第三十八話 準備を進めよう
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現在は夕方。もうすぐ夜になろうとしている。
「えっ、俺がいない間に選挙があったの?」
「満二十歳以上の男女だからユータには関係ないわよ。」
どうやら楽しい船旅の最中に重大なイベントが起こっていた。港湾都市の大通りをアイスと歩きながら話を聞く。
「あれ?アイスって何歳だった?」
言った後に気づいたけどこれってダンケルクの戦い位に絶望的な状況にしてしまったのでは……。
「あなたより上なのは間違いないわね。ユータは?」
彼女は具体的な数字を一切言わなかった。
「さぁ……なんせ記憶が無いし。」
「冒険者カードを作る?そうしたら分かるわよ。」
「本当?アイスの見せて。」
「しょうがないわね……。えっ?」
彼女はキラキラのカードを取り出そうとしてから気づいた。惜しい。後少しで真の年齢が分かったのに……。
「ふーん。そんな事をするのね。」
「……ちょ痛い痛い。耳を引っ張るのは止め……。」
「反省したかしら?」
まさかこの大通りで報復してくるとは思わなかった。
「はい……所でアイスは投票した?」
「いや私は出来ないわよ。」
「って事は二十歳未満か。」
「全然……反省してないわね!」
クリティカルヒット!好奇心は猫を殺す。今それを実感した。
この街は帝国の南の玄関口だ。だからいつも多くの物と人が行き来している。大通りには露店が立ち並んでいていつも活気に溢れている。
そうここは俺が商売をするのにうってつけの場所。この街と新大陸を航路で結んでたくさん儲けさせてもらおう。
「それで今日は何するつもりなの?」
「まずはご飯。」
この都市で一番高そうなお店を予約しておいた。彼女の反応が楽しみだ。
「ユータ、ここにしたの?うそ……。」
アイスがお店の前で立ち尽くしてしまった。よく見ると、表情が緩んでいる。
「みんなには内緒ね。」
「もう……。」
何かの感情が彼女の中で爆発したのか俺の頭をなでてくる。どうしよう実は主目的は別にあるけど今更言える雰囲気ではない。
お店の中に入る。ここは都市の中心その時計塔の上部にある。だから港湾都市を一望できる。
「お、ユータ来たか。」
「久しぶりリベレ。」
アイス、いくらVIPルームだからって手を強く握らないで……。
「相変わらず二人は仲睦まじいな。」
「な、何で一国の首相がこんなとこにいるのよ?」
「ユータが話があるって言ってきたからな。」
「えっリベレ、首相になったのか?」
「ユータ……知らなかったのか……。」
座って三人で話す。何故三人なのかには少し深い事情がある。本来なら俺とリベレだけで良いのだが紆余曲折あってメラージ家の影響が加わった体が必要になってしまった。そこでメラージ家では一番政治的センスのないアイスに白刃の矢がたった。
つまりは帝都の政治ゲームの結果だ。うん、どうでもいいや。
「それで何を始める気だ?」
「かくかくしかじか。」
「……海運業はいいがゴールドラッシュか。」
ミーラが見つけたのは本当に金だった。アトランと百希に確認をとったから間違いない。
「新大陸の土地は鉱山資源地帯とインフラを除いて売るつもりだけど東海岸の金山は全部国にあげるよ。」
戦争がないときに軍事費が増えるにはやっぱり国家予算全体が増えたほうが早い。ゆえに経済力底上げのために気前よくあげることにした。まだ西海岸にも金山はあるし何の問題もない。
「分かった。兵器の支払いも待ってもらってるしできる限り税制で優遇するからな。」
「今、とてつもないお金が銅貨みたいに動いたわ……。」
「武器商人ぽいでしょ。」
「そ、そうなのかしら?」
絶対違うのにアイスは騙されてる。今日は俺が主導権を取れた珍しい日だ。
「ユータ、他に何か国に動いてほしい事は?」
「無いよ。財政がましになったら武器を買ってくれ。」
「あぁ分かってるよ……任せとけ。フロント帝国銀行も設立したし上手くいくはずだ。」
夜は更けていく。テーブルの空になった酒瓶を店員が下げて新しい物を持ってきてくれる。異世界だからかお酒も飲ませてくれた。でも良さはさっぱり分からなかった。
「メラージ家の連中ひどいんだよ!俺が張り切って街に出て女の子を口説いたらそいつもメラージの親戚……。あいつらの婚姻政策は絶対間違ってる。」
目の前の彼は完璧に酔っている。そういえば戦勝パーティーでもリベレは女性に囲まれていた。でも俺は籠絡された側だから偉そうなことは言えない。
余計なことを言わないように酔い潰そうとしてるのかアイスが黙ってリベレのコップにお酒を注いでいる。怖……。それを持ったまま俺にも聞く。
「ユータも飲むかしら?」
「ありがとう。」
オレンジジュースが良いとかアイスの前では言いたくない。つい見栄を張ってしまう。彼女は俺の見栄など露知らず、オレンジジュースを注ぐ。人のことをよく見てる。
「あなたのことはなんとなく分かるわよ。それに……」
「それに?」
「ユータはまだ子供よ。」
叶わないな……。今幸せだ……。
「なぁユータ、平民の女の子紹介してくれよ……。」
「そういえば北方で平民に落ちた子がいたわね。伝えておくわ。」
「殺す気か……。」
そもそも俺の知り合いは非常に少ない。だから平民の女の子なんてミーラしか知らない。絶対紹介しない。
「俺にそんな知り合いはいない。」
「なら今度、帝都でナンパしようぜ。」
リベレこそ俺を殺す気でしょ……。アイスが俺のことを見てる。これに応じたらどうなるか分からない。
「本当に首相だよな?」
「ああ、いい仲間に恵まれたおかげだ。」
「俺には彼女がいるから断るよ……悪い。」
「へぇ……誰が一番好きなんだ?」
Noooo!馬鹿なの?死ぬの?その質問は俺を地獄に突き落としかねない。リベレは分かっていて質問しているのか顔が笑っている。
「……誰なの?」
おもしろそうな声でアイスが追い打ちをする。
「いや、そんなの決めれないよ……。」
「ユータ、これを持ってくれるかしら。」
その丸とバツが組み合わさったペンダントは見たことがある。真実が分かるマジックアイテムだ。
「本当はミーラさんの方が好きなのよね?」
だが俺はこのマジックアイテムの対処法を知っている。黙秘することだ。ただアイスは俺の意図が分かったのか少し笑う。
「沈黙は肯定とみなすわ。」
え!?やっぱりアイテムの所有者は使い方も熟知している。
「えーと、その……。否定でもないし肯定でもないというか……。」
「アイテムが反応してないな。やるなユータ。」
「私は怒らないわよ。正直に答えた方が身のためよ。」
リベレが超楽しんでる。いつか仕返しをしよう。アイスも少し酔っているのか顔が火照っている。酔っ払い共め……早くなんとかしないと。
「三人とも好きだから選べない。」
「へぇ……三人なのね。」
しまった……。このあとも彼女はしばらく俺をからかい続けた。最初はこっちがからかっていたのに、いつの間にか攻守が逆転してしまった。でも彼女とならこんな日も悪くない。




