第八話~王女、ファットの力を知る~
2話分くらいになりましたが分割投下するよりは一回で。1日1回は維持したい
「なるほどねぇ~、夜涼しくねたり暑い日に冷たいお水を飲むためかぁ~。たしかにひえひえくんもひゅーひゅーくんにはそういう使い方があるか」
「ええ。他にも酒場に置いておけば店はいつでも冷えたエールを出すことができるし、客もいつから冷やしているかの心配をしないでいい。氷を作れるくらい冷やせたら誰かが熱を出した時に氷の魔法を使える人間を探す心配もいらない……ちょっと考えるだけでもいくらでもですよ」
「……」
ファットの熱弁を、わたしはただ黙って聞くしかありませんでした。だってそうでしょう?わたしにはただの酔狂な玩具、そうとしか思えなかったそれからファットは民を豊かにする価値を見出した。
この差はくやしいですが納得するしかないですし、馬鹿にされていた彼女も後ろ盾を得てめでたしめでたし……
「うーん、そこまでいってくれると開発者としてはうれしいけどぉ~、だからってお金を受け取れるかってのは別なんだよねぇ~」
……だと思ったのに、まさか価値を見出された当事者が笑顔のまま手をパタパタふって拒否するなんてどうして想像できますか。
「な、なぜですか!?ほ、他の誰もがおもちゃ扱いしたそれにこれだけ出資してくれるというのに、受けない理由が……」
「いやぁ、だってさぁ。ひえひえくんもひゅーひゅーくんも”暇つぶし”で作っただけだからそれに本腰をいれろって”お仕事”にするのはちょっと……」
「……は?」
コイツハナニヲイッテイルノデスカ?
「あたしはさー、面白そうだとか興味がわいたとかそーいうやりたいなーって思ったことをじゆーにやりたいだけ。でもお金受け取っちゃうと”義務”になっちゃうじゃん?それはちょっとつまんないよ~」
ツマンナイ?ソレダケデキンカセンマイノユウシトチャンスヲドブニステル?
「そういうわけだからその出資についてはちょっとほりゅーってことで」
「あ、あなた……と、当家の客人相手にふ、ふざけたこと言うのもいい加減n……」
あまりにもふざけたことを言う彼女を詰問しようとしたわたしの口先にのそりと巨大なぷくぷくとした塊が差し出されます。
「ちょ、ふぁ、ファット?な、なぜ」
その塊は言うまでもなくファットの手で拒絶された張本人が擁護しようとするわたしの、王女の口をふさぐだなんて理屈に合わないではないですか。
「好きなことをしたい、人生に無駄と余裕を持ちたいというのは”豊か”な思いです」
だというのに、ファットはわたしではなく拒否しようとした彼女の意思すら”豊かさ”といって肯定するというではないですか。
い、いったいどれだけ器が広いというの?それともただバカなだけなの?
「んーんー、ここまで言われてそーくるかぁ……そっかー、怒るじゃなくて肯定しちゃうかー」
「ええ。気乗りしない仕事をさせるのは食べたくない料理でお腹をふくらまさせられるようなもの。そういうことはしたくありませんから」
「にゃはは!たしかに!気乗りしないお仕事は美味しくない食事だ!うんうん、その通り!君はそっちのおーじょさまと違ってわかっているねー!」
椅子に座ったままバタバタと足を(はしたないですが)動かしながら笑う
「ただ、見過ごすにはあまりにもおしすぎるので何かしら妥協していただけるところがあればしてもらいたいのですが」
「んーそうだなぁ……ちょっと、興味が湧いてきたかも。お仕事じゃなくて君に、ね」
「私にですか?」
「そーそー。君がこーまで豊かさに執着するのは君が貴族だからなのかなー、それとも単純に主義主張かなー?それとも……」
