悪役王女に転生したので、とりあえず国から逃げることにしました。
初投稿です。
あれ。私、悪役王女に転生してない?
私こと、クリス・エリアルは前世の記憶を思い出した。
といっても死んだ記憶を語るのは心にくるので省略させてもらいます。
前世では乙女ゲームを夜までしては、宿題をやり忘れるどこにでも居る女子高校生だった(異論は認める)。
その中に『クリス・エリアル』という名の悪役王女が出る乙女ゲームがあったような気が……。
間違いない。長い銀髪に鋭くつり上がった青い瞳。
世の女性の憧れを表したかのようなナイスバディ。
乙女ゲーム(名前は忘れた)の悪役王女である……!
「嘘でしょ、おい。神よ、どうなっているんだ……」
思わず呟いてしまった。
私は今の状況を分析する。
ゲームの中のクリスは、主人公のアリシア・ロンドに過激な虐めを繰り返し、学園のパーティーで断罪される。
結果、国外追放となったはずだ。
そして現在の私は――。
うん。K・A・G・E・K・I!
なんでこんなことをしたんだ私ー!!
権力があれば何でもしていいと思ってんの!?
このままじゃ、断罪じゃない!
パーティーは確か、私の双子の兄にしてこの国の王太子、ジュリアスの誕生パーティー。つまり私の誕生パーティー!(ジュリアスは攻略対象だよ)
しかもパーティーまで後5日!
……。
誕生パーティーで断罪しようと考えるなんてどこの鬼畜ですか?
そういえば、ゲームの中でもジュリアスは腹黒ドSだったな。
そんなジュリアスが主人公にだけむける、心からの笑顔は攻略対象の中でも人気ランク一位を誇っていた。
その他攻略対象は、まぁありきたりで、宰相子息に騎士団長子息、平民男子、そして私の一個下の弟である。
これで分かってくれたかな?
因みに主人公は男爵令嬢。過激な虐めはする癖にどうして実家は潰さなかったんだろうね、私。王女の権力使えば大して役にたってない男爵家程度、潰せるのに。
主人公を虐めた理由としては、やはり兄や弟たちが男爵という位の低い令嬢と仲良くしていたからだ。
クリスは主人公と出会う前まで大人しい性格だったのだ。
しかし、兄には相手にしてもらえていなかった。
クリスはジュリアスのことを慕っていたんだろうな。
つーか、妹の相手くらいしろよジュリアス。
そして溜めに溜めた、不満を主人公にむけて吐き出したって感じだ。
転生最初、思い切り悪態ついてごめんよ。
クリスの気持ちも分かるわ。
相手にしてくれない人が違う人に夢中になってたら嫉妬するよね。
でも私が断罪されるのは違うと思うんだ。なぜに貴方がしたことを私が責任もって断罪されなきゃいけないんだ!
責任もって断罪ってなんだろ?
……。とにかく、断罪を回避しなければ!
アリシアに謝る?
会わせてくれないだろう。
罪を認める?
兄がどうこうして国外追放にするだろう。
………。
詰んでるー!!
どうすれば、どうすれば……!
私は部屋を歩き回る。
「クリス様、どうなされたのですか?」
「うるさい!使用人程度が、私のやることにいちいち口出さないで!」
「はい、申し訳ございません」
うん。こんな感じかな。
昔なら「少し考え事を。気にしなくていいわ」って言うんだろうけど、悪役王女化した今ならこう言うだろう。
「随分な言い草だな。クリス、使用人あらずして城は成り立たんぞ」
「恐れながら、使用人には謝罪なさって下さい!クリス様!」
扉を振り返ると、腹黒ドS王子ことジュリアスお兄様と主人公ことアリシアさんがいた。
まあ気づいてたんだけど。
ジュリアスお兄様は私と同じ銀髪に碧眼。アリシアさんはピンク頭……コホン。桃色の髪を肩口でふわっとさせている(語彙力!伝わってくれ!)。髪と同じ桃色の瞳は少し垂れている。うん、ザ・乙女ゲームの主人公だ。
お兄様、変に思われない為なんです。
アリシアさん?貴方が使用人というのは違うのでは?この子は私の専属メイドで伯爵令嬢。つまり貴方より格上ですよ~?様をつけましょうね?
