第二話~ファット、オイリー男爵家を脂で満たす術を探す~
かくして天命を、そしてグレス様からの恩寵を理解した私は翌朝誰も起きていない時間に起きると部屋を抜け出し庭先へと向かった。
「これが爺やが頭を抱えていた岩かぁ……」
庭で耕している畑、その中にどしりと埋もれている大きい岩。耕しているところにでてきてどかすには大きすぎて、無理にかつごうとしたら爺やが腰を壊してしまうといっていた天使のようにかわいらしかった私の倍以上の大きさがある岩で、簡単にどかすのはどうみても不可能に思えたが
「えっと……たしかグレス様はぎゅっと力を込めたら脂から力がもらえるって……」
ドッ!!!
「あ、あれ……割れちゃった」
言われたとおりに力を込めてかるく押してみた、ただそれだけで爺やを悩ませていた岩は木っ端微塵に割れてしまった。
「すごい……これが、脂の力なんだねグレス様」
この衝撃的な経験は私にグレス様の言葉を確信させるには十分すぎるものだった。だが、同時に一つの問題を理解させてくれた。それは……
ぐ~~~~ぎゅるうううう!!!
「お腹すいちゃった……脂が、足りてないんだね」
ただ軽く押しただけのつもり、だがそれだけでその時の私の体にあった脂肪は悲鳴をあげたのだ。そう、私”たち”には脂肪が足りなかったのだ。
「うちには脂が足りない、もっともっと増やさないと!」
オイリー男爵領は決して貧乏ではなかった。食うに困った民で溢れるほどおいつめられてはいない、いないが……決して豊かとは言えず私にもそして周囲の皆にも脂肪はあまりついていなかったのだ。
「どうしたらみんなを脂あわせにできるか……とりあえず、朝ごはんまでもう一回寝てから考えよう」
と、決意を新たに急ぎ部屋にもどった私は庭の岩が消えていることに気づいた爺やの絶叫が響くまですやすやと眠りについたのでした。
そしてそこから数年……私が10歳になるまでは何事もなく平和にすぎていった。
いくら私がグレス様の力を授かっているといってもまだまだ幼い子どもであり、脂を蓄えようにも両親がそれを許してくれないし、自由もほぼなかった。
だが、10歳になった時ようやくある程度の自由と為にためたお小遣い、そして……
「本日から正式にファット様のお世話係をさせていただきます、どうかよろしくおねがいします」
「うん、セルヴァ。これからもよろしく」
私付きの侍女が……といっても、じいやの孫娘で私の遊び相手だったセルヴァだけど、彼女が侍女となってくれた。これで、条件が整った。
「それじゃセルヴァ、さっそくだけど仕事をお願いがあるんだ」
「なんでしょうかファット様」
ぺこりと新しい侍女服に身を包んでお辞儀したセルヴァに対して私は長らく考え、実行に移せなかった計画の鍵となる命令をだす。
「今から私、神殿にこもって勉強するから食べ物を用意して運んでほしいんだ」
「神殿でお勉強……ファット様、熱心ですね。しかし食事を運ぶとは……」
オイリー男爵領にも小さいながらいろんな神を祀るための神殿はあって、そこにはいろんな本が集まっている。それこそ、私の家にある本よりずっといっぱいいろんな本が置いてある。
みんなを脂あわせにするにはどうすればいいか、それを考えるには勉強するしかない。そして本気で勉強するならこうするしかなかった。
「一回外にでちゃうともう一回入場料払わないといけないからね。お小遣いは節約したいから、セルヴァには私が勉強してる時のご飯を運んできてもらいたいんだ」
「ふふ、それはそれは……わかりました、お引き受けします」
私より3つ年上のセルヴァは私が背伸びをして勉強をがんばるアピールをしようとしている、そう考えたのだろう。肩にかかりそうな髪をゆらしながら軽く微笑んで快く引き受けてくれた。その結果……
「セルヴァ、次もはやくもってきて」
「は、はいすぐに!!!」
セルヴァは神殿の厨房と図書室の間を何度となく走ることとなってしまった。理由は簡単、この時私は”脂肪遊戯”を使っていたのだ。それも岩を砕いた時よりも遥かに強く、長時間。
これこそが、今回の計画の根幹。グレス様は私に”脂肪遊戯”のことを教えてくれた時、勉強だって頭にエネルギーを回せば簡単にできるといっていた。なら、それを使えば神殿の図書室の本を読破するのも簡単ではないかと考えたがあいにくいまだ私に貯脂は大したことがなく、すぐにガス欠となってしまう。
これからのことを考えれば少しでもはやく、そして「お小遣いを節約」して勉強を終わらせたい。そのために考えたのがこの方法だった。
”脂肪遊戯”を使えばお腹がすくのは岩をどうにかした時にもうわかった。逆に言えば使った後あるいは使いながらご飯を食べれば貯脂以上の時間、勉強をすることができる。
だけど勉強を終わらせるまでに必要なご飯を最初から持ち込むのは無理がある、いやそれ以上にさすがに止められる。故にセルヴァの助けが必要だったのだ。正式な従者なら主のもとに駆けつけるのに入場料はとられない(無論本を読む権利はないが)。つまり外からただでご飯を運び込み放題なのだ。
それを利用してセルヴァに外からご飯を運んでもらい、それを私が食べながらひたすら本を読む。
食べる読む食べる読む食べる読む食べる食べる読む食べる読む食べる読む食べる。
食べる読む食べる読む食べる読む食べる食べる読む食べる読む食べる読む食べる食べる読む食べる読む食べる読む食べる……それを延々と繰り返し、セルヴァに渡しておいたご飯代が尽きる時、私はちょうど最後の一冊を読み終え……答えを、得た。
「みんなを脂あわせにするのに大事なのは……油だ」
そう、何をするべきかすべて悟った。まさにグレス様の導きあればこそ。オイリー男爵領を脂で満たす方法はあったのだった。
そしてこの答えを得た時私はその高揚のせいで気づかなかった。私が得ていたものは答えだけでないと。そう、すぐそばで……
「ふ……ふふ……ファット様に食べさせるの……いい……次はもっと食べてもらわないともっとちゃんと……」
私にひたすら食事を運び、食べさせつづけたセルヴァが何に目覚めたのか、それを私はこの時気づいていなかったのだった。
次は9日8時です。短くてごめんなさい。