突然、そう突然ですケラケラ目を細めて笑っていた彼女の目が見開かれ、深く、深くなにかを読み解こうとするようなそこがしれない目にかわり、ファットを見つめだし……
「”恩寵者”だからなのかな?」
「――っ!!」
「にゃはは、どうしてわかったのって顔してるけどそりゃわかるよぉ~。だってたかだか男爵家のあととりさんが、王様の家の客人になってー、ましてやおひめさまにあんないされたりしないでしょ?」
言葉に詰まったわたしにたいしてケラケラと笑いながらまるで出来が悪いこどもに教えるがごとく、それでいてからかうようにまくし立ててくる。
「おまけに、さっきうちのはげちゃび……所長に嫌がらせしたでしょ?あれあたしもみてたんだよねぇ」
「なるほど……見られてましたか」
「そーそー、見てたよぉ。いやー、ぼんくらはげちゃびはわかんなかったみたいだけどあきらかに色々おかしいからそりゃねー……んで、実際のところどうなのかにゃー?」
「ちょ、ファット、そ、それは国家きみ」
「どうにもバレバレみたいですから今更ですよ」
「ですね。ファット様がファット様であり、なすべきことをなしそれによって気づく人が気づいた、それだけの話です……それにそもそも、王は別に機密にしろとはいっておりませんし」
は?ちょっとまってください。恩寵者の力は極めて重要な情報、どう考えても情報を制限する必要が……
「陛下はあまり言いふらすな、とだけ仰せでしたし家臣のかたたちも似たような有様でした。まぁ、言っても誰も信じないし言いふらしはしないと判断されたのかと」
……お父様、気持ちは痛いほどわかりますが、わかりますがそれは王としてどうなのですか?
まぁうん、それはそれとして
「……あなたたちいったいどういう神経してるのよ。口止めされてなくても普通隠すでしょう、そういうの」
「別に恥ずかしいものでもありませんし、公言はしませんが隠す必要もどこに?」
「そうですよ、ファット様はファット様。それ以上大事なことがありますか?」
あ、だめですこの主従。ある意味堂々としすぎてどうにもなりません。
「ねーねー、それよりさー。恩寵者っていうならどういう力をどんな神様からもらってるのー?」
そして空気を読まず研究者の彼女が割り込んできます……この場にわたし以外まともな人はいないのですね、そうですね
「ああ、そうでしたね。では陛下もあまり言いふらすなと仰せですのでここだけの話にしてほしいのですが私は……」
と、絶望していたのですがファットが神妙な顔で話だそうとしたとき、わたしの耳はその話に釘付けでした。
だってそうでしょ?どうみても恩寵者に見えないファットに授けられた恩寵と、恩寵を授けた神が何者なのか、しりたくないはずがないじゃないですか
そもそも、恩寵者自体が特別なのにその力について聞けるなんてまずあることではありませんし、正直わくわくがとまらな
「脂の神より恩寵を授かり、脂肪を操る力を授かっています」
「は?」
チョットマッテナニソレドウイウコトナノ?
「脂肪を操るってどーいうことなの?命令したらぐにぐに~ってそのとおりに動くってこと?」
「ぐれすさ……脂の神の言葉をかりると脂肪の力を自在にひきだせる、ということですね」
なんですかそのどうしようもなくしょうもない神様と恩寵は!?そんなか、か、かっこわるい神と力なんて聞いたこともなければはずかしいにもほどがありますよ!?
「うわぁ……脂の神様で脂肪から力ってそれもう……」
ほらみなさい!さっきまで興味津々だった彼女ですらどっぴいて額に汗を浮かべてあきれて
「めちゃくちゃヤバくて効率がいいじゃん、それ」
「……は?」
ナニを言ってるのこいつ?頭おいかれになりましたの?
