第十七話~そして伝説は幕を開ける~
虹演出からのパイセンの旦那さん……水着CCOどこ……
小鬼長たちの処理を済ませた俺たちはそのまま陛下に調査を命じられた山へと向かったのだが、その先にいたのは……
「こりゃまた随分とうじゃうじゃわいたもんだな」
「さっきの群れの3倍……いや、4倍はいるかにゃー」
最初に出くわした群れが所詮は前菜に過ぎなかったと思い知らされるほどの規模をもった小鬼長たちの群れであった。
「先程の群れはこいつらに勢力争いで負けたのかしら?」
「かもしれないし、そうでないかもしれないし……どっちにせよちょっとわきすぎじゃない?放置した台所のアブラムシみたいなことになってるし」
「早急に駆除しましょう。アブラムシは従者にとっては最も憎悪する存在です。徹底的にあとかたものこらないように!!」
「ま、まぁ従者にとってはそうかもしれませんが……セルヴァ、あなた少し落ち着きなさい」
「落ち着いてますよ?とっても落ち着いてますよ。落ち着いて、冷静に、どうすれば一番キレイになるか考えてますよ?」
「いや、ぜんぜん落ち着いてねぇだろうが……」
セリン様たちに言われたからとはいえ、もし団長にみつかったら拳骨ですまない素の口調で思わずツッコミを入れてしまう。
「アブラムシは一匹みたら百匹はいると思えといいます。殲滅です、ただただ殲滅するしかありません。ここで一匹でも逃したらまたどこぞで増えます」
だが、そんな俺のツッコミすら気にせず、淡々と殲滅を訴える侍女……いや、すごい絵面だろうなこれ。しかし……
「たしかにこんだけ群れがでかくなると小鬼長がさらに力をつけて村や街道を襲うかもしれねぇし、一匹でも逃がすと群れを作るノウハウを学んでいて再発も十分ありえるわな」
言っているのは正しいんだよなぁ。魔物にしろ、動物にしろ厄介なのは知恵があるやつら。熊が恐れられるのは並の魔物よりも強いこともだがそれ以上に色々と学んでしまうから。
そして小鬼は熊よりも弱いが、群れを作り熊よりも早いペースで増え、そして道具を持ち、場合によっては魔法を使えるほどの知恵がある個体までいる。
「小鬼呪術師なんかが現れでもしたら被害はほんとうに洒落にならないからな……一匹残らず駆除は大事だわ」
「やはりアブラムシは根こそぎ殲滅なのですね」
「いや、アブラムシじゃなくて……まぁいいや。で、どーする?あたしの手持ちのお薬とかおーじょさまの魔法じゃちょーと追いつかないくらい数いるし、アブラで一気に燃やせば手っ取り早いかな」
セルヴァに負けず劣らず物騒なことを楽しげにシトロはいいだしやがるがちょっと待て、さすがにそれはまずいっての。
「燃やし尽くす油がどんだけの量でいくらになるとおもってやがる……それにお前、今の状況考えてから言えよ」
「森や山で炎の魔法を極力使わないのは基本よ」
うん、さすがに炎の魔法を使うセリン様はわかっていたか。そう、魔法の炎だって炎は炎。周囲に燃え移りもすれば火災の原因になる。ましてやそれがでっかい魔物の群れごと焼き殺すようなものだったらなおさらだ。
研究者の癖にそんな基本的なことすら考えてねぇのかよ……いや、天才っていうのはそういう常識が抜けてるっつーか当たり前がわからないからこそ天才って気もするが、それにしても……
「いや、キミタチこそ何いってるの。状況考えてないのそっちじゃん」
そんな俺達の当然の考えにたいして、さも呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「まぁ聞いてってあたしの考えが正しければ今からお茶をいれるくらいの時間で終わるからさ」
そして勿体つけてにやにやと、猫のような目をさらに細めて得意げになる。まったく、そこまでいうなら一体どんな考えがあると……
「ファットさー、最初に脂肪を自在に操るって言ってたし脂肪から魔力やらなんやら引き出せるならさー、脂肪からアブラをつくるのもできるよね?」
「は?」
こいつは何を言っているんだ?いや、うん。ファットの力を使うというのはわかる。恩寵者で破格の強さをもっているし。だが、うん。脂肪を、操る?
「……あなたには後で説明してあげるけど、ファットの恩寵者としての力よ」
よっぽど間抜けなわけがわからないという顔をしていたのかセリン様がフォローしてくれるがそれでも意味不明でしかない。
「そう、恩寵者としての力だけど……シトロ、あなたファットに何をさせたいの?」
「いやー、脂肪を魔力に変えることに比べたら脂肪をアブラにするほうが簡単だし?んで、自由に操れるんだからそれでそのまま地面をツルツル~って感じにして群れの足元をアブラまみれで囲い込んで着火。延焼もファットが調整したら問題ないじゃん」
うん、駄目だ。ほんとよくわからない。わからないが……
「……ようするにあれか。魔物の足元に油溜まりをファットに作らせて火攻めにする。んで、ファットならその火力を調整できるから燃え移らないってか?」
「そうそう、そういうこと」
何をしたいのかだけは理解できた。できるできないは置いといて戦について訓練受けているおかげだろうが。そのうえで……
「たしかに油溜まりを足元に作れて火力が調整できるならそりゃ有効だろうが……そんなのいくらなんでもできるはずが……」
そう、それはあまりにも都合がいいというかなんというか、恩寵者が以下に規格外といっても戦略とか戦術とか馬鹿らしくなる、強い弱いとかそういう次元の話じゃなくなる内容でしかない。そう思ったのに……
「脂肪もアブラのうち……いい勉強になりました」
「「「「「「ぐぎゃあああああああああああああ!!!!!」」」」」」
「にゃっはっは!!燃えろ燃えろ~!!いやぁこんだけ一気に燃えると気持ちがいいねぇ~」
「ですね。汚れがいっぺんに落ちる様は掃除の醍醐味……ああ、お茶が実に美味に感じます」
己が脂肪をアブラに変えて小鬼長に率いられた巨大な群れをファットが丸焼きにする様を眺めながらの狂気のお茶会を侍女と研究者が開催されている。それが、
全てだった。
「ファット様もどうぞ、いつもより濃い目にいれたラードティーです」
「ああ、ありがとう。ちょっと脂を補充したいからちょうどよかった」
「しっかりとお飲みくださいませ。ファット様に恩寵をくださった脂の神もファット様が脂を切らすのを望んでおられないはずですし」
「なんなんだよ……脂の神ってなんなんだよ……脂の補充ってなんなんだよ……なのになんでこんなに強いんだよ……」
「お父様も同じように頭を抱えていたわ……ま、割り切りなさい」
「そう言われましても……」
セリン様は堂々とされているが、それでも色々と言葉が追いつかない。もはやなんといっていいのか……
「いいじゃない。こうやって厄介な魔物が一掃されたわけだし。見た目や常識がどうこうなんて些細なことよ。それより炎がおさまったら色々と確認を……」
セリン様が顔を曇らせ真剣に何かを考えだしたその時……
「生臭い気配がすると思えば……ここをどこだと思っている!!」
「「「「「――――っ!!??」」」」」
突如、声が響いた。その声は今までひいたどんな声よりも大きく、威厳がありそしてただ聞いているだけで魂が震え上がり、股間が萎縮し、腰が抜けそうになる声で……
「我の領域で暴威を振るうか“神の犬”め!!」
そんな声と共に……伝説が、生きた龍がその姿を俺たちの……ファットの前にやってきてしまった。
そう、全てはここからだったんだ……