「お兄様。コレは私の下僕です。お兄様に言われる筋合いはないかと。それにアリシアさん?貴方にクリスと呼ばせることを許した覚えはないのだけれど?そ・れ・に!お兄様には婚約者がいらっしゃいます。そのように腕を抱くのは破廉恥ではなくて?」
ごめんなさい名も知らぬ、使用人。
お兄様もアリシアさんのされるがままになっているのが信じられないわ。
あ、そういえば、お兄様の婚約者のシンシア様も私と一緒にアリシアさんを虐めてたか。
「でもっ!皆仲良くするためには、名前を呼び合うことが正しいと思うんです……。それで、仲良くするためには感謝したり謝罪したり…!そういうのが必要なんだと思うんです!だから、使用人さんには謝ってあげてほしいなって!」
「……全員と仲良くする必要なんて感じない。もう少し、前に言ってくれれば響いたかもね。これもそれも貴方のせいよ……!」
アリシアさん、ウザい。
腕抱きについてはスルーかよ。
それになんだろ、さっきの言葉自然と出た。
もしかしたら、『悪役王女クリス・エリアル』の本音なのかも。
私はお兄様の声を振り切って部屋を出た――。
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「別に付いてこなくて良かったのに……」
「私はクリス様の専属メイドですので」
使用人は中庭に出た私のことを追って付いてきたのだ。
こんな悪役王女に付いてくるなんて、殊勝な心掛けね。
そうだ。
「ねえ、貴方……リリーだったかしら?」
「はい、クリス様。覚えていただけて光栄です」
「これはただの独り言よ?自分が悪役と決められた世界で生きなくちゃいけなかったら……貴方はどうする?」
私は呟くように言った。
急に意味の分からない質問をされて驚いたようだけど、少し考えてから使用人――リリーは答えた。
「そうですね……。悪役という役を放棄します。別にその役をやりきる必要を感じないので」
「……そう」
それ、いいんじゃない?。
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その日の夜。
「放棄、ね」
ベットに横たわりながら私は呟いた。
案外いいんじゃないかしら?この役を放棄するの。
国から逃げるとか。
「……もし、このまま国にいたら、ゲームの強制力とかで無理矢理悪役にされる可能性もある。今は無事だけど……だからこそ今、行動した方がいいわよね」
でも私一人で逃げるのは難しい。
アリシアさんを巻き込もうかしら?彼女ならお兄様と結ばれたいはずだし。
他の攻略対象たちはアリシアさんに熱を上げてるけどアリシアさんはお兄様一筋っぽいし……私は邪魔なはず。
いや、常に最悪を考えて行動しないと。
アリシアさんが転生者の可能性だってある。
やはり悪役を断罪した方が、互いの愛情は深まるはずよね。
何の根拠も無いけれど……。
「ああ、もうっ!」
今回の場合、クリスの頭脳を引き継げて良かった。
前世の頭脳のままなら即刻、頭使い過ぎて死んでた。
「そうだ。リリーにすればどうかしら?」
あの使用人は嫌いなはずの主人を追い掛けて私の所まで来た。
普通嫌われている主人が命令もせずに出ていったら、部屋で待つことも出来たはず。
ジュリアスという王子がいるなら尚更。
「……逃げようとすることをばらされたら、詰む」
そう。まだ、信用できるかは分からない。
私の専属メイドでも、王に雇われて……雇われて……。あれ!?
リリーって、私が奴隷として買ったメイドじゃない!
