表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
ひねくれ魚人と逡巡の女研究者
232/391

束の間の平穏

「運転って意外に疲れんだな~……」


 メリーの車、その車内リビングに運転席のある方の廊下からレプトが頭を掻きながら入ってくる。ぼやきながら彼が足を踏み入れた部屋には、既にフォルンから脱した四人が休んでいた。とはいっても完全にくつろいでいるのはレフィとカスミだけで、リュウは負傷を気遣ってソファの上で体を横にし、メリーはその応急処置にあたっていた。


「すまないな。しばらくお前に任せてしまって」

「いや、リュウの治療があっただろ。それが最重要だって。……で、どうなんだ?」


 しばらく車を運転し、フォルンの街から離れるという役割を終えたレプトは手近な椅子に腰を下ろしながらリュウの容体を問う。何でもないようにしているが、ハンドルを握っている間、気が気じゃなかったのだろう。膝の間で指を合わせてはそわそわと動かしている。

 レプトの問いに、リュウは腕と足をかばいながら体を起こし、答える。


「問題ないよ。流石に痛まないとも十分動けるとも言えないけど、大分マシだ。ただ……少しの間は戦えないし、まともに歩けないかな。厄介だよ。ジッとしてるのは得意じゃないんだけどね」


 傷を労わることをまるで目の上のたん瘤かのように表現したリュウに、傍で彼を看ていたメリーとレフィが声を大きくする。


「馬鹿が、ジッとしてろ。マグロじゃあるまいし」

「そうだぜ! もし動こうとしやがったら、オレがリュウの足と床を溶接して止めてやる」

「……今より大分ひどいことになりそうだけど」


 冗談の脅し文句とはいえ、自分の足が溶けて鉄の床にくっついている様を想像したリュウは笑顔を引きつらせる。そんな二人の危機を乗り切ったからこその平穏なやり取りを目の端に、カスミは思い出したかのように目を見開いてレプトに問う。


「そういえば、アンタ達はどうやってあの場を切り抜けたのよ? 見た感じ、何十人も軍人がいたんだからそう簡単にいったとは思えないんだけど……」


 カスミの至極当然の疑問に、レプトはリュウの方を睨みながらため息交じりに答える。


「あそこが何とかなったのは、ま、大体リュウのおかげだ。最初、車の外を囲まれてたんだけどよ。こいつの名演技で、あのケールって強い奴と他の連中を別に出来てよ。俺がしてたのは、大体そっちの雑魚の相手だった」

「いや……。僕一人で何とかするって言ったのにやりきれなかった。そのせいでレフィが負わなくてもいい危険を背負ったし、僕は結構足引っ張ったと思うけど……」

「そりゃ謙遜しすぎだろ。俺なんて、車いじってクラクション鳴らしただけだぜ?」


 自分の功績を大したことなかったと表現するリュウに、合わせてレプトは自分のしてたことは楽なことだったと主張する。二人して何もしてないというように自分を卑下する言葉を口にする男二人に、レフィは頬を膨らませてあからさまに納得のいってなさそうな低い声を上げた。


「全員うまくやってただろ。リュウは囲まれてんのを切り抜ける策を考えてくれたし、レプトはあの女をどうやって倒すか考えてくれたしよ。それに、オレ一人じゃ他の連中にやられてたぜ」

「……自分でやりゃよかった所をお前に任せたんだぜ?」

「あの時自分で言ってたじゃねえか。遠くから攻撃できる力を持ってるオレが行った方が、あいつを騙しやすいって。適材適所……ってヤツだろ?」

「そうかも、しれねえがなぁ……」


 レフィの賞賛の言葉を素直に受け取る気にはなれないらしく、レプトは目をチラチラと逸らしながら頭を掻いている。自分だけが安全圏で作戦を実行したのを気にしているらしい。そんな彼のことをひっくるめて、最初に問いを投げたカスミは小さく笑ってからかうように言う。


「じゃ、アンタ達はあそこを団結の力ってヤツで切り抜けたのね」

「おうっ! それだぜカスミ。誰が欠けててもああはなってなかったな、うん」


 レフィは豪快に頷き、カスミの言葉を全肯定する。そんな彼女の元気そうな顔を見てか、レプトやリュウも顔を見合わせて肩をすくめて頷くのだった。

 さて、自分達の状況を話すと、気になってくるのはもう一方の組がどのように脱出劇を繰り広げたかだ。一定の説明を終えると、リュウが痛む体をクッションに深く預けながら問う。


「それで、そっちはどうだったの? 話に聞くネバって奴はこっちにいなかったし、寧ろ逃げるのが困難だったのはそっちだったと思うんだけど……」


 リュウの質問を受けると、アジト側にいたカスミとメリーは分かりやすくその視線を落とす。隠し事に直接触れられた時のような、後ろめたさを孕んだ反応だ。


「私達の方は……団結の力なんて程遠かったわ」


 話の枕に、自分達の方はひどかったと取れる言葉を置き、カスミは眉の間に指を当てる。思い出すだけでも苦痛なのだろうか。そんな彼女を気遣ってか、メリーが手を上げ、その時何が起こったかを語り始める。彼女の語り口は重く、そしてその内容も、皆に衝撃を与えるものだった。


「私が話すよ。こっちは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