……そういうもんか」


 カスミの状況を見てのリュウの発言に、レプトは納得したように腕を組む。カスミはというと、友人とはいえ自分の内情を見透かされたようなことを目の前で言われ、少し面倒そうに顔を背けていた。そんな彼女の空気を感じ取ってか、荷台の上で寝転がっていたレフィは空気を変えるようにバッと起き上がり、元気な声を上げる。


「そういえばよ、これからオレ達、カスミの母ちゃん父ちゃんに会うってことだよな? ちっと楽しみだよなぁ」

「ああ……確かに。僕のみたいな頭の固い人達かな」

「お前のお母さん達って、どんな人なんだ?」


 レフィの言葉を聞くと、レプトとリュウも同じように興味を煽られたらしい。自分達の両親のことを思い浮かべてそれぞれの反応を顔に浮かべながら、カスミに好奇心の宿った目を向ける。三人に同じように問われると、カスミは困ったように眉をハの字にした。


「別にこれっていうようなこともないかな。なんていうか……普通?」

「普通って……どんなだよ」


 両親を形容するのにカスミが使った普通という言葉にレフィが首を傾げる。記憶が無いためか、親という存在における普通を想像できなかったのだろう。改めて両親について問われた形となったカスミは、少し頬を赤くし、ゆっくりと答える。


「お母さんは優しくて、一緒にいると安心する。お父さんは少し鬱陶しいけど、たまに面白いし、一緒にいるのも悪くないかなって感じ。なんてゆーか……だから、普通なんじゃないかな。取り立てて言うようなことはないわよ。でもまあ、こうやって帰りたいって思うくらいには、いい家族……なのかな」


 カスミは身を小さくしながら自分の両親について話す。彼女の言葉は短いながらも、彼女が両親へ向ける感情をよく表していた。

 改めて自分の親への想いを他者に口にすることを恥ずかしく思い、顔を赤くしたカスミを見たレプトとレフィは、ニヤッといやらしく笑って彼女をからかうように目を見合わせる。


「お前もそういう顔すんだな」

「珍しいもん見れたぜ」

「……この馬鹿共」


 そろって自分を笑いものにしたレプトとレフィを見ると、カスミは直前までの恥に怒りを上塗りし、体の脇の拳を握り締める。その殺気に気付いた二人は、早口で交互に雑な言い訳を並べ、カスミの怒りから逃れようとする。

 騒々しい荷台の中、リュウはやかましい三人とは別次元で何やら独り言を呟いていた。どうやら先ほどのカスミの言葉を自分の両親に当てはめて考えようとしているらしい。


「一緒にいて安心する、か。う~んちょっと想像できないなぁ。特に……」


 リュウが首を傾げながら頭の中で想像を膨らませていた、そんな時だ。


「ん」


 リュウは自分が腰を落ち着ける荷台に伝わってくる振動の感触が変わったことを感じ、顔を上げた。直前までは小刻みな揺れが雑多に訪れていたのだが、それが今は一定の揺れに変わっている。人と車が踏みならしてつくった道から、舗装された道路に走る場所が変わったのだろう。それを感じると、リュウは一応という風に目の前で一悶着起こしそうな三人に報告する。


「そろそろだよ」


 身を寄せて体を震わせるレプトとレフィ、二人に拳を振り下ろそうとするカスミ、三人はリュウの言葉を聞き、冷静さを顔に宿す。カスミは一人、車が進む方向へと体を向けて呟くのだった。


「いよいよね」

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