「つまり、忠誠は私に注がれているってことかしら」
あの子は私のことを見限らず、居てくれている。
メイドは仕事に世話をするだけでなく、監視も含まれる。
私のことを監視することを幾人も諦めている中、あの子だけが私のメイド居てくれる。……監視して報告してるかは分からないけど。
あ、元奴隷なのに伯爵令嬢というのは王女権力で娘を欲しがっていた伯爵家に養子に入らせたからよ。
もちろん許可を得ているわ。喜んでくれたと『悪役王女クリス』の記憶が告げている。
『悪役王女クリス』は善意ではなく元奴隷ではメイドになれないから、伯爵令嬢にしたみたいだけど。
「信用しない私がアホみたいだわ」
私は早速リリーを呼ぶことにした。
「ねえ、私の専属メイドを呼んで」
「は、はい!喜んで!」
なんだろ、あの騎士?返事がおかしい。
あっ、私、気に入らないからって何人も辞めさせてたわー……。
すみません。
心の中でスライディング土下座した。
「失礼いたします」
「入ってちょうだい」
しばらくして、リリーの声が聞こえてきた。
今さらだけど、この時間に呼ぶもんじゃないわ……深夜じゃない。
「夜遅くに悪いわね。早速だけれど、今日の中庭での質問覚えているかしら?」
「はい。自分が悪役と決められた世界生きるためにどうするか……でしたよね」
「ええ。その答えが放棄……とても良い考えよ」
「……愚かな私に、クリス様のお考えをお教え下さいませんか?」
あっ。リリーに説明するの忘れてた……。
でも前世とか言っても頭イカれてるとしか思われないだろうしなぁ。
「私、アリシアさんを虐めていたじゃない?それって、アリシアさんが物語の主人公だとして私は悪役でしょう?それでこのまま行ってしまえば、私がお兄様に断罪されるのは確実。それを回避するためにはいっそ国外に逃げるのも手かなって!」
「アリシア様の場合、ジュリアス王子以外の男性にも手を出しているので国王陛下が罰することをお許しにならないかと……いや、クリス様を害虫から引き離すにはその方が……」
「どうかした?」
「いえ、良いお考えです。宜しければ私にもお手伝いさせていただけませんか?」
「それを頼もうと思ってたの!さて、どこに逃げようかしら!!」
「それなら――。」
話し合いは一晩中続き、ここ、エリアル王国の敵国のグング帝国へと逃亡することとなった。
グング帝国はこの大陸一の国力を持つ大国で、超実力主義。
平民でも功績があれば貴族になれる制度を実施しており、存続する場合自分の領地に住む優れた人材に爵位を継がせることができるのだ。
皇帝は世襲制だが先代皇帝からの指名で選ばれるので優秀な皇子が次代の帝国を担うことになる。
つまり、エリアル王国みたいな見栄ばかり気にする貴族・王族とは違う。
なぜエリアル王国が滅ぼされていないかというと、ただグング帝国がエリアル王国攻略に本腰を入れていないからだ。
「いやでも敵国の王女を帝国が受け入れるとは思わないわ」
「ええ。ただの王女ならば打ち首ですね。クリス様は仕事もジュリアス王子の手柄となっていますがほぼ一人でやっているではありませんか。ここの腐敗した上層部とは違い帝国ならその情報を掴んでいることでしょう!」
「いやいや、お兄様の手柄よ。私はお兄様の間違いを修正しただけ!最近は間違いが多くなってきていたけど……」
「アリシア様と出会う前でも半分以上間違いがあったのに、また増えたのですか!?あの色ボケ王子は!」
「不敬罪よ!?でもお兄様が作った書類に私が修正しているのだから、お兄様の手柄よね?」
「違いますよ?お二人の手柄ですよ」
「ええっ!?」
ちょっと驚くべき事実があったけど、国を出る私には関係ないわ!
とにかく、打ち首覚悟で帝国へと逃げる決意をしたのだった。
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この国から離れ、帝国へと逃げることになりました。
乙女ゲームの悪役王女に転生した元女子高校生。
悪役王女のクリス・エリアルです。
逃亡決行は明日の夜。本当は今日だったのだけど、とある人が来ることになって……。
無視しようと思ったけれど、私にとって大切な友人だし、無視はしたくなかったのだ。
その名こそ!シンシア・ジェルーリア!
エリアル王国のジェルーリア公爵家の長女にしてお兄様の婚約者!
そして私と一緒にアリシアさんを虐めていた子!
でも本当は優しい女性なのよ。パーティーの4日前(つまり今日)にクリスに「アリシアさんを虐めたくない、もう嫉妬に狂いたくない!」と告白。
シンシア様はアリシアさんに嫉妬して虐めていたのよね。
それに傷がつくような虐めはしていないし。
当然、悪役王女はそれを拒否。
そしてパーティー当日、クリスは国外追放。シンシア様は1ヶ月の自宅謹慎の罰をうける。
「多分、今日はその告白をしにきたのでしょうね……」
私はリリーに案内されながらポツリと呟いた。
でも今の私に拒否する理由がないわ。
そして目的地に到着。
「お久しぶり。シンシア様」
「本日は急な訪問をお許し下さいませ。クリス様」
「ええ、許すわ。用件はなに?」
そこにシンシア様のメイドはいなかった。
シンシア様は少し躊躇った後、頭を下げ。
「その、私はもうアリシアさんを虐めたくないのですわっ!このままじゃあ嫉妬で……アリシアさんを傷つけてしまいそうで……」
「うん、じゃあ虐めなくていいわ」
「へっ?」
いやそんな呆けた顔されても……。
やっぱり私がそんなこと言うのが信じられないのかな?
