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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
ひねくれ魚人と逡巡の女研究者
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闇夜の不法侵入

 陽が沈み切って空が暗くなり、それからしばらく時間が過ぎた頃。街の営みが静まってくる時分に、レプト達一行はメリーを先頭にして街外れの丘に向かって歩いていた。林に乱立する黒く染まった木々の間を縫い、目的の廃墟まで七人は向かっていく。


「……暗いなぁ……落ち着かねぇ」


 一行の中でも最後尾を歩いていたレフィは、周囲の至る所に存在する濃く黒い影に逐一目をやっては歩調を落としている。茂みや木の陰、そういったところに何かしらが潜んでいないかと身を震わせているのだ。


「なに、レフィ。アンタもしかしてビビってんの?」

「えっ! な、なわけねえだろカスミ? ビビるっていっても、何を怖がるんだよ。幽霊とかいるわけねえんだしな……」

「私、幽霊なんて一言も言ってないけど?」

「えっ……う、うるせえよ!」


 仲間と会話し始めた気の緩みから、レフィは思わず自分の考えを口にしてしまう。その隙を、カスミはいやらしい笑みで指摘する。レフィはその指摘に歩みを完全に止め、吠えて否定した。

 そんな二人のやり取りを気にせず、一行の歩は進む。


「着いた。ひどい有様だな」


 街を抜けてから十数分ほど経過したタイミングで、七人は目的地の廃墟に辿り着く。先頭を歩いていたメリーは荒廃した研究所を見上げ、その様子に顔をしかめる。変色して元の色を失ったコンクリートはどこかしこも欠け落ち、植物が張り付いている箇所すら存在している。長い間人の手が加わっていなかったという証拠だろう。


「手筈通りにいけば五人で入る予定だが……レフィ」

「はいっ」


 レフィは声がかかると、ビクッと立ち姿を正して返事をする。その様子を振り返って見ていたメリーは一瞬吹き出しそうになりながらも、話を続ける。


「中は外より暗い。月の光がない分な。非常用電源でも見つければ話は別だが……」

「あっ、ああ……それで、何だよ」

「……リュウとジンだけでは不安だから、外で見張っていてくれ。いないとは思うが、私達以外に入ってこようとする奴らがいるかもしれない。中には四人でいく。それでいいか?」


 メリーの提案は、分かりやすくレフィを気遣ったものだった。しかし、気遣われている側であるレフィはそれに気付いていないのか、強がりからの乾いた笑いを上げ、妙にはねた声でメリーの話を受け入れる。


「あ、ああそうだな。二人だけだと不安だろうからなあ。オレも外で見張ってるぜ。メリー達は安心して中を探っててくれよ」

「…………」

(こいつ可愛げがあるな……)


 空元気で声を跳ねさせているレフィの様子に不意を突かれ、メリーは顔をほころばせる。ただ、そうして気を緩めすぎるのもまずいと考えてか、彼女は廃墟の方を振り返り、気持ちを入れ替える。


「それじゃ、行くか」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 メリー、レプト、カスミ、そしてシフは四人並んで廃墟の外周を歩き回り、その入り口を探していた。


「入れる所あるのかしら?」

「変な建物、だよね。もし入り口すらなかったら……」


 正面の方から回っていって四方の内二辺を回った時、廃墟の構造に違和感を覚えたカスミとシフが声を上げる。探索を始めようというのに、まずその場に入れていないという今の状況に多少の焦りを感じているのだろう。カスミはまだしも、命のかかっているシフのその感情は強いだろう。そんな二人に、メリーは落ち着いた声で返す。


「こういう所にある研究所は大体こんな感じだ。中の転送装置で人もものも外とやり取りできるから、非常口くらいしか用意しないんだよ。……っと、言ってるそばからだ」


 言いながら先頭を歩くメリーの前に、丁度廃墟の入り口が現れる。元は青色だったのだろう薄汚れた鈍色の扉がそこにはあった。金属製のドアノブは所々植物のツタが絡み、薄く錆び付いている部分がある。

 扉を見つけるなり、メリーはガチャガチャとドアノブを回す。しかし、ドアは開かない。少しの間乱暴にドアノブを回そうとメリーは努力するが、しばらくして彼女はため息を吐きながら扉から離れる。


「あ~……カスミ、壊してくれ」

「えっ、大丈夫なの?」

「流石に入ってすぐの所に精密機械なんて置かれてないだろ。やっちまえ」


 考えるのが面倒になったのか、メリーは扉を指し示してカスミにその開放を任せる。


「あっそう? オッケー」


 了解がとれると、カスミは拳の骨を鳴らして意気込む。その直後、劣化した扉に向かって彼女は右の足で前蹴りを放った。耳を殴るような鈍重な金属音が鳴り響くと同時に、金属の扉がその役割を強奪された。留め具のネジなどの小物が飛び散り、扉本体は研究所内に放り出される。一息の間に一行の進路を阻む壁は消え失せるのだった。

 開かれた扉の奥には暗闇が広がっている。メリーは以前彼女のアジトでまとめた道具を詰めたバッグの中から懐中電灯を取り出すと、その電気を点け、先頭を切って中に進んでいく。


「ノックにはうるさすぎたかしら」

「いいんじゃねえの? 派手で」


 カスミとレプトは呑気な姿勢で建物内の暗闇へ踏み込み、メリーの後に続く。


(手の骨鳴らしたのに、蹴りで開けるんだ……)


 そんな中、扉が蹴り開けられたことに多少の困惑を覚えていたシフは遅れて三人の後をついていくのだった。

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