「やっば、ちょっとほんとやばいじゃん。えー、なになにそれすごい。ちょっと本気できょーみわいてくるっていうか」
「いやちょっとまちなさい。脂肪よ?ぶよぶよして無駄なだけで美しさのかけらもないあれよ?」
思わず突っ込まずにいられませんでしたが、なぜか彼女はごくごくまっとうなことを言っているわたしにたいして若干憐れむような目線を向けてきます。
「そっちこそよく考えてよー。脂肪ってようは生きるためのエネルギーを蓄えるための存在だよー?効率で考えたらすんごいいいんだよ」
「いやいやいや、でも、脂肪ですよ?」
「いやそもそもさ、魔法ってのは魔力を使っていろいろやってるわけだけどさー、魔力がさ?もしやりたいことに足りない、でも魔法は発動させたーいって時どうなってると思うわけ?」
「どうなるもこうなるも魔力が足りないと魔法は発動しない、魔法の基礎ですよ?」
「いやいや、それがさ。できちゃうというか結構やってるんだよ、みんな。”生命力”っていう魔力とは別の体に宿るエネルギーを使ってさー、無理やりねばびゅーん!ってね。背伸びしてむずかしーまほーつかったりとか、魔力残ってないのに無理してまほーつかうとなんか疲れるのってそれほんとーに」
「……言われてみれば、思い当たる節はありますね」
少々不釣り合いな魔法を無理やりつかった時や魔力が枯渇しそうな時に魔法を使った際、発動と同時に気を失ったり膝をつくことはよくあることです。魔力を振り絞るのに体力を使っているとばかりおもっていましたが……あれは、生命力をつかっていたのですか
「ですが、それがどうしたというので?」
「わっかんないかなー。”魔力”は”生命力”で代用できる、んで”生命力”、生きるエネルギーを”余分に蓄える”場所ってどこ?」
「……あっ」
ちょ、ちょっとまて?それってつまり……
「そーいうこと。ファットはようするに、生きた魔力庫というか脂肪の重さが魔力の重さなわけ」
「……それ、恐ろしいことになりません?」
「だからそういってんじゃん。そもそもさー、魔力量って基本才能依存だし訓練で増える量だってそうでしょ?なのに体重が増えたら魔力が増えるんでしょ?極端なこと言えば食っちゃ寝してりゃいいわけでしょ」
「まぁそういってもいいのかもしれませんが……」
……魔力量の多い少ないは基本生まれつきのものですしその量を増やす訓練は地道で厳しく、それこそ軍の魔法部隊の訓練生の多くが血反吐を吐きながら行って、それでも才能の壁は絶対なのに……食っちゃ寝でそれがふえるって……
「魔力不足を補うための、魔力が回復する薬がいったいどれだけ貴重で高価だと……」
「そうなんですか?私はどれだけ疲れてもセルヴァが淹れてくれるラードティーを飲めばすぐに元通りなんですが……」
豚脂をいれたお茶が……いえ、豚脂が実質完全回復薬だなんて……
「真面目に修行している人間が聞いたら発狂しそうね……」
「いやぁもう、笑うしかないというかなんというか……」
わたしの率直な感想にたいしてさしもの彼女も同じように苦笑いをうかべ、ようやく意見が一致
「うん、こりゃもうあれだねー、ぜひともぜひとも君のことを研究させてもらいたいなー」
……しないのね。
「私のですか?」
「そうそう!君のその脂肪を魔力にする仕組みがわかればさー、いろいろと面白いことになりそうなんだよねー」
にまにまと笑う研究者はもうなんなんですか、これ。意味がわかりません、理解できません。
「もし君の研究をしてもいいっていうなら、その片手間というか!データ提供料としてちゃーんとお望みの研究してあげるから!おもしろそうなことやるためのひつよーけーひならちゃーんと払うから!」
「いや、払うからじゃないですよ!恩寵者の研究を当家の許可なくできると」
「かまいませんよ」
……またしても、わたしの当然の行動はファットに遮られます。あの、ファット……あなたわたしのこときらいですの?それとも……
「陛下はそのあたりについてなにもおっしゃられてませんし、それが民がゆたかになることにつながるなら断る理由はありませんからね」
……お父様、あなたという人は……
「にゃははは!!交渉成立!!安心していいよ!!ひえひえくんもひゅーひゅーくんも!あるいはそれ以上のものもこのシトロ=ネロールがかーんぺきにしてあげるから!!」
もう、すきにしな……って、ちょっとまって!?いま、この女なんて名乗りました!?
「し、シトロ=ネロールってたしか数年前にプロイン王国はじまって依頼の才女として異例の若さで登用された……」
「あー、そういやそういうこともあったねー」
「……なんでこんなところにいるんですか」
「なんかハゲちょびが嫌がらせしてきてうっとうしかったから脱毛剤ぶっかけてやっただけなんだけどねー」
「……そうでしたか」
……うん、なんというかあれですわね。もうどっとつかれたんでとりあえずやすみたいです
所長とお父様……こんどあったらかくごしておいてくださいよ?