「シンシア様、私はアリシア様を虐め続ける危険性に気づいたわ。何も裏はないから安心してちょうだい」
「はぁ……」
「それでね。私、帝国に逃げることにしたの」
「は!?」
「このまま、この国に居ても損するだけ。そんなの死んだほうがマシよ。だから帝国に行くの!」
「それ行くじゃなくて逝くになりませんか!?私嫌ですわ!クリス様と会えなくなるのは!?」
嬉しい!
シンシア様、可愛いわ!!
「そこで!」
「そこで!?」
「シンシア様も一緒に逃げない?」
「ええっ!?いや……でも、案外いいかも……?今のジュリアス様が王になるここよりも帝国のほうが……。クリス様、計画を教えていただけませんこと?」
「ふふっ。後戻りはできないわよ」
「望むところですわ!」
そして私はシンシア様に計画を話した。
城から帝国への最短ルート、身に付ける装備等を――。
「その計画、乗らせて下さい!私も帝国へと逃げたく思います」
「わかったわ!私とシンシア様とリリーで逃げるわよ」
「え!?」
シンシア様も一緒で良かった~。
そしてリリー?なぜ驚いているのかしら?
もちろん、リリーも一緒に決まってるでしょ?
「貴方は私のメイドよ?私が死ぬ時まで、私に付き従いなさい!」
「……ははっ!」
決まった!!
凄いリリーが感激してるけど、決まった!
言えた。悪役王女っぽい、でも嫌じゃないカッコいいセリフ!
そして三人で城を抜け出すことが決まった。
シンシア様はお兄様が王になると国が崩壊すると見ているようだ。
ならなんで父上は廃嫡しないのかしら?
「クリス様の手柄をジュリアス王子の手柄だと思っているからでしょうね」
リリーが何か言っていたが、計画を振り返っていた私には聞こえなかった……。
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そして作戦当日。
昨日から今日まで王妃教育のため城に滞在していたシンシア様は問題なく待ち合わせ場所に来て、トラブルなく進むかと思われる。
「案外簡単だったわね」
「そうですね」
「きっと計画が良かったのですわ!」
今私たちは王都を出たところだ。
この感じだと3日ぐらいで帝国に着きそうだわ。
そして3日後……。
「危なかったですわー!」
「本当にね」
「早急に立ち去ったほうがいいかもしれませんね」
なんと私たちを探す依頼が冒険者ギルドにも張り出されていたのである。
冒険者ギルドというのは、冒険者という自由に世界各地を冒険し魔物などを狩る仕事を生業とする人たちの属する組織のことだ。
どんな依頼でも受けるので依頼が出るかもとは思っていたが、早い。
想定していたより捜索の範囲が広い。
もうここは辺境なのに……。
「クリス様やシンシア様の価値を分かっている貴族が動き出したのかと。そしてお二人を…その、愛人にしようと考える愚か者もいるはずです。そういう奴は裏組織を使うかもしれませんし……」
これはリリーの弁だ。
ゲスい、ヤバい。
「よし、みんな疲れてるとこ悪いけどさっさと歩こう。今冒険者に見つかったばかりだから検問は厳しくないはず」
「はい」
「わかりましたわ」
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通れました。
そして帝国ですが……。
「我が名はシンシア・ジェルーリア!クリス・エリアル王女が配下、門兵様、門を開けて下さいませんか?」
「「!?」」
「ちょっ、シンシア様!?」
「どうせばれるのです。堂々としていたほうがいいですわ!」
「エリアル王国の王女と公爵令嬢を確保しました!隊長、どうしますか?」
「何でお前は平然としていられるんだー!」
なんか応接間みたいなところに案内された。
凄く豪華な。
そして前に座るのは……。
「初めまして。クリス・エリアル殿下、私はグング帝国の第三皇子、レオナート・グングと申します。本日は何のご用で?」
そう何と、このグング帝国の第三皇子レオナート殿下です。
偶然にも視察に来られていたらしいわ。
美しい金髪に碧眼。お兄様と比べることも失礼な美人のお方です。
どうしてこうなった……!?
