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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
交差する縁
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接敵

「それで、軍人やその妙なシンギュラーの少年が現れるというのが……」

「この辺ってことか」


 フロウを連れたレプト達と合流したリュウ、カスミ、ジンの三人は、フロウとスラムにいた老人の頼みについて通りを歩きながら共有を受ける。フロウを先頭にしてスラムをしばらく歩きながら説明を受けていると、いつの間にか目的地だというエリアにまで辿り着いていた。


「ここが? なんか、人通りが全然ないわね」


 カスミは周囲を見渡し、先ほどの暴力性という異常とはまた違う異様について口にする。フロウが一行を案内した場所には、往来に先ほどまで絶えず存在していた人通りがなかった。路上に座る浮浪者も辺りには見当たらない。一切だ。過ぎた閑散さに不気味さを覚えるほど、周囲に音はない。

 カスミの言葉を耳に捉えたフロウは、一応、という様子で説明をする。


「私にこの仕事を頼んだあのジジイはこの街の長老なのよ。あいつが、ここら一帯の連中に避難命令を出してたのね」

「……他人の言う事を聞くような連中なの? ここの奴らって」

「まあ、脳に火薬と欲を詰めたような馬鹿な連中が多いけど、だからこそ、自分が絶対に敵わない相手には従順なのよ。今回の事はここにいた奴らに利のあることだしね」


 危険を前に、スラムの長老が避難命令を出していたのだとフロウは説明する。異常な暴力性を持っているのに、何故かある部分では一様に動きを同じくする秩序もこの街は持っているようだ。レプト達にとっては、自分達がそんな場所で生活したことが無いために想像がつかない。

 スラムについての話を脇に置き、フロウは今回の問題解決に必要な情報を説明し始める。


「んで、この街の話はどうでもいいのよ。……軍人どもはここに何かを探しに来てるみたいでね。近くに拠点を置いて、人をスラムに送ってきてる。何か妙な道具を持ってるって話で……ん?」


 説明の途中、進めていた足をフロウは前触れなく止める。スラムの案内を彼女に任せていた一行は、急に進行が止まったのを疑問に思い、道の前方へと目をやった。


「噂をすれば、ってヤツね」


 皆が向かう道の先に目をやった時、フロウは口元に笑みを浮かべて呟く。

 七人が目に留めたのは、一行が歩いていた通り、その前方からこちらに向かってくる三人分の人影だ。彼らは遠目でも判別のつく黒い制服を一様に身に纏っていた。その制服は、エルフの里でフューザーの引き連れていた軍人達が着ていたものと同じものだ。


「隠れるぞ……!」


 声を抑えながらジンは一行に指示を出す。彼と手近な所にいたレプト、カスミ、メリーは共に左側に伸びる路地へと目立たないように身を隠す。レフィとリュウは、フロウと共に右に向かう路地に息を潜めた。

 説明の途中で分断されたフロウは、自分の近くにいる二人に向かってくる軍人を示して話を続ける。


「多分、三人くらいの小グループでここら一帯を捜索してるってとこかしら……」


 目の前を歩く軍人達はほんの一部らしい。フロウ達が入った路地と向かい合うように伸びる路地に入ったジンは、遠くから次第に近付いてくる軍人達の様子を見てどう動くかを決める。


(三人……なら、二人を無力化して、一人に情報を吐かせるか)


 ジンは方針を決めると、後ろにいるレプトに二人で軍人達を無力化しようと手の動きだけで指示を出す。ハンドサインを受けたレプトは、発覚の危険を避けるよう無言でうなずいた。

 最初は数十メートル先から歩いてきた三人の軍人達が、いつしかレプト達が隠れる路地のすぐ目の前辺りにまで来ていた。ベストの距離感、呼吸の合うタイミングを見つけ、それが来るとジンはレプトと共に路地を飛び出す。


「なっ……!」


 三人の軍人達は急に現れたレプトとジンを目にすると、驚愕で身を固める。その隙を突き、レプトとジンはその強靱な腕力で一人ずつ手近な場所にいた軍人の首と腹をそれぞれ殴った。二人の攻撃は軍人の意識を一瞬にして刈り取る。その場に三人いた軍人は、一つ息をする間に一人になった。


「な、何が……!」


 残された一人は未だに状況を消化しきれずにいた。すぐ両脇で仲間が倒れたのに、何も出来ずにいる。そんな彼の首根っこを、ジンはグイと掴んで地面に引き倒した。


「ぐあっ……!」


 地面に首を打ちつけられた痛みによる男の低い悲鳴を最後に、通りには静けさが広がる。小さい急場の解消を傍から見ていたメリー達は、周囲に別の軍人がいないかを警戒しながら通りに身を出す。


「お見事ね。手伝いを頼んで正解だったわ」


 一行の中でも特に余裕を持った様子のフロウが、わざとらしく手を叩いて軍人を押さえつけたままのジンに歩み寄りながらそう言う。彼のすぐ隣にいたレプトは、あからさまに顔をしかめて彼女に向かった。


「何とも思ってねえ誉め言葉なんていらねえんだよ」

「あらそう? じゃ、報酬でもないんだしお世辞はこれくらいにしておくわ」

「……チッ」


 レプトの神経を煽るような言葉を意図的に選び、フロウは笑う。どうやら先の言葉は心の底から思ってのことではないらしい。レプトは遠回しにそれを伝えてきた彼女に対し、舌打ちで返して顔を俯けた。

 そんな二人のやり取りを傍目に、軍人を押さえつけていたジンはその手の下にいる男に高圧的な口調で問う。


「おい、質問に答えてもらうぞ」

「ぐっ……アンタは、しばらく前まで軍にいた……」

「黙れ。俺のことはどうでもいい。こちらの質問にだけ答えていればいいんだ。抵抗すれば、必要のない苦しみを味わうことになる」


 自分のことを詮索しようとしてくる男に、口答えは許さないとジンは言葉で示し、余計に力を加えた。実力では絶対に敵わないと先のやり取りで理解した軍人は、何も出来ずにいるこの状況に歯を食いしばりながらも、抵抗を諦めた。


「……分かった。何が知りたいんだ」

「よし、ではまず……お前達はここで何をしていた」


 ジンは軍人達の目的を見定めようと、尋問を始めた。

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