待ちわびた再会
「つまり……フリューは近くにいて、ヨウもそれらしい奴は見かけた……ってことか」
ニックはイメイラに問われた人物について、知っている限りを話した。フリューが近くのリューゲル族の集落で暮らしていること、ついこの間に彼女と知り合いらしいレフィが近くを通りかかったこと。それらを聞いた真顔のイメイラは、適当な言葉で今の状況をまとめる。そして、それによって自分の目的が達成に近付いたことを改めて確認すると、直前までの虚無の顔が嘘のように飛び上がる。
「ぃよっしゃッ!!! ニック、だったよな。間違いないのか、今話したことはよぉッ!?」
「うん。ヨウって子に関しては断言できないけど、フリューに関しては間違いない、すぐ近くだ。今日中にも会いに行けるよ」
「マジかよクソ……クソ……」
イメイラは自分の仲間がすぐ近くにいることを知ると、その喜びに大きな笑みを浮かべ、両の拳を固めて震わせる。丸まった背は震え、目には涙が溜まっている。それほどまでに、過去の仲間との再会が嬉しいのだろう。その様子を目にしたフロウは、からかうようにイメイラの肩をつつく。
「なんて顔してんのよ。ああ、アンタ確かそのヨウって子が好きなんだっけ?」
「えうっ……ち、ちげえよッ!」
「えっそうなんですかッ!!?」
フロウの言葉に反応したのはミリィだ。彼女は好きとか恋とかいう言葉を聞くと、その瞬間目にもとまらぬ速さでイメイラに走り寄り、その小さい肩に両手を置く。そのまま彼女は荒い鼻息を出しながら、熱量のある言葉でイメイラを勇気づけようとする。
「イメイラ君、私応援しますよッ! その子とあなたが将来結ばれるように!」
「い、いやだから……そ、そういうんじゃ」
跳ねた声でイメイラの恋を応援しようとするミリィだったが、対するイメイラの反応は悪い。彼は赤くなった顔を下に向け、言葉になっていない声を小さく上げている。どうやら想いを向ける相手が今目の前にいるわけでもないのに恥ずかしく思っているようだ。だが、そんなことは彼の周囲を囲む女性二人の眼中に映らない。
「頑張りましょうね、私達と一緒にッ!」
「ふっ……この私が応援してやらないこともないわ」
自分達も恋をしているため、女性陣はイメイラのことを支えようという気持ちで合致する。自分の想いを誤魔化そうとしていたイメイラだったが、そんな二人を前にすると、顔を赤くしながらも小さくこくりと頷いた。
「うるせえよ……ありがとな」
素直な気持ちをのぞかせたイメイラに、フロウとミリィは顔を合わせ、ニッコリと笑顔を浮かべて親指を立てる。それに対して、イメイラも同じように二ッと歯を見せて笑うのだった。
そんな風に恋多き者達のやり取りに一段落が着いたと見ると、今度は鵺がイメイラに近付いていく。彼はこれから訪れるであろう仲間との再会に胸を躍らせて笑顔を浮かべるイメイラの後ろに立つと、その肩に手を置く。何事かとイメイラが顔を上げてみれば、鵺は薄く、そして優しい笑みを浮かべていた。
「よかったな、イメイラ」
鵺の素直な祝いの言葉に、その場にいたイメイラとフロウは目を丸くする。この一行の中では新入りになるミリィはそれに違和感を覚えることはなかったが、彼とある程度の時間を過ごした二人にとっては今のが異質に映ったのだろう。鵺は固く、誰かに柔い部分を見せる男ではなかったからだ。ただ、イメイラはその彼の意外な部分に驚いた後、それ以上に大きい感謝を思い出して笑顔を浮かべる。
「それもこれも、鵺が助けてくれたからだぜ」
「俺は何もしていない。成り行きだ」
「んなこと言うなよ。何から何まで、助かってるんだぜ、本当に」
顔を背ける鵺に、イメイラは純粋な感謝の言葉で返す。だが、鵺がこれ以上の返事をすることはなかった。代わりに、フロウがイメイラに絡んでくる。彼女は涙目になりながらイメイラの両肩に爪を立て、その体を強引に揺さぶる。
「こんのクソガキがッ!! 私はダーリンに、よかったな……なんて言われたことないのにぃッ!!」
「うぉぁッ……や、やめろよこの馬鹿女ッ!!」
「うるさいッ!! つか、金の面倒も居場所の面倒も私がみてるようなもんでしょうがッ! 私にも頭擦りつけて礼を言いなさいよぉぉぉッ!!!」
イメイラはこめかみをフロウに拳でぐりぐりと挟まれ、情けない悲鳴を上げながら身をよじる。そんな二人のやり取りを、ミリィは何とも言えない呆れた顔をしながら、ニックは興味深そうな目で見ていた。
そんな緩い空気の中、鵺は一人騒ぎから外れ、自分と連れ立っている者達を少し離れた所から俯瞰する。その時、彼は視界の端でこの場から離れていく人影を捉えた。それはテリーだった。彼は指に煙草を挟み、口から煙をくゆらせながらエレベーターの方に向かっている。
「…………はぁ」
テリーはその場にいる誰にも断りを入れることなく、ただ一人で外に出ようとしているようだ。その背には、苛立ちと焦りと、不安が混じっていた。エレベーターの扉が開くのですら遅いというように貧乏ゆすりをしていた彼は、それが開くとさっさと中に入り、他の者と顔を合わせることもなくエレベーターを動かす。
「…………」
騒がしいやり取りから離脱していた鵺は、そのテリーの背を注意深く観察し、彼が部屋から出ていくとそれを追うようにエレベーターに向かう。歩を進める彼の顔には、先ほどにイメイラに向けていた笑みからは程遠い冷めた無表情を浮かべていた。




