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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
ひねくれ魚人と逡巡の女研究者
221/391

上っ面

「……ということだ」

「なるほど。その、シフという子を助けるために、か」


 フェイはメリーからの連絡を受け、彼女達がどういう意図でフォルンに戻り、何をしようとしているのか、そして今彼に何を求めているのかまでの説明を受けた。話が一段落すると、メリーが電話の奥から小さく息を吐くのが聞こえてくる。


「今回は信じてくれるのか?」

「いや、まだ十割信じるとは言えないな」

「そうか……」


 信じられるか、メリーやジンが散々フェイに問いかけてきた言葉だ。対して、彼は常に信じられないと答えてきた。今回も同様にフェイは自分の素直な気持ちを口にする。そのまま、彼は思う所を隠さずにメリーに伝えようと言葉を続けた。


「ただ、その話が事実かどうかなんて、正直関係ないと……最近思ってきたんだ」

「どういうことだ?」

「……俺がしたいことをする。守りたいものを守る。そのために必要なら……何を敵に回してもいいと、そう思ってるんだ」

「…………」


 フェイは連絡機の奥のメリーが沈黙しているのに遅れて気付き、自分が妙なことを口走ったんじゃないかと前言を誤魔化すように早口になる。


「自棄になってるのかもな。最近は忙しすぎた。レプト達を追ってるかと思えば、リベレーションの襲撃に備えることになるし、怪我するし……」

「怪我……怪我!? フェイお前、怪我したのか!」


 フェイが近頃の多忙な日々を振り返っていた所、メリーが急に高い声を上げた。まるでゴキブリでも見つけたかのような激しい動揺を含んだ声だ。メリーの心配心に火を付けてしまったらしいことに後から気付いたフェイは、すぐにメリーを落ち着かせようと平常の声を保つ。


「した。リベンジの襲撃を受けた時にな」

「大丈夫なのか? ちゃんと医者には診せたんだろうな?」

「問題ない。今はもう、動くのに不十分はないくらいだ。大人しくしてれば完治する」

「……そうか、ならよかった」


 繕う所のないフェイの言葉を耳にメリーは冷静さを取り戻す。激しい不安感を拭われると、すぐに彼女は電話をかけた当初の目的を思い出し、その本題に入ろうとした。


「それで、結局そっちの軍人達は……」


 しかし、その時だ。フェイの耳に、外の廊下を歩く音が入ってくる。一人分だ。その足音はフェイが一人ベッドに横たわっている病室の扉、そのすぐ前で止まった。


「少し切る」


 フェイは手短に小声でそう伝えると、通話を切断する。そして手早く連絡機を枕の下に隠そうとした。だが、フェイが隠し事を終える前に病室の扉が動き始める。中にいる病人に気遣ってか静かにではあるが、素早く扉は開かれた。


「一体誰と話していた?」


 廊下から室内を覗き込んだのは、ケールだ。彼女は引戸の扉を開け放つと、頭から病室に入り、ベッドのフェイを見据えた。扉を開ければ部屋の全貌をすぐ見渡すことの出来る構造になっている病室で、フェイは連絡機を隠すことが出来なかった。それは、下半身を覆う掛布団の上に置かれた彼の手、そこに握られている。


「友人だ。昔からのな。お前のせいで途中で切ることになっちまったがな」

「それはすまなかった。別に、続けていてもらって構わなかったのだが……」


 フェイは必要最低限の言葉を選び、追及を避けようとする。ケールは彼のその言葉を受けると、適当な返事を返し、つかつかと音を立てて病室の中心まで入ってくる。彼女の目線は足を動かすのと同時に動き、ジッとフェイを見据えている。


「……はぁ」


 以前に引き続いてケールから疑われている中、フェイは大きくため息を吐き、もしもの時のために大胆にも携帯連絡機を裸のまま操作する。ケールの視界に映らぬよう隠すようなことはせず、彼女の見ている中でだ。制止の声はかからない。来客に視線を集めるよりも、手元のケータイをいじるという行為がケールの中で自然に見えたのだろうか。


「一応、通話履歴を見せてもらえないか?」


 フェイに裏切り者とされているジンとの関係を疑うケールは、先の質問に次ぎ、こう要請した。この頼みに流石にフェイは動揺したのか、ケールの方を見上げる。


「……ケール。お前正気か? 同僚のスマフォの通話履歴なんて見てどうする?」

「別に減るものでもないしいいだろう。私は今でもお前を疑っている。ハッキリさせておきたいんだ。同僚を信用するためにな。なんなら、私のを見せてやってもいい。見られて困るようなものは何もないからな」

「そういう問題じゃないが……まあ、いいだろう」


 ケールは何かと理由を付けてフェイが誰に連絡を取っていたのかを確認しようとしている。それに対し、フェイは粘り過ぎず、適当な所で頼みを受け入れた。彼は手に持っていた連絡機をケールに投げ渡す。


「……ん」


 フェイから連絡機を渡されると、ケールは手早く操作し、彼が直前に誰に連絡を取っていたのかを確認した。直近の通話履歴の名前に上がっていたのは、ニック、という名前だった。


「このニックというのが、お前の友人か?」

「そうだ」

「……杞憂だったらしい。すまなかったな。それと、これから私達がどうするかだが……」


 必要な事項を確認し終えると、ケールは連絡機をもらった時と同じようにフェイに投げ渡す。同時に、彼女はここに来た元の目的を果たす。目的とは、彼女達含めた軍人達がこれからどう行動するかの報告だ。


「ネバ大将はもうこの街を去り、都に戻った。だが、大事を取って私達の部隊は二週間ここに残って警備をすることになった。お前も怪我が治れば加わってくれ。報告は以上だ」


 通常、失礼ともとれる頼みをしたのにも関わらず、ケールは淡泊に言葉を切り、フェイに背を向けた。そんな彼女にフェイも同様、無味無臭の感謝の言葉を投げかけ、病室から去るのを見送った。

 ケールが廊下に出て、扉が閉まる。そして、彼女が廊下を歩く音にフェイは耳を澄ませる。そして、それが完全に聞こえなくなったタイミングから更に十秒ほど経過した時、彼は手に持った連絡機を操作し、メリー達へ折り返しの電話をかけた。

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