閑話.ジークの苦悩
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光に包まれ彼女が召喚された時、余りの神々しさに息が出来なかった。長く艶のある黒髪には指を差し込みたくなったし、夜空に星の光を入れたような潤んだ瞳に自分を映して欲しくなり。細い手足に華奢な身体は、壊れない様に包んでしまいたくなった。
元の世界や家族を思い涙を流す姿には、胸が締め付けられる様に痛んだ。勝手に召喚されたのにも関わらず、怒りを納め健気にも…この世界や国の事を知ろうと努力している姿に愛しいと思うまでに時間はかからなかった。彼女を一番傍で支えたいと思った。幸い、召喚した国の代表として第2王子である私が、『異界の乙女』の責任者として任された。
彼女の護衛責任者に、騎士団副団長のテオドールが任命され。人との付き合いが上手い彼と彼女の距離も近くなっていった。テオは第2王子として先の将来を不安に思っていた頃に、騎士として王太子を支える道もあるんだと示してくれた兄上の様な人だ。勿論、剣の師匠でもあり信頼している。しかし、彼女との距離が近くなって心配になってしまうのは…信頼していても、仕方がないと思う。
筆頭魔術師のアルンとも距離を縮める彼女に歯痒く想い、自分の狭隘な心に笑うしかない。いつも無表情なアルンだが、彼女といる時は目をキラキラさせたり笑顔を見せる時もある。周りを惹きつける彼女を恨めしく思うも、それでも愛しさが上回ってしまう。
様々な勉強をしていく中で、乙女の力が現れない事が心苦しく悩む彼女が痛々しくて抱き締めてドロドロに甘やかしてしまいたい衝動を抑える事が難しい。
そんな中、目の前で起きた悲劇に反応して現れた奇跡の力に、焦ったであろう貴族令嬢が彼女を攫い辱める計画を立てた。彼女が居なくなったと報告を受けて、すぐ魔力全開にして彼女のリングを探す。城の裏からの反応に、執務室を飛び出した。
後ろからテオや騎士達が追いかけてきている。城の裏に周り雑木林から優雅に歩いてくる令嬢を見て「捕縛しろ」と走りながら指示を出す。さらに奥へと駆けて行き、道の途中倒れる彼女に覆い被さる男を見つけた瞬間、烈火の如く自分の血が沸騰しそうな程の怒りが駆け巡る。その男がさらに手を振り上げた瞬間、手加減なく魔法を打ち込んでいた。傷だらけの彼女を腕に抱え込み、守れなかった不甲斐なさに震える私に「ありがとう」と涙を流した。彼女の濡れた瞼に触れて、改めて守るんだと決意をした。
力が現れ忙しいのに、時間の許す限り人々の傷や瘴気を癒し続ける。初めて王都近くの森で渦を浄化した時は、再び彼女の神々しさに驚き。一つの浄化で激しく消耗した彼女が心配で仕方なかったが、それでも前を見て自分を成長させようとする姿が余りに愛おしく…髪に頬ずりや、唇を落としてしまったのは許して欲しい。
北の森への道中も、余すことなく人々に力を与え浄化し…砦や北の森も浄化された。浄化だけでも消耗するのに、さらに長い移動。やっと城に戻っても、すぐに隣国への浄化の要請…。彼女は一人しかいないのに、満足に休息を与える事もせずに次の国へ。彼女を支え想いながら変えられない日程に、彼女に浄化を強いる人達と自分は何が違うのだろうかと苦悩する。
パラムに到着し、パラム王や叔母上に溺愛され甘やかされている従妹のエリザベータに苦笑するしかない。彼女に敵意剥き出しにし、やりたい放題な従妹。この国の王族で親戚に当たる為、無碍にも出来ず歯痒い。
パラムに来てから彼女との距離がどんどん離れている様な気すらする。前はよく視線が合い頬を染めてくれていたのに、最近は視線どころか姿すら見る事は難しい。叔母上と従妹に時間を奪われ彼女との時間も作れず、やっと会えた身内だけの晩餐の席で…テオの色を纏い夜の女神の様な姿を、奥歯を噛み締め離れた所から見る事しか出来なかった。
さらに晩餐後、従妹が私との婚約の話を持ち出し…王も叔母上も話を進めようとする。丁重に断りを入れるも聞き入れてもらえない。私には貴方しかいないという想いを込めて彼女に視線を向けても、俯いた彼女の瞳の色を見る事は叶わなかった。
「よぉ、色男」
私の部屋の入口で扉に寄りかかり腕を組んでるテオ。「何か用か?」と素っ気なくなるのは、仕方がないと思う。今日の彼女を見て平然とはしていられない。
「ジーク、お前まさかこのままって訳じゃねーよな?」
テオの真剣な鋭い視線が刺さり「当たり前だ。」イライラして短めに返答する。
「まぁいいけど、俺は俺で出来る事をするだけだしな。油断してると知らねーよ」
彼のいつもの軽い口調で告げて部屋を去っていく。
イライラしながらも彼女を想えば、少しは心が温かくなる。しかし最近彼女の笑顔を見ていない、触れてもいない。彼女の心はテオに向かっているのだろうか…今後を憂い表情は暗いが、彼女を諦める事なんて出来ないと自分の想いと向き合う事しか出来なかった。
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