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異世界の死の商人  作者: ワナワナ
第三章

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37/50

第三十七話 何かがおかしい

ブックマーク、評価ありがとうございます。気づけばユニークアクセスが一万人を超えていました。感無量です。ありがとうございます。

 ミーラに連れられて金色の石が取れた河に向かう。もしこれが金ならゴールドラッシュが始まる気がする。ただ器具もないから俺には分からない。


「!?伏せて下さい。」


「どうし……。」


 喋ろうとしたけど、しーってしてる彼女を見てやめた。小声で状況を知らせてくれる。


「アークバードです。すごく美味しいですよ。」


 彼女はすごく興奮している。語彙力も思考力も落ちているようだ。彼女の指差す方を見ると木に確かに鳥がとまっている。


「ミーラは弓を持ってないけどどうやって捕るつもり?」


「あ……そうでした……。」


 がっかりしたのか猫耳がぺたんと折れる。詳しく聞いてみるとアークバードはフロント帝国にはほとんど残っていないらしく貴重らしい。遠距離戦は俺に任せて欲しい。


「M24 SWS召喚。」


 狙撃銃を召喚してしまったけどこの距離ならショットガンでも大丈夫だった……。でも期待の目で彼女が見ているし再度召喚する時間も惜しい。


 ただ集中してアークバードにレティクル(照準線)の真ん中を合わせる。その後静かな川辺で銃声が鳴り響いた。興奮する気持ちを抑えてセーフティをかける。


「ミーラ、捕れたよ。」


 彼女は耳を押さえている。獣人にはとてもうるさかったかもしれない。


「うぅ……。ありがとうございます。」


 彼女に手を貸して立ち上がらせる。


「お礼に私が料理しますね。」


「シンプルなものでお願い。」


「任せて下さい!」


 考えるよりも先に答えていた。ミーラのナイフの使い方は感心するけどそこから先はノーコメントだ。でも手順が少なければ失敗する確率も減るはず……。


 彼女がアークバードを解体している間に川から石を探す。水が澄んでいるからすぐに見つかった。


「もう見つけたんですか……私にも見せて下さい。」


 ちょっと悔しそうで可愛かった。持ってみた感じでは金のように思える。ただ専門家でもないし断定はできない。


「きれいですよね……。」


「欲しいの?あげようか。」


「私はもう持ってますよ。」


 そう笑う彼女は満足そうだった。後一つほど石を探してから食事にする。ミーラは獣人だから焚き火の近くで座っているだけで様になる。もし毛皮のコートでも来てたらもっと可愛かっただろうな。


「焼いて、塩をふるだけで本当に良かったんですか?」


 異世界に来て一番真剣にうなずく。せっかくの素材が台無しになりかねない。


「はい、どうぞ。」


 アークバードの焼き鳥を彼女の口へ運ぶ。いちゃいちゃする以外の他意はない。決して先に食べさせようとかそんなことは考えていない。


 次にまだ口の中でもぐもぐしているのに彼女が俺にも食べさせてくれた。あれ?普通に美味しい。これは素材が素晴らしかったのかそれともミーラの壊滅的な料理の腕が上がったのか判断がつかない。


「……ちょーおいしいです。」


「もう一羽取りに行く?」


「周囲三百メートルにはいないからいいです。」


 さらっと人外発言が飛び出る。彼女が少し笑っていたから多分冗談だ。俺の変な冗談を真似てるのかな。


「ミーラ、帰りは船にするけど空港に忘れ物してない?」


「"えふじゅーご"ではないんですか?」


「ん……ミーラは離陸するときのフワッとする感覚が苦手そうだったから。船にしたほうがいいかなって。」


「船だと時間がかかってしまいますか?」


「そうだね。」


「良いんですか?」


「うん。」


 彼女は何回か確認したあと自然と口元が緩んでいた。そろそろ出発しよう。













 東海岸へ着いた。実は船で帰るのは他にも理由がある。これから新大陸と帝国を航路で結ぶわけだがその航路が安全かどうか確かめないとならない。


「マーシー級病院船召喚。」


 なぜ病院船を召喚したのか?俺なりに考えた結果だ。この武器召喚のスキルはガバガバなように見えて実はきちんとルールに基づいている。


 軍に属する物とそれに必要なものしか召喚出来ない。俺が今まで召喚してきた大半のものがこれで説明がつく。


 これが俺の推測したルールだ。まぁ基地の中に雑用品がいくつか紛れて召喚される場合もあるにはあるが例外的だ。


「ユータ様、今日は灰色の船では無いんですか?」


「これは病院船。本来はけがした人を乗せるんだけどただ人を運ぶ為に使おうと思う。」


 現代の軍隊は長距離の兵士の輸送に軍用輸送機を使っている。そして過去は民間の客船を徴発している場合が多い。


 兵士を輸送することに特化した艦艇は数少ない。今回は軍艦を客船として転用するから。こんな結論になった。


「むー何か隠してないですか?」


「ソンナコトナイヨ。早く乗艦しよう。」


 なぜ女の感というのはこうも鋭いのか。だがそんなことでは俺の計画は止まらない。













 夜になった。彼女が寝ているのを見計らって部屋の外に行く。


「アトラン、指輪は召喚できない?」


『いいえ。もし欲しいなら百希さんの権限も必要です。』


 そう最近どうも俺の武器使役スキルさんのAIがおかしい。クラッキングを受けている気がする。だから最近話していなかった。


 何かがおかしい。俺は一度死にかけた。その時、俺は自分が何者であるかは知った。ただ百希にまだ直接聞いていない。


 彼女は何者なんだ?そして俺は本当に自分が誰か知ったのか?まだ記憶も取り戻していない。不自然に疑問が逸らされてきていた気がする。今思えば彼女とは明らかに不自然な出会いをしている。


「流れ星か……。」


 空を見上げれば流れ星が現れては消えていた。流星群かな……。


「ユータ様……眠れないんですか?」


 驚いて振り向く。彼女は眠たそうにあくびをしながら歩いてきた。猫って夜行性ではないのかな?知らないけど。


「うん少し気になることがあって……。それより眠くないの?」


「何か隠し事があるなら話してくれませんか……。」


 やっぱり彼女に隠し事はできない。


「ミーラ、俺って誰だと思う?」 


「……?私の大好きな人ですよ。」


 見事な奇襲攻撃!空母十一隻撃沈する大戦果ですねこれは。何てふざけている場合ではない。何て返そう……。でもとっさに出てくるってことはきっと本心なのかな。そうだったら嬉しい。俺はそっと彼女を抱きしめる。なんだか悩みがどうでも良くなってしまった。



「そういえば……流れ星が落ちる前に三回願いを言えれば叶うらしいよ。」


「何か願いましたか?」


「まだこれから。耳を塞いでおいて。」


 彼女は猫耳をぺたんと折り曲げてくれた。


彼の願い(ずっと一緒にいれますように。)


「……今度は私の番ですね。聞かないで下さい。絶対ですよ。」


彼女の願い(家族が欲しいです。)


 心なしか彼女の顔が赤かった気がする。まさか聞いてたのかな?いや同じようなことを願ったのかもしれない。


「何を願いましたか?」


「多分ミーラと同じ。」


「同じです……か?」


「おやすみなさい!」


 最後の挨拶は極めて早口だった。しかも全力ダッシュだった。転ばないか心配になる。一体彼女は何を願ったんだろうか。


 星屑の下で俺は拭いきれない不安を抱えながら東に移動していた。

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