不本意な滞在
「私はそんな話をするつもりはないが?」
「何……? いや、メリーの仲間が……」
フェイを先頭にレプト達が獣人達の村に戻ると、メリーが彼らを迎えた。同時にフェイはすぐさまリュウから伝えられた相談についての話をメリーに持ち出すが、彼女は首を傾げて返す。当然だ。自分のことをダシにしていいとは言ったが、嘘を言うようには言っていない。想定外のことにメリーも少し驚いているようだった。
そんな彼女の反応を見たフェイは、先の話が何だったのかと後ろのリュウを振り返る。二人が動揺する原因となった当の彼は、彼らの視線を受けると目を逸らして笑った。
「まあ、ちょっと話を大きくしただけだよ。はは……」
リュウが笑って誤魔化そうとしたのに対し、フェイは咄嗟に彼の襟首を掴んですごむ。
「お前……ぶっ飛ばされたいのか?」
「悪かったよ。ちょっとした冗談さ」
「全く笑えないジョークだ」
手を出さんばかりの敵意の視線でリュウを睨んでいたフェイだったが、その姿勢を少し続けていると頭が冷めてきたのか、ため息を吐いてリュウの服から手を離す。
「クソ……俺は戻る。ここの連中にはお前達から話すんだな」
フェイはここで行動を起こしても仕方ないと考えたのか、レプト達に背を向けて一行から離れていく。今回の事で獣人達から礼を受ける気は全くないらしい。そこに拘泥することなく、彼はすぐに自分の仲間の元へと戻ろうとした。
「まあ待て、フェイ」
離れていく彼の背をメリーが呼び止める。彼女の声を聞いたフェイは、苛立たし気に振り返ってリュウ達への敵意を隠さずに言葉を返す。
「何を待てって? そいつらに足止めされるのをか? もう時間を無駄にするのは御免だ。そうでなくても、俺には余裕がない」
「そんなに邪険にしないでくれよ。それに、リュウの話はホラまみれだったが……私がお前と話したいのは本当だ」
「信じろと?」
「ああ、信じてくれ」
大きい嘘を言われたことで自分や仲間達のことを敵視するフェイにメリーは信じてくれと言う。リュウに欺かれたことで疑念を強く心に抱くフェイは、疑いの目で彼女を見た。彼からしてみれば、リュウやメリーのやっていることは自分の行動を鈍らせるための策としか見えないはずだ。
「……」
しかし、フェイは惑っているようだった。直前に騙され、本来なら迷うこともなく背を見せるはずなのに彼は迷っている。下唇を浅く噛み、額を指で押さえている。それほどまでにフェイの中でメリーは大きい存在なのだろう。彼は目を泳がせながら黙って思考を走らせている。
そんな時だ。村の入り口辺りで話している彼らの所に、獣人が一人、走って近付いてくる。キャルゴだ。
「フェイさん、旅の方々! 成し遂げてくれたんですか?」
彼は全くフェイやレプト達一行の間にある関係を知らず、純粋に二者へ感謝の念を抱いているようだった。魔物達を追い払って帰ってきただろう彼らに高い声で確認を取っている。そんな彼が真っ先に駆け寄ったのはフェイだ。
「あ、ああ……。魔物達はもういない。これからは問題なく薬草を採れるだろう」
直前まで全く違う話をしていたがためにすぐ切り替えることは出来ず、ぎこちなくフェイはキャルゴの問いに答える。
「本当ですか! ありがとうございます……。どうお礼をしていいか。これで疫病を収束させることが出来ます。あなた方のおかげです」
「……じゃあ、俺はこれで」
キャルゴに最低限の情報を伝えたことで踏ん切りがついたのか、フェイはメリー達に背を向けて村を出ようとする。しかし、そんな彼の背をキャルゴの善意の言葉が止める。
「ささやかな宴の準備をしております。メリーさんに頼まれたので、ここの住人達は出席させません。旧知の仲でゆっくり話したいこともあるでしょう。あまりに粗末ではありますが、ごゆっくり、気楽に過ごしていただけたらと思っております」
フェイ達が村を出てすぐにメリーが手回ししていたことをキャルゴが話題に出す。宴と聞いてレプト達は嬉しそうにするが、フェイは全く逆の反応をする。断りたいが、どうそれを言葉にしていいか分からない、と言うような表情だ。
まごついている彼の肩に、メリーがその背を一押しするように手を置く。
「私達だけの思惑ってわけじゃない。彼らのは本当にただの善意だけだ。無下にするのも悪いと思わないか」
「メリー……相変わらず悪知恵が働くな」
「だろ? 数多い私の取り柄の一つだからな」
メリーを睨んだ後、フェイは呆れたように首を振る。メリーの要求に加え、ここにいる村人達の善意を前にして折れない訳にもいかなかったのだろう。




