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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
ひねくれ魚人と逡巡の女研究者
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険悪

 メリーはシフとの言い合いを軽く終えると、車内最前方の運転室に向かった。部屋の中に入ると、ジンが一人、運転室でハンドルを握っていた。メリーはそんな彼の背に声をかけながら、隣の助手席に腰かける。


「調子はどうだ」

「フォルンに入った。ただ、気がかりなことがある」

「なんだ」


 ジンはハンドルを右手で操作しながら、左手で窓の外を指し示す。窓外は既に背の高い灰色の建物を多く映し、街に入ったことを示している。整えられた車道はあるものの、車の通りが多いという訳ではない。人の通りが少し少なめなだけの普通の街並みだ。特にこれといって目が付くものもなく、メリーにはジンが指し示すものが分からない。


「分からん。気がかりとは一体?」


 自分の目で探すのを諦め、メリーは口にて問う。


「街の高所に見張りの軍人がいた。外を広く警戒しているようだ。何かあるかもしれない」

「なるほど。……行く先々で面倒に見舞われるな」

「まったくだ。お前のアジトに行ってさっさと用件を済ませるぞ」


 会話を最低限に、ジンはアクセルを強めに踏み込んで車を走らせる。メリーも彼との会話を長くするつもりはないらしく、必要なことだけ確認を終えると、さっさと窓の外の景色だけを目に入れるのだった。彼女はサイドガラスに頭を寄りかからせながら、灰色の空を見上げる。


(……シフのが済んで、カスミも故郷に帰したら……そろそろどう対処するか考えるか)


 済んだ瞳で見上げる空は雲に覆われ、青空が隠されていた。気分を押さえつけるような重い曇天が街を包み込んでいる。


「お前の言った場所まで着いたぞ。それで、ここからは歩きか?」


 メリーが呆けた顔で窓の外を眺めている内に幾ばくかの時間が過ぎたらしい。ジンは車道の端に車を停め、ハンドルを指で軽く叩きながらメリーの返答を待っている。


「……ああ。歩いてすぐの所にある。さっさと済ませよう」


 気の抜けた状態からジンの言葉でハッとしたメリーは、一瞬の間を置いた後、ゆっくりと腰を上げた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 メリーのアジトに向かったのは、メリー、カスミ、ジンの三人だ。街で何か起きていることを察していたジンはレプトとリュウ、そしてレフィとシフを車に残らせ、もしもの時の対応を任せたのだ。予め近場まで来ていた一行はメリーを先頭にしてフォルンの路地を歩く。細く人気のない路地を早足で進むと、三人ははすぐに目的地に辿り着いた。

 メリーのアジトだという場所は、以前に彼女が逃げ場所として提供した建物と外観がほとんど同一だった。メリー曰く、一斉にアジトの建設を複数個所に行ったため、同じ形で済ませたとのことらしい。

 アジトの入口の前に辿り着くと、メリーは懐から鍵を取り出して扉を開く。彼女は後ろの二人に構わずさっさと中に入り、用を済ませようと奥へと向かっていく。ジンもそれに続いた。最後尾のカスミは他人の家屋に立ち入る多少の緊張で歩を進めるのを躊躇いつつも、二人の背に遅れないようついていく。


「…………ん?」


 アジトの中に入ってすぐ、カスミは首を傾げる。先に入ったメリーが電気を点け、中をすぐに見渡すことが出来た彼女は以前に訪れた場所との違いに気付いたのだ。


「随分整ってるのね」


 白い床が見える。フェルセのアジトはメリーの私物が散乱して足の踏み場を探さなければならないほどだったが、今三人のいる場所はそんなことがない。壁端には背の揃った本棚が並べられ、中央には質素なテーブルと三台の椅子がある。台所やそれと隣り合わせて置かれた冷蔵庫などを見るに、リビングを想定された部屋だろう。長く空けていたのか全体的に埃を被ってはいるが、それでもここに住んでいた者が乱雑なものの扱いはしないだろうとは分かる。


「まあ、私も変わったからな。さ、目的は二階だ」


 カスミの一言を耳に留めたのか、部屋の奥にいたメリーが言葉を返す。そんな彼女の目前には木製の扉があった。その先を行けば二階へ行けるのだろう。


「……ガサツになったのね」

「違う。今と昔が几帳面で、一時期ガサツだっただけだ」

「大丈夫よ、仲間の前で無理しなくてもいいって」

「無理してないわ。っていうかお前の方がガサツだろ。この前食器ダメにしてたの見てたからな」

「あっ、アレはレプトにムカつくこと言われてつい強く握ったら割れちゃっただけで……あの皿が脆いのがいけないのよ!」


 足早に用事を済ませようとしていたメリーだったが、カスミに絡まれて足を止める。カスミの方もメリーの言葉に取り合い、声を大きくして返す。


「おい、早く済ませるぞ」


 メリーとカスミの軽い言い合いを、ジンが真剣な口調で止める。半ば叱るような声を出した彼の表情には若干の焦燥があった。小さく貧乏ゆすりをしている。


「……悪かったわ」

「チッ……軽いじゃれ合いだろうが。つまらない奴だ」


 カスミはジンの言葉に静かに従うが、メリーは明らかに気分を害している。わざととしか思えないほど大きく舌打ちをした彼女は二人に背を向けて扉を開き、そのまま奥に見える階段を上がっていく。


(空気悪……この二人って本気で仲悪いわね)


 メリーに続いて階段を上がるジン、二人の背を同時に目に収めたカスミは呆れをそのままため息にする。以前から分かり切っていたことではあったが、ジンとメリーは不仲だ。そこにはメリーとシフのような、言い合いをする仲、のような絆も一切感じない。それを何とはなしに察していたカスミは、二人の仲を刺激することは避け、黙って二人の後に続くのだった。

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