「突然の来訪をお許しください、レオナート殿下。といっても今回は陛下の許可を得た物ではなく、私どもがエリアル王国から逃げるためにこの帝国に来させてもらったのですよ、なので帝都に行かせて頂きたいなぁなんて……ははは」
レオナート殿下は笑ってますけど、本心は分かりません。
怖い。
打ち首覚悟とは言ったけど怖い。
「そんな貴方たちに一つ、提案があります。うちの城で働きませんか?」
これは提案と言いながら、それしか選択肢が見えない。
「クリス殿下の噂は聞き及んでいます。そのクリス殿下が選んだ方々なら仕事も出来るだろうし……どうです?」
「み、みんなはどうしたい?」
「クリス様のお心のままに」
「私もですわ、クリス様!」
えー。
私が厄介ごとを押し付けられた感が凄い!
「や、やらせていただきますぅ…………」
「それは良かった」
こ、怖い。
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それから何年かしたその日。
「クリス様。レオナート殿下がお呼びになっています」
「わかったわ。案内してちょうだい」
その数年の間にエリアル王国は崩壊した。
私たちがグング帝国で働くことになってすぐ、父上が危篤になってしまい、そのまま他界した。
普通なら悲しむんだろうけど、あんまり会ったこともないし、前世のお父さんのほうがお父さんしてたからなあ……。
そしてお兄様が王位を継ぎ、帝国にいるシンシア様との婚約をジェルーリア公爵家との話し合いで破棄し、アリシア様と婚約、そして結婚した。
しかし優秀な者――アリシアの礼儀に注意した人とも言う――はお兄様の手によって仕事を下ろされてしまった。
その結果、集まったのは媚びを売ることしか能のない貴族たち。
利益を求めて内部崩壊するのは必然だ。
その間、優秀な者たちは何をしていたかというとグング帝国に仕事を求めてやってきたのだ。
なのでかなり偉い立場へと出世した私が新たに部下とした。
その中にはリリーの義父も含まれる。
今さらながら、自分で養子にさせといて義父と離したのは、控えめに言って「ヤバッ」と思ったけど、そこはリリー、何と義父には許可をもらっていると……!
流石、私のメイド!
私は今、レオナート殿下の補佐のような仕事をしている。
そしてエリアル王国は崩壊し、ここグング帝国が吸収した。
その際、お兄様やアリシアさんは奴隷に落とされたらしいけど、良く今まで生き残れたと思う。
リリーやシンシア様は、私のメイドとして働きたいと言ってきた。
リリーはともかくシンシア様は意外だった。
美少女なのだから、帝国貴族に嫁ぐことも出来ただろうに。
でもシンシア様はレオナート殿下の従者の男性と仲良くやっている。
子供も一人いるらしい。
そのため子供が産まれたと同時に仕事は辞めて家庭に入った。
まあ、かなりの頻度で会っているのだが……。
っと、レオナート殿下の執務室に着いてしまった。
「レオナート殿下。クリスです」
「入ってくれ」
扉を開けるといつものように微笑んでいるレオナート殿下が座っている。
この感情の読めない微笑みも慣れてしまった。
「クリスは十九歳になったか……そろそろ縁談の一つでも受けたらどうだ?」
「いきなり小言ですか?といってもレオナート殿下だって二十一歳なのに婚約者いらっしゃらないじゃないですか。それに『なったか』ってなんですか?じじくさいですよ」
「ふふ……。そうだな」
結局なんの用だったのかしら?
まさか小言を言うために呼び出した訳ないし……。
「実は一番上の兄上が皇太子に内定した。二年後に正式に決まり、発表される」
「えっ!?そんなこと私に言って良かったんですか?」
「いいとも言われていないが、悪いとも言われていないからな、問題ない」
「なくはないと思いますが……」
「そして兄上が自分が皇帝になったら私に宰相になってくれというのだ」
「へえ……」
別にない話ではない。
身分の高い方がいい教育を受けているのだから、優秀なのは当然とも言える。
それにレオナート殿下は地頭がいいので宰相に抜擢されるのも納得のいく話だ。
何か問題でもあるのだろうか?第二皇子がそれにちょっかいでも掛けているのだろうか?
いやでも、あの人は騎士団長志望だったな。
「それがどうかしたんですか?」
「宰相という重役ならば伴侶を得ねばならん。それが面倒でしかたない。だから私と婚約してくれないか?」
「……は?」
ちょっと頭が真っ白に……?
婚約?私が?レオナート殿下と?
えー……。
はっ!わかったわ!運命の相手が見つかるまで私に婚約者として女性の防波堤になれってことね!
