大人げないやり方
レプト達三人が人攫いの男達から女性達を解放し、しばらく経った。既に日は落ち、黒い影が街を覆っている。月は天高くに光り輝いているが、その光は昼間の太陽と同じように多くの建物に遮られ、街の通りはひどく暗い。元は治安の悪いこの街だったが、夜はそもそもの人の通り非常に少なく、静かだった。夜の闇は犯罪の温床だ。治安の悪いこの街に住む者達は誰よりもそれを理解し、外に出ないようにしているのだろう。
そんな街の、比較的明るい通りにある宿の中、不審な恰好をした三人の人物が受付に向かっていた。その三人の内の一番大きい一人が、受付の若い女に話しかけている。
「泊まらせてくれ。二部屋で頼む」
「は、はい。かしこまりました……」
不審な恰好の三人とは、もちろんレプト達三人のことだ。彼らは人攫いの男達を追い払った後で泊まる場所を探した結果、この場所にたどり着いたらしい。
今はジンが受付と話をしている最中だったが、受付はどうやら落ち着かない様子で三人の様子をうかがっている。恐らくあまりにも奇異な見た目をした三人の様子が気になっているのだろうが、ジンはそれには気付かず彼女に問う。
「どうしたんだ? 部屋がないのか?」
「あ、いえ、そうではなく……。その、こちらでは万が一の危険な状況を避けるために、最低限の信用を示していただく必要がありまして……」
「はあ、なるほど?」
「その、お顔を拝見させてもらってもよろしいでしょうか? あなた様が、後ろのお子さん達の保護者……で間違いありませんよね。あなた様だけでもいいので、お願いします」
ジンは至って普通に宿の手続きを済ませようとしていた。そんな彼の様子を後ろの離れた所から見ているカスミは、少しだけ不愉快そうに口をとがらせる。
「お子さんって……私そんな子供じゃないわよ」
「ま、お前は小さいからな」
「はぁ?」
カスミの一言にレプトは不要なはずの絡みをする。それを受けて、彼女は分かりやすく不機嫌になってレプトに向かう。
「アンタだって私とほとんど変わらないでしょうが」
「でもお前よりは上だ」
「ああ? そりゃ女と男じゃ体に違いがあるからでしょうよ。レプト、アンタいくつよ」
「歳か? 数えてない」
「……まあ私と同じくらいでしょ。でも、もしそうだったとしたらアンタは他の同い年の男の子よりも絶対チビよ。私のこと小さいとか言ってらんないわね」
「うるせえなあ。背のことなんか気にしたことねーよ俺は」
「じゃあ何で私に絡んできたのよ」
悉く言葉を受け流され、カスミは更に不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。それに対し、レプトは「別に」とまた適当な言葉で答えて終わらせ、ジンの方に視線をやってしまう。本当にただの気まぐれか何かでちょっかいをかけてきたのだろう。それが気に入らず、カスミはレプトの背に舌を突き出すのだった。
二人がそんなことをしていると、ジンが受付との話を終えたらしい。フードはかぶったままだ。既に受付に顔を見せたらしい。彼は戻ってくると、二人に一つの鍵を差し出して言う。
「お前達で一部屋、俺で一部屋だ」
「「……はっ?」」
ジンの言葉に、レプトとカスミは同時に呆けた声を上げる。当然と言えば当然だろう。ジンは急に男女で一部屋使ってくれと言い出したのだから。二人共、まくしたてるようにジンに言葉をぶつける。
「何考えてんだよジン。こういう時は普通俺達が一緒だろ」
「そうよ。いきなりこんな……」
だが、二人に最後まで言わせず、ジンが断固とした口調で返す。
「俺は疲れたんだ、ガキの面倒を見ながら休むなんて御免なんだよ。そうでなくても今日はお前達に振り回されてそれどころじゃないんだ。今みたいに騒がれて寝れないなんてのも困るからな」
ジンは静かに休みたいの一点張りで、二人の言い分を聞く気は全くなさそうだった。そんな彼に、レプトとカスミはどう言葉を返していいものかと黙り込んでしまう。
そんな中で、後ろで会話を聞いていたらしい受付の女性が、おずおずとジンに声をかける。
「あの、お言葉ですが……流石にお子さん達の意見を聞いてあげては? 多分、プライベートとか気にしだす年頃ですし……」
受付の女性が言っていることは至極真っ当なことだった。というよりも、ジンのやろうとしていることがあまりにも自己中心的過ぎるというだけではあるが。
しかし、そんな正論を受けてもジンは自分の意志を曲げる気はないらしい。女性の方へ振り返り、人差し指を立てて言う。
「商売ってのは客側と店側の信頼があって成り立つことだ。だから客が文句を言いすぎるのも、店が求めすぎるのも違う。言っていることが分かるか? 俺達の問題に首を突っ込まないでくれ」
疲れからか大分イライラしているジンは受付という赤の他人にさえ強めの言葉を使う。そして、言い切ると後の状況に構わずさっさと泊まる部屋がある二階へと去って行ってしまう。
「あ~……悪かった、すまん。大分イライラしてるんだ、あいつ」
ジンの背が見えなくなると、レプトはすぐに受付の女性に先ほどの彼の態度を謝罪する。彼女は先のジンの言葉に少し驚いていたようだったが、レプトの謝罪を受けると苦笑いをして「大丈夫です」と首を振った。




