第十一話〜ファット、王より密命を授かる〜
予約投下できてなかったーー水着武蔵ちゃんいい
「ファット、今日は折り入ってお主に頼みが有る」
それはお父様の髭を炙ってからおよそ七日後の夜のことでした。
研究所に行って以来ほとんど日課になったファットの邸宅でわたし、ファット、シトロがセルヴァの作った夕食(今日は野菜や鶏をごま油であげたものでした)を堪能していたところ急にお父様から使いがきて有無を言わさずその場にいた全員を秘密の会議場へと連行したかと思ったらいきなりこのようなことを言われたのです。
「お父様、どういうことですの?」
人払いがすんでいることを確認した上で、わたしはお父様を詰問せずにはいられません。だってそうでしょう?せっかくあげたての鶏をたんの……お父様は先日ファットからは距離を置くといったばかり。
だというのに急遽呼び出したかと思えば人払いを済ませた上で頼みたいことがある、です。先日お父様から伺った方針とは真逆です。
まさか、昨日の今日でもう方針がぶれたのですか?さすがにそれはどうかと……
「まぁまて、文句があるのはわかるがそれを言う前にまずは余の話を聞いてくれ」
「……そうですね、わたしとしたことがはしたない」
わたしがまた髭を炙るやもと思ったのか手で髭を守りながら落ち着くように促すお父様の情けない姿にわたしは少し冷静さを取り戻します。
「実は王都から馬車で3日ほどのところに、当家が直轄の山があるのだが……そこにどうやら魔物が住み着いたらしくてな。実情の調査とできるのであれば解決をお主に頼みたいのだ」
わたしが落ち着いたのを確認してもまだ不安なのか片手を髭にあてたまま、お父様は本題を切り出します。
「私が……しかし、恐れながら陛下、王家の直轄であるなら当然警備の兵などがいるでしょうし彼らで対処すれば」
そしてその内容にファットが当然の疑問をぶつけます。
「直轄の山といっても表向き目立ったなにかがあるわけでないし、魔物などが今まで住み着いたこともほとんどない。ゆえに担当はそこからほど近いところにある街道の兵たちであるがたまに様子をみるくらいのことしかしてないのだよ」
「ああ、なるほど……そしてその街道に被害がでだしたて、原因として考えられるのがその山しかないと」
「うむ。そしていくら原因がわかったとはいえ兵たちは人員が豊富でもなければ山のスペシャリストでもない。街道の利用者たちに被害を出さぬよう動いてもらうので精一杯である」
「にゃるほどねー、対症療法しかできないからファットで根治療法をってことかー……でも、なーんでファットなわけ?別にファットがいく必要なくない?」
「こら、シトロ。あなたお父様にむかってなんという口の利き方を」
あいも変わらず、王が相手だというのにいつもどおりなシトロをたしなめてはみたものの、わたしもシトロと同じ疑問を抱かずにはいられませんでした。
「でもさでもさー!人手がたりないから調査と原因の排除ができないっていうなら人手をふっつーに送ればいいだけじゃない?なーんでわざわざファットを送るわけ?」
そうなのです。いくらファットが恩寵者として優れた力をもっていてもまだ「男爵家の嫡男で客人」という直接の主従関係にもなければ責任もありません、
なのに、ファットを送る。その意味がわたしには理解できません。
「客人であるファットに頼むのは筋違い、本来ならばすでに役職についている家臣たちをというのはわかる。わかるが……今回はそうもいってられなくてな」
「んー、どういうこと?」
「それは……」
「王都からほど遠い街道に魔物があふれて兵を動かす……周辺諸国が何をいうかわかりませんね」
お父様が応えるよりもはやくファットが口を開きます。
「ほう、さすが。よくわかったの」
「えーと、つまり?」
「その街道の先には国境がある。今まで前例がない場所へと兵を多数動かせば”戦争”をはじめるつもりと思われる……酒場で厠の場所が出口の途中で厠に行くといっても店側が食い逃げを疑うようなものですよ」
「その例えはどうかと思いますが……」
「なるほどねー。まぁそれはわかったよ。けどさ、それ人手を送らない理由になってもファットを送る理由にはならないよね?ふっつーに強くてもうそういうお仕事してる人にまかせればいいじゃん。騎士団とかそーいう人たち」
「その理由は2つある。1つ、ファットの力は絶大であり単騎で調査解決を見込むならばファットが最適であるということ。ファットがいった通り被害がでだしている街道は国境に通じる。民に被害がでては経済的にも、そして他国からの信頼的にもまずい。一日も早く解決したいのだ」
ああ、それでファットに頼ることにしたんですね。軍やチームでの運用は未知数ですけどファットの魔法の威力はお父様もご存知とのこと。魔物が溢れかえった原因を見つけたら魔法で吹きとばせばすみますもの。
距離を置くと行っておきながら必要とあればきちんと決断を下せる、お父様おみご……
「そして2つ目は……普通ならこういう仕事を任せる騎士団長が現在手首を痛めて剣を持てぬからだ」
……そういえば、そうでしたね。職務中の名誉の負傷とのことでしたがどうして怪我をしたのか具体的に一切語られていませんが。
まぁ当国最強の騎士と名高い団長ですからきっと秘密の任務でさぞ手強い相手と戦ったのでしょう。きっとそうでしょう。セルヴァがぼそっとあの自爆騎士まだ……とか、食事が足りないから治らないとか言ってるのは気のせいです。そうに決まってます。そういうことにしてください。
「そういうわけなので、頼めないかファット。表向きには出来ぬ、されど大事な仕事であるし、報酬はしかと出すぞ!!」
そしてそんな微妙な空気をふりはらうように、お父様が声を張り上げてファットに頼み込みます。もう、よっぽど他の手がないのかこれ以上ないほどなりふり構わぬお願いっぷり。
お父様、何もそこまでしないでもファットなら……
「わかりました、陛下。団長が動けないことに責任もなくはありませんし、陛下には大変良くしていただいております。プロイン王国の貴族たるオイリー家、その跡継ぎとして、陛下の客人としてしかとその期待に応えてみせます!」
ほら、こうなります。ファットは見た目こそ脂肪の塊ですけど内面はコレ以上無いほどちゃんとした貴族なのですから、王の頼みなら否があるはずもありませんのに。
まぁでも、礼儀を尽くすのは両方に大事ですから黙ってみてい……
「おお!ありがたい!では報酬以外にも必要経費として馬車と道中の食事は当家が用意しよう!」
あっ、お父様それは……
「片道3日、往復で6日であるし、そうだなその倍、いや3倍を用意して」
「10倍でお願いします」
「え?」
「10倍です……20倍といいたいですが、さすがに運ぶのも大変ですし」
「……10人分の働きに期待しておく」
食料を用意する、なんていうからですよ……まぁでも、10人の兵を派遣すると思えば安上がりですから文句は言えませんよね、お父様
ええ、この時はファットなら簡単に解決する。そうわたしは楽観していました。それがまさか、あんなことになるだなんてーー




