表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
ひねくれ魚人と逡巡の女研究者
240/391

予想外の温情

 リベンジの拠点にある建物の元へ、パートは一人でフェイ達三人を連れて向かった。穴の目立つ石材で作られた建物の周囲をテントに使われるような布で補強されていた拠点に入るまで、パートは一切口を開かなかった。同様にフェイ達も無用な諍いは避けるように口を閉ざしている。四人の間には重く鳴り響く雨の音だけがあった。

 二階まであるらしい建物の入り口に辿り着くと、パートは手近な仲間に外を見張るように指示をし、木製の扉を開く。木の板を黒い鉄の釘で継ぎ接ぎした観音開きの扉を開くと、中は薄暗い殺風景な内装が広がっていた。床や壁は石材が打ちっぱなしの状態であり、長く清掃をしていないのか、隅には黒ずみや埃溜まりが目立つ。まともな明かりもないのか、雨風に晒されてガタガタと音を鳴らしている窓からのぞく外からの光が唯一の部屋にある光源だ。そして、部屋の真ん中には茶色の木でできたテーブルと椅子がある。奥の壁には妙に状態の綺麗な棚が備え付けられていた。リベンジ達が滞在している間に使っているものなのだろう。手入れが行き届いている。


「適当に座ってくれ」


 パートは手早く三つの椅子を並べてフェイ達に示し、奥の棚に向かっていく。手首を縄で縛られた状態の三人はどうしたものかと顔を見合わせるが、この状況でわざわざ相手の言葉に抗う必要もないと考えると、すぐに椅子に座った。朽ちかけた木の椅子の軋む嫌な音が短く響く。


「さて、尋問だが……」


 奥の棚から何に使うのか意図の分からない布を何枚か取り出すと、パートはテーブルの方へと戻ってくる。彼は三人の向かいに座ると、その布をフェイに向かって投げ渡した。


「濡れただろ、使ってくれ」

「……? 尋問するんじゃないのか」


 思ってもいなかった突然の温情にフェイは目を丸くする。シフとジンも同様、予想もしていなかった敵の行動に目を見開いた。しかし、そんな二人の方にもパートは乾いた清潔な布を投げ渡す。そうしながら、彼はここまで三人を連れてきた意図を話した。


「必要ない。アンタ達がさっき話したことは嘘じゃないと思ってるからな」

「……じゃ、じゃあ何で放してくれなかったの? 僕達を捕まえておく意味はないはずだろ」

「さっきも言った。示しがつかないからだ。俺とセフが個人で捕まえたならまだしも、アンタ達の存在を他の多くの仲間が知っている。俺達の独断でアンタ達を逃がすと、そいつらに不審がられる」


 自分の分も用意していたらしい布を暗色の髪に押し付けながら、パートはため息交じりに語る。


「頭目、ソーンの指示となれば余計な反発を生むこともない。だから、アンタ達にはあの人がこっちに来るまで少し待っててもらう。安心しろ、ソーンはここにいる。部下にアンタ達のことを知らせるように言ったから、少ししたら来るはずだ」


 無気力な様子で口にされたパートの言葉に、フェイとシフは疑いを向ける。直前まで銃を突き付けてきた相手から、このまま待っているだけで済む、と言われても普通は信用できないだろう。雨に濡れた髪を拭く合間に二人の目を見て向けられている感情に気付いたのか、パートは肩を小さくすくめて弁明する。


「本当に待っててもらうだけだ。何もしない。俺はアンタ達……いや、鎖の元軍人さん。アンタを信用しているからな」

「俺を……?」


 急に名指しされたフェイは顔に浮かべていた疑いを更に強める。だが、それに構わずパートは続けた。


「さっき自分で言ってただろ。俺達を見逃したって。アレが原因さ」

「……その話をした時にお前はいなかったはずだ」

「無線で聞いてたんだよ。そんなことより……アンタには俺だけじゃなく、セフまで助けられた。それに、その時にアンタが言ってたことも的を射ていたしな」


 パートが言っているのは、セフとその部下達を挑発する目的でフェイが口にした口上の事だろう。今のパートの口ぶりから彼らとフェイの間に何かしらの繋がりがあったらしいことを察したシフとジンは、問い詰めるような目線を間にいるフェイに向ける。しかし、彼は二人に言葉で返すことはせず、拘束された手の上に乗せられた布を握り締めながらパートに真っ直ぐ視線を向ける。


「今度はお前らが俺達を見逃してくれるってわけか?」

「そんな所だ。アンタ達を捕まえとく理由も殺す理由もないしな」

「そうか。……助かる」

「必要なことをしてるだけだ」


 フェイの礼にパートはそっけなく答えて湿った布をテーブルに放りながら答える。彼は何ということもなさそうに首を振ると、「さて」と言って足を組んだ。今ので彼自身がフェイ達に伝えておきたいことは大方話し終えたらしく、彼は背もたれに体重を預けて欠伸をしている。どうやら本当に、ソーンというリベンジの頭目が来るまで待っているつもりらしい。シフとジンもわざわざ攻撃の意志を見せていない相手を刺激することもないかと同じように黙り込んだ。

 そんな中、フェイは目の前で目を閉じ眠って時間を潰そうと努めているパートに声をかける。


「おい、パート……だったな」

「まだ何か?」

「聞きたいことがある」


 フェイは前に身を乗り出し、一息置いてから改めて問いを口にした。


「お前達はどうして戦っているんだ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