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異世界の死の商人  作者: ワナワナ
第三章

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第四十六話 百希の一番の願い

アクセス、ブックマークありがとうございます。来年もよろしくお願いします。

 ミーラがどんな顔をしているのかは分からない。ただ一つ分かるのは彼女の手が震えていること。


「別に今生の別れでも無いし、大丈夫。」


「……私とあなたが一緒にいた時間は少ないです。でもあなたが百希さんと過ごした時間は……多分とても多いです。この意味を本当に分かっているんですか?」


「確かに少ないけど……濃密で二度とない経験だった。」


 彼女はこれまでの事を思い出しているのかしばらく静寂が場を支配する。彼女の懸念は俺も何度も考えた。もしかしたら今、心の奥に秘めたこの心も俺自身も薄れていくかもしれない。そう思うと怖かった。でもこのまま保留しておいても俺は俺を知らずに彼女と過ごすことになる。


 自分が誰よりも自分の事を理解していないと彼女達の事なんて一生理解出来ない気がする。


「……色んなことがありました。」


 彼女は一言言った後、またしばらく考え始めた。俺は彼女の手を握って震えを抑える。


「分かってはいます。本当はあなたが記憶を取り戻す事を喜ぶ方が良いと背中を押したほうがいいと。」


「なら……。」


「でも……私もお願いがあります。」


 彼女は強く、強く俺の手を握る。


「私を一人にしないで下さい。」


 彼女はもともと身寄りのない子だった。当時は俺も一人だった。その言葉の重さは昔と変わらない。


「それと質問があります。この事はアイスさんには言いました?」


「いや、言ったらどんな手段でも止められそうだから。」


「……言ったほうがいいと思いますよ。」

















 戦争が始まったせいかミーラとアイスはできる限り俺といようとする。流石に暗殺される事はもうあり得ないと思うがそれでも彼女は油断していない。


「風邪が治って良かったわね……何を隠したのかしら?」


 俺は地図の上に置いてあった駒を片付けたがバレてしまった。ただそれが何を意味するかまでは彼女は分かっていない。


「アイスは知らなくても良いこと。」


 まさか現在の帝国軍の位置を教えるわけにはいかない。知る人はできる限り少ないほうがいい。今、彼らは東へこれまでとは段違いの行軍速度で移動している。俺はその行く先々に必要な物資を召喚しているが彼女達はそれすら知らない。


「……。」


 彼女は不満そうだったがそれ以上は言わなかった。唐突にテーブルの上に新聞が投げられる。俺は一瞬アイスが本気で怒ったのかと思ったがそうではないようだ。


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「君もお腹空いたでしょ?何か食べに行こうよ。」


「えっ、これお菓子だけど……。何でもないです。行きます。」


「ユータ様……流されないでください。」


「……やめようかな。」


「結局君は流されてない?」


「今丁度それを思ったところ。」


 結局昼食はいつも通りアイスと俺が作ることになった。一度百希が作ったこともあったがどう考えても彼女では作れない料理が出てきた。まぁそもそも彼女は料理をしたことは無いだろうが。


 基本的には俺とアイスが料理をするときは何も喋らない。彼女いわく、集中したほうが美味しくなるそうだ。でも今日は違った。


「あれ、アイスどこだっけ?」


「ここにいるわよ。」


「そうじゃなくて食べるほうのアイス。」 


「……………!確か無かったわね。」


 彼女が勘違いしていたことに気づくのは少し時間が必要だった。


「……そういえば何でアイスって名前なの?」


「ユータは雪って見たことがある?」


「あるよ。」


「母も冒険者で昔見た白銀の世界が忘れられなくてこの名前にしたって聞いたわ。ユータは?」


「ミーラがつけてくれた。確か由来は……魔王を倒した人だった。」


 彼女の手の動きが止まる。


「どっちかって言うとそれは東の方で伝わっている伝説よ……変ね。」


「そうなの?そんな細かいことは気にしないでも……。」


「用心するにこしたことはないわ。死んだら終わりなのよ。」


 俺は彼女から目をそらしてしまった。彼女の定義では記憶を取り戻すと俺は死ぬことになる。その後ろめたさからの行動が彼女に気づかせていた……その事に気づいたのはしばらくあとだった。















 しかし思い返してみれば伝説の英雄と同じ名前でそれをなんとも言われていないのは、伝説そのものがここではあまり人気ではないからと考えると説明がつく。


「珍しいね、こんな時間に僕を起こすなんて。」


「ごめん百希、ただ……。」


「ただ?」


「決心がついた。」


 その言葉だけで全てを察したのか彼女は指を鳴らしてあの世界に連れて行こうとするその時だった。


「gravitate」


 重力のスキル、もう彼女しかいない。彼女は俺を抱きかかえてただ百希を見ていた。百希は何も言わずに指を鳴らす。


 今回ははじめからデータセンターのようなあの場所からスタートだった。格子状に永遠に続く光の羅列は膨大な記録の証。だけど彼女達はそんなものに目をくれていなかった。


「返してくれるかな?何せ本人が自らの意思を表明したんだ。」


「関係ないわね。ユータの自我に関わることよ。」


 今気づいたがミーラもアイスと一緒にいた。ただそれも当然かもしれない。


「僕はもうたくさん待った、そこから対価を得ないと。」


「……百希さん、私に勝てると思ってるの?」


「力で押し通すの、僕はどうかと思うね。」


 いつだっただろうか?彼女達と戦う事を考えた事がある。俺は想像上では全く二人に勝てなかった。でもこの状況下で逃げたらだめだ。逃げたら悪化するだけだ。


 まずは場を支配しないといけない。


「アイス、百希、黙って。」


 そのために心を鬼にする。二人とも俺の口調に驚いたのか口喧嘩をやめる。


「お互いどうしても譲れないことがあるこういう時は俺の世界なら裁判するけど今回はミーラとアイスの世界の方法で決めよう。何で決める?」


 二人はしばらく小声で相談した後にこう言う。


「「決闘です」よ」


 致命傷に相当する損害と仮想世界で判定されるか降参するまで終わらない。立会人はなしなど様々なことが取り決められていく。


「私達が勝ったら金輪際、記憶を取り戻すなんて言わないいいわね?」


「うん。それで俺か百希が勝ったら記憶を取り戻す。」











 作戦会議の時間が与えられた。ミーラとアイスは本気だが百希は勝った気でいるようだ。


「はぁ……君って人は……僕がいたら勝ち確定なのに何でわざわざこんなことをするんだい?」


「言ったでしょ過程が大事なの。当たり前だけど百希のシンギュラリティは禁止だから勝ち確定ではないよ。」


「えっ…………なら僕らの負けだよ。終わり終わり、僕も君も全然体力ないし。」


 百希はぐでーって擬音が聞こえそうなくらい力を抜いて諦めた。


「降伏でもする?」


「あり得ないね。僕も君も本気を出したら勝てるって事証明しよう。」


 百希は手のひらを返す。彼女も様々な条件を無視すれば勝ちたいのだ。


「そう言うと思った。こっちは頭を使って勝ちに行こう。」


 実は勝負はミーラやアイスに選ばせたが勝負の場所はこちらで決めた。地の利と文明の利器で先行逃げ切りを狙う。

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