「分かりました。私で良ければ」
「いいのか?」
らしくもない。
レオナート殿下なら間違えて言った言葉でも徹底的に利用するのに……。
「ええ。運命の相手が見つかるまで、私に婚約者のふりをしろってことでしょう?その程度、私にお任せ下さい」
「あー。いや、そうじゃなくて……」
そうじゃない?
レオナート殿下はこちらに近づいてきて、そっと耳元に顔を寄せると……。
「私はクリスのことを……愛している。どうか私との婚約を受けてくれないか?」
囁くように言った。
は、え、えぇえええぇぇえぇ!?
どどどどどどど、どういう!?
んん??
レオナート殿下が私を愛し……。
「レオナート殿下、心臓が鳴りすぎて死にます。ムードもへったくれもないことは分かってます。ですが!少し時間をくれますか?」
「あ、あぁ」
レオナート殿下も同じような感じだったので離れてくれた。
チラリとその横顔をみると顔が真っ赤である。
私もだけど!
そして超スピードで仕事を終わらせると、リリーのところに直行した。
「リリーぃ!!」
「ようやくレオナート殿下に告白されましたか?」
「なんでわかったの……」
リリーは私の部屋で掃除をしてくれていた。
というか前からレオナート殿下が私に好意を抱いていたのを知っていたようだ。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう!?!?」
「クリス様がレオナート殿下のことを好きか否かで選べばよいかと」
「いやいやいや!最初は選択肢一個しか見えなかった人よ?絶対的強者よ?そんな人から、こっ、告白されても……」
「嫌いか好きかで言えば?」
「……好きだけど」
「なら返事してくればいいんじゃありませんか?」
リリーは小首を傾げて言った。
「それが上司の好きかもしれないし、友人としての好きか……異性としての好きかもわからないし……」
「なら、レオナート殿下に抱かれて嫌か――」
「わーーー!!!」
「……ありきたりですが、今日嬉しかったことを一番に報告したい人が好きな人と言われていますね」
「リリーね」
「即答ですね。ありがとうございます」
私は少し考えると。
「でも、異性では一番だわ……」
「私としてはレオナート殿下以外にクリス様に似合う相手はおりませんね」
「う、うーん……」
レオナート殿下と話すことは確かに楽しいが、それを付き合えと言われると……。案外嫌じゃないな、うん。
どうしよう。逆に嬉しい。
「本音が出たのでは?」
「リリーってエスパー並みに心読むわね」
そのお陰で心は決まったけど……。
「じゃあ、行って下さいな!私は掃除をするので!」
「ああ、押さないでって!」
部屋から追い出された。
ここ、私の部屋なんだけども。
「ふぅ……ありがとう。リリー」
私は最高のメイドに感謝の気持ちを伝えると執務室へと向かった。
「……感謝はいいですが、クリス様が人妻になるのはムカつきますね。蛇のオモチャでも仕込んどきますか……」
リリーはそう、呟いた。
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「レオナート殿下……そ、その先ほどの返事ですが」
「ああ」
レオナート殿下はスッと立ち上がった。
クオオウッ!
まさかこんなことになるとは思わなかったが改めて、美形である。
金髪碧眼にスタイル良し。仕事も出来るし、性格もたまにからかわれるが、それ以外は完璧。むしろ完璧だと少ししんどそうなのでそういう要素があったほうがいい。
好みにドストライク!
なぜに前まで意識しなかったんだろう……?
第一皇子――皇太子に決まったんだった――は知的。第二皇子は武に優れ、第三皇子は万能。
これが帝国での皇子の評価だ。
とにかく!
本番になると緊張してきた……!
「レオナート殿下に釣り合うかは分かりませんが……それでもよろしければ喜んで、その話受けたいと思います……!」
ヤバい、顔が赤くなってるのが自分でも分かる。
レオナート殿下の顔を見れない。この状況で見れる猛者はいるか!?
「ありがとう……。正直断られると思ってた、出会いが出会いだし…皇太子に内定した兄上のほうが地位的に上だから、本当に私でいいのか?」
「はい。に、二度も言わせないで下さいよ……」
そして私たちは正式に婚約することとなった。
その夜、私のベッドに蛇がいて(オモチャだったけど)、犯人を捕まえるために寝ずに探したのもいい思い出となった。
私がエリアル王国の王女だと反対する人もいたけれど、徐々に認めてくれた。
悪役王女に転生したけど私はとても幸せです!
下の☆☆☆☆☆を★★★★★のようにして評価してくれると嬉しいです。
読んで下さり、ありがとうございます!