権力すら招く力
「迷いなく真っ直ぐ進めた刀には、血の跡すら残らない。あなたの振るう刀が、力が、純粋なものであるという証拠です」
リュウはロンのことを絶賛する。その言葉は、いつしかテツがレフィに話した彼の考え方を強く投影しているようだ。刀は、心を表すという考え方だ。
リュウの誉め言葉を受けたロンは、鼻で笑い、刀を鞘に納めながら言葉を返す。
「それ、どこの御伽話よ。私はそんな褒められたもんじゃないわ。刀を無駄に傷つけたくないって思ってたらこうなってただけよ、んもう」
ロンは冗談めかした謙遜でリュウの言葉を受け流すと、思い出したように周囲を見渡した。二人の周りには、依然として気を失った男達が転がっている。
「こんな所で話すのもアレよね。それに、私には用があるし……えっと、あなたは……」
「リュウです。私も、たまたま通りがかっただけですので」
二人は元にしていたことを各々で思い出したらしい。リュウはジン達と共に車の補給でここに訪れ、ロンはまた別の目的でここに来ていたようだ。暴徒の襲撃のせいで互いに忘れていたが、話すような用事は互いにない。
「そう。じゃあ、さっきはありがとね。この恩はいつかまた会った時に返すとするわ」
「恩と言うほどの事では……ただ、また会った時はゆっくりと話せるといいですね」
「そうね。じゃあ、また」
軽く別れの挨拶を交わし、ロンは通りに転がった男達を跨いで人が行き交う中に消えていく。周囲の人々は彼を避けるように道を空けたが、彼は一切それを気にする様子はなく、ただ歩いて離れていく。リュウはその背を、見えなくなるまで見送った。
一応は手助けをした間柄ではあるが、驚くほどに違和感なく会話をしていたことにリュウは後から気付く。考えてみれば不自然だ。互いに名前も知らなかった状態なのに、普通ここまで自然に話すことが出来るだろうか。
「不思議な人だった……。あの人と、少し似てるか?」
リュウは考えをそのまま口に出し、目を細める。彼の思い浮かべた人間は、フロウだ。リュウは二人に感覚でしかないが共通するものを見た。以前、彼はフロウと自分に似たものを感じると言っていたが、ロンも同じように感じるのだろうか。
(まあ、会う機会があるかも分からないし、深く考えることでもないか……)
リュウは思考を停止し、体から力を抜いて息を吐いた。
「リュウ!」
「ん、ああ、カスミ。ジンも」
ロンとのやり取りを終えたタイミングで、見計らっていたかのようにカスミとジンが通りに現れた。リュウは自分に近付いてくる二人にこれまで何をしていたのかを問う。
「車の補給はもう終わったのかい?」
「とっくだ。奴が暴れ始める頃にはな」
「奴……ロンって人のこと? じゃあ、それからは?」
「それがさ……」
リュウの問いに対し、カスミはジンの方を見上げながら答える。
「どうも、ジンがあの人と話したことがあるっぽくて。あのロンって人、どっちかっていうと、国の軍人側なんだって」
「……本当?」
「ああ。間違いない。俺が昔軍にいた頃、話したことがある。……ともかく、移動しながら話そう。ここは目立つ」
ジンは周囲に人が倒れているこの場から離れようと言い、歩き出す。リュウとカスミはその背に続きながら、彼の話を聞く。
「スラムの住人達が言っていたように、ロンは自分が持つ力だけで権力を築き上げた男だ。基本はその地位を守るために、軍やエボルブの指示に従っている。さっきまでリュウに合流しなかったのは、俺の顔が割れているからだ。奴と会えば、狙われることになっていただろう」
「なるほど。だから用事が終わっても引っ込んでたのか……。でも、そんな悪い人には見えなかったけど」
「確かに、悪人ではない。だが善人というわけでもない。奴は自分のその力を気の向くままに振るうだけだ。今の奴なら、自分の権力を守るために国の利となることをするだろう」
「ふぅん……」
軽く会話するだけで別れたロンについて、リュウはジンから話を聞いて興味深そうに頷く。
(どういう人かはともかく、一応立場としては敵ってことになるのか……)
ジンの説明から、ロンが少なくとも今の自分達とは相容れない存在であると理解し、リュウは何か歯切れが悪そうに顔をしかめる。少なからず関係を持ち、興味を抱いた相手が敵であると知って少し残念に感じているらしい。
予想外の出来事もあったが、車の燃料等の補充というひとまずの用事を済ませ、メリー達と合流しようとリュウ達三人はそのままスラムを歩く。
「ん……」
何分も歩く間もなく、先頭を歩くジンは往来の中に目的の人物を見つける。メリー達だ。メリー、レプト、レフィ、そして、その後ろには何故かフロウがいた。
「何故フロウが……? まあいい」
ジンは疑問で眉を寄せながらも、後ろの二人に声をかけ、すぐに四人と合流しようと早足で向かうのだった。




