第五話~王女、恩寵者と運命の出会いを果たす~
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わたしと同年代の恩寵者が現れた。そのことを国王であるお父様から聞かされた時、わたしはそれを運命と思いました。
だってそうでしょう?恩寵者とは神に愛されし英雄、選ばれし特別な存在。そんな存在がわたくしと同年代で我が国の貴族として生まれる。それがいったいどれほどの奇跡だとお思いで?
ですから、わたしがプロイン国王の第三王女として当然するべき覚悟を……我が身をもってその恩寵者を当家に繋ぎ止めこの国を繁栄へと導こうと決めました。
恩寵者の力は絶大、その力を御しきれず滅んだ国は少なくない。もし家臣の娘を与えたらその家が簒奪を企てないとどうして言い切れます?
だからこうするのが一番確実。ええ、確実でありこれも国のためなのです……べ、別に三女という微妙なポジションでこのまま流されるよりも憧れの物語の主人公ともいえる恩寵者の妻になったほうがかっこいい、なんて思ってませんよ?
そしてその思いをお父様にお伝えしたところ……
「しかしセリン、どうにもその恩寵者はいまいち容姿に優れぬというがかまわんのか?」
ああ、愛するお父様。一応そういう心配してくださるのですね、目にしめしめという色が浮かんでいるのは隠せていませんが。
ですが心配はいりません。歴史に名は残っても顔は残りません。というか、いくらでも脚色して残せるんです。
ええ、それに恩寵者の力を考えれば多少容姿がアレでも我慢できますわ。それこそ物語の蛮族や悪魔みたいな顔をしていたとしてもそれはそれ、戦場でのカリスマにも繋がりますし話としても盛り上がるのはそちらのほうですし。
もちろん、わたしも生きた女ですし美醜感覚は持ち合わせていますからかっこいい男のほうがいいですし大好きですよ?物語の主役もだいたいは美形ですし。でも、わたくしは顔がいいだけの男と何かしらの才があるブ男なら後者のほうを選びますわ。
顔がいいだけでは何もできない、物語を、歴史を動かすのはいつだって美しいものではなく行動するもの。だからわたしは覚悟を決めていました。たとえどんな相手であってもきっちりと受け止めて添い遂げてみせる、あ、愛する努力をしてみせると。
だから、(随分と疲れた顔の)お父様に呼び出され、真贋を見定め真であると判断された恩寵者と会うことが決まった時も不安はありませんでした。
だというのに、だというのに……
(これは……いくらなんでもこれは予想外だわ……)
お父様に案内されたわたしの目の前にいる恩寵者だという男。それは人というよりも脂肪の岩に顔がのっているとでもいうべき、なんというか縦と横どちらが長いのか真剣に悩みたくなる有様。
そんな男が、お父様と私を前にしてお付きらしい侍女が淹れた随分と独特で濃厚というか獣臭いような香りがするお茶を無駄に優雅な動作で飲んでいる……すべてにおいて理解が追いつきません。
「あ、あのお父様こちらが……」
「うむ、ざんね……間違いなく恩寵者である、オイリー男爵家嫡男、ファット=アブラギッシュ=オイリーだ」
「そ、そうですか……」
想像の斜め上というか下というかもはやなんといっていいのかわたしにはわかりません。
「はじめまして、セリン様。ファット=アブラギッシュ=オイリーです」
「こ、こちらこそはじめまして。第三王女のセリン=フェニルアラ=プロインよ」
口調といい作法といい文句のつけようがないのが逆に困るというなんとも珍しい思いをいだきつつ、挨拶をすませわたしは話を切り出します。
「それでその、お父様。本日はどういったお話で……」
「ああ、その……じつはな、セリンにはファットがここに滞在している間の案内役を頼みたく思うのだ」
「は?」
ちょっとまってください、どういうことですの?確か最初の予定では恩寵者は年齢のことを考えてすぐにでも王立の学院に……あっ
「……頼めるか?」
お父様のすがるような目が、わたしの推論が正しいことを裏付けていました。これはあれですね。学院に拒否られましたね。いえ、学院どころか軍などにも。
まぁ無理もありません。恩寵者の力は尋常でないと記されています。実際に確認したのならそれがどれほどのものなのか、わかったのでしょう……そしておそらく、それが本当に突き抜けていた。
制御する自信がなければ引き受けるのは劇物を飲み込むのと同じ、そして学院としては……その、この眼の前にいる存在が学生としてやっていけるかは疑問しかなかったのでしょう。
凄まじい力をもっているのに加えてこの姿では彼はどうやっても異物。まだまだ未熟な(いや、わたしも人のことをいえませんが)存在が学生たちの集団に放り込めばトラブルやいじめが起こるのは目に見えています。
いや、トラブル程度ですめばいいですがそれでもしいろいろとこじらせて我が国や人への恨みを抱くようになってしまったらそれは国が、ひいては人類の危機になってしまう。
「せ、責任重大ですね……」
おそらくこの案内役も当初はわたし以外にもいたという恩寵者を婿にしたい娘たちにやらせるつもりだったのでしょう。ですが、その……彼のこの姿におそらく親は皆二の足を踏んだか、踏まなかったものは逆に野心ありと考えられたのでしょう。
結局、お父様としては最大限の安全策としてわたしを選んだ、そういうわけです。そしてわたしはそれがわかってしまうから……
「わかりました、おまかせください」
断ることはできません。だって、ここでわたしがことわったらそれこそ彼は宙ぶらりん。最悪の方向にその転がりやすそうなみためそのままに転がらないとは言い切れないのですから。
「おお!!おお!!引き受けてくれるか!!いやよかった!!ではファット、今日から我が娘セリンがお主を案内してくれる。行きたいところやしたいことがあればセリンに頼むがいい!」
「ははっ!ありがたき幸せ!!」
うやうやしく肉に埋もれながら一礼する姿は肉の量さえ気にしなければ実に見事というべきでしょう。というか、よくみれば顔立ちの個々のパーツは悪くない、というかむしろいい出来といって間違いないです。
でも土台が、土台が脂肪に埋もれてはそのパーツの良さは逆に腹立たしくなってしまいます。
「セリン様、まだまだ物知らぬ田舎者ですのでどうぞよろしくおねがいします」
(うっ……)
ですがその整った目鼻立ちと声によって優雅に挨拶されてはちょっとだけ……ええ、ちょっとだけですがいい気分になってしまいます。ええ、はい。なにせ相手は恩寵者、約束された英雄ですしね。
わ、わたしがちょろいわけじゃありませんよ?ええ、わたしの理想はもっとこう、英雄英雄している相手ですもの。
「ええ、こちらこそよろしくおねがいしますね、ファット」
そう、わたしはちょろくなんてない。覚悟を決めたとはいいましたが父上や周囲の様子からして色々と予定は変更。
ええ、ええ。しっかりと見極めてどうするべきか決めますとも!!さすがにこれはかっこいいとかそういうことをいってる余裕はありませんし、愛する努力だなんだの問題外の気がしますしね!!
このときのわたしは……そう、おもっていたんです
じつはとんかつには塩派です。
続きは11日8時予定