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novels

無題 2021/1/6_22:14:32

作者: 甘 葉影

 電車に乗っていることに気付いていた。向かい合わせの席に座っていた。少し前から乗っていた気がする…、気がするなんて自分のしていることが分からない。先程までは暖かったのに、目が覚めてからは寒い感じがして私は外套の前合わせをぎゅっと締めた。周りを見ても誰も居ない。人の気配は無かった。


 私は窓の外を見遣った。車窓の景色は畑や住宅地やビル街とか、常識的な何かではなかった。私の目前に広がっていたのはとても広い宇宙だった。どこまでも遠い、遠い果てしない闇と無数の光を見た。闇なのに怖くなかった。圧倒されたからかもしれない。銀河が輝いている。幾つかの星の輝きは本当に眩しくて、見つめ続けた私の目は痛くなった。


 窓ガラスを動かして、窓を開ける。乗っている車体を見たいと思ったからだ。窓から顔を出して、見る。車体は確認して、窓を閉めて席に座って、そして、見たことを考える。大きな車輪と黒色の車体を見た。蒸気機関車らしい。電車のレールが無いことにも気付いた。空中を走る蒸気機関車みたいな乗り物。車輪が回転する音だけが聞こえた。暗闇を疾走する列車みたいだけれど、窓から突き出した顔には風が感じなかった。凪いでいるのか。銀河系を走る蒸気機関車に乗っている。


 此の夜にいる私は誰?

 私は私として存在するだろうか?

 私は物語の登場人物だろうか…?

 嗚、そもそも夜ではないか…。


 私は私自身が分からないの。記憶のない人だから。見たこともない乗り物に行き先も分からないでひとりぼっちで乗っている自分、なんて気付きたくなかった。否、都合良く自分を忘れているようだ。気付ないでずっと居眠りしたままが良かった…そのまま何処に行くんだろう?なんて、問も思いつかないでいられたんだろう。けれど、私は車窓の宇宙空間を眺めてこんな美しい光景が有る限りは大丈夫、とか思っていたんだ。


 宇宙空間に浮遊する鉄道は、脱線しているでもなく、レールが無いのに走り続ける。一体何処へ行くんだろう?レールが無いが故に終わりなく果てしなく走り続けるかもしれないとか……でもあの銀河には全然辿り着けない。私きっと銀河の果てに居るんだわ。もしかして銀河の周りをぐるぐるぐるぐる回っちゃってるんじゃないのか、とか思っていた。


 下らない想像は止めて、車窓の景色を再び眺めることにした。先程と変わらず綺麗な星景色だ。

キラキラッキラキラキラキラッキラキラキラキラキラキラッ

 左眼の端から右眼の端まで、綺羅星と星の雲と無数に散らばっている。

 色鮮やかで、混ざりあっても虹色・・に輝いていた!夢見心地になる景色なんだ。そこでどうしても矛盾する願い事がこころに浮かぶ。最初から有る諦め。その願いによって軽い絶望を…与えられる。これは偶然出会って、縋っているだけ。私が自身に依ってすることには、あまりに莫迦らしくて。莫迦らしいから哀しい。哀しい人間。お人形さんなら良かった。そしたら感情を受け止めずにいられるでしょ。


 …きっと、祈ることは止めないで。流れ星は私の眼に映らなかったけれども、茫漠な宇宙に対って祈った。流れ星はたくさん流れているであろうから。


 私は窓が有る方の席を陣取って車外の景色を眺めていたら、眼の前が明るくなった。晴れた日の朝の太陽の光みたいだった。光は前方から急速に広がっていく。明るくなっていく。それは空間を照らすというよりは、景色や列車をまるで飲み込んでいくようだった。明るくなり過ぎて、申し訳程度に電灯で照らされていた車内も、真っ暗だった車外も見えなくなった。綺麗だなと思って眺めていた景色も白く塗り潰されてしまったな、なんて思ったけど。

 

 何もかも、何もかも。私自身も、周りの物体と同じように消えたような気がした。自分の姿も見えなくなっていたけど、触ってみると其処に在る感覚を確かめることができる。

 浸蝕。吸い込まれていくような錯覚。私は何か何だか分からないでいる。終わっていくんだと頭の片隅では考えていた。終り。光の中では、乗っていた列車は朽ちるようにボロボロと崩れ壊れて、バラバラに分解され、その欠片はパラパラと空間に散って消えた。座っていた椅子が粉々になって、足を着いていた床が抜けていた。私は光の中に放り投げ出された。


 そして私は光の中に投げ出された。今、私は不思議な光の中にいる。ふわふわと光の中に浮かんでいる。列車は粉々に壊れて、面影も無い。私は自然と前方に進んでいる。何も持っていないだろう。身一つ程度。そんな裸の状態で光の中を漂えば、これは新しい物語の始まりなのだろうと思ったんだ。

 

 

たぶん完結。

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