追手
日中の間でも影の覆う面が多く、その影で喧騒が多く発生する治安の悪い街があった。日が昇り始めてしばらく経っていたが、その街は未だに夜を一部に残しているかのようだ。街を歩く人々の表情にも陰りが多い。
そんな街の通りに一人、周囲の人間達とは違った雰囲気を持った青年が歩いていた。背が高く顔立ちは良いが、常に険しい表情をして辺りを見渡しているためか、目で追いづらい雰囲気を纏っている。だが、青年は周囲の様子に全く構うことなく通りの真ん中を闊歩している。
近寄りがたい雰囲気を持つ青年だったが、そんな彼の元に同い年くらいの一人の男が走り寄ってくる。
「フェイさん、見つかりましたよ!」
男は少し息を早くしながら高い声色で青年に声をかける。
「見つかった? その目で確認したのか?」
フェイと呼ばれた青年は、興奮している男を諫めるように問う。すると、男の方は少しだけ身を縮め、最初より声を小さくして返答する。
「ああ、その……姿を見たというわけじゃないんですが……」
「そうか。だが、その様子を見るに、どう考えてもそれとしか思えないレベルの情報は手に入れたんだろう?」
フェイの問いに、再び男は表情に活気を取り戻して大きく頷く。
「ええ! 間違いないです。彼らはこの街の、それもここから少し歩いたところの宿で泊まっていたらしいと聞き込みから推測できました」
「場所まで分かっているのか。よし、その宿の周辺を見回るように他にも伝えろ」
何かを探しているらしいフェイは、目的のものが近場にあることを知るとすぐに行動を起こそうと歩き始める。だが、そんな彼の背を再び男が呼び止める。
「ちょっと待ってください」
「なんだ? まだ何かあるのか」
「ええ。今回は以前までの彼らの様子と少し違う所がありまして……少女を連れているようです」
「……なに?」
男の言葉にフェイは足を止め、首を傾げて聞き直す。
「どうも十四、五歳くらいの女の子を連れているようです。これは複数人が聞き込みでそう言っていましたから、まず間違いないと思います」
「なるほど……だが、彼らではあるんだろう?」
「ええ、そこは間違いないと」
「……なら、さっきの指示のままで構わない。俺達も行くぞ」
フェイは男の追加した情報に動揺することはなく、動きは変えないと宣言して再度ある木田宇s。彼の目には、何かしらの決意の光が含まれていた。誰もが持ち得るようなものではない強い光だ。その光を目に、彼は一言呟く。
「必ず連れ戻してみせる。……ジンさん」
フェイの足取りは早く、それでいて確かな重みをもっていた。




