第三十四話 戦後処理の途中
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『新たなる体制。帝国は万人の意見を聞くための衆議院と貴族院を設立し、近くに選挙を行う事を決定した。臨時政府による統治は選挙が始まると共に終わる事も示唆されており……。』
これで命を狙われる生活も終わりだな。やっと終わったか。俺は新聞をテーブルに置いてだらける。そんな俺に一枚の手紙が来る。
「王都から招待状よ。あ、今は帝都だったわね。」
いつもは俺の目を見て話すのに今日はアイスは視線を右の窓の外によく向けている。そういえば人って嘘をつくときに右を向くらしい。関係ないか。
「ありがとう、アイス。ん?招待状?」
「ユータ様、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたいですか?」
ミーラが俺に楽しそうに聞いてくる。内戦が終わったからだろうか彼女は上機嫌だ。耳が時々動いてて可愛い。
「良いニュースから。」
「おめでとうございます。帝国はあなたの功績をたたえて叙爵?するみたいですよ。」
ちょっと首をかしげながら彼女は言う。叙爵?俺が?功績だけならチャンスはあるだろうけど前線で一切戦ってないからあり得ないな。
「叙爵って貴族にするってことよ。正確には華族って名前だけどね。」
「そういう事ですか!アイスさんありがとうございます。」
「え?身分が開放されて平等になったんじゃないの?」
「確かに平民に華族とほぼ同じ権利が与えられて華族も平民と同じように課税されるわよ。でも身分自体は消えて無いわ。」
俺が華族になる意味は一ミリもない気がしてきた。というかこのまま行くと中央集権的な国に移行しそうだから、実利は無いんだろうな。
「な、なら奴隷は?」
「僕は君の所有物のままだね。人口比からみても当たり前の結果かな。」
百希はとても嬉しそうに答えている。いや待て!奴隷なら権利を求めてほら。
「悪いニュースは?」
「僕から伝えるよ。ヒントは戦争が終わった事かな。」
……あ。
「僕らの仕事は無くなるよ!」
笑顔で百希はそんな事を言ってのける。良い事だと俺も思うけど……明日からどうやって稼ごう。
「悪いニュースって思って無いでしょ?」
「それは君もだよね?」
労働者側は売上なくても給料貰えるもんね……。奴隷は解雇出来ない。まだお金はあるしこれから対策を考えるか。
「……招待状に返事を書いてくれるかしら?」
アイスが手紙を俺の前に持ってきて催促する。ハートの封がしてあって彼女らしくなかった。メラージ家の紋章なのだろうか?
「良いよ。」
俺はろくに紙を見ないでサインを書く。彼女の事は信頼している。少なくとも俺がこのスキルを失わなければだまし討ち何てしない。
「……。」
アイスが今まで見たことないぐらい落ち込んでる。いやちょっと喜んでるのか。
「待って下さい。これ招待状じゃ無いですよ……。」
「え、そんなまさか?」
俺が手紙を見返そうとすると彼女は部屋を出ようとする。俺はその手を掴む。
「ストップ。」
彼女は俺と目を合わせないように外をまだ見ていた。諦めて手紙の中身を読む。単語、単語が丁寧に書かれていて長い時間をかけた事が伝わる。
『 私の愛するユータへ。
まずは告白する勇気がでなくて手紙で伝える事を謝るわ。思い返せばあなたと初めて会ったのは夏だったわね。あの時、あなたの規格外さがよく分かって同時に初めて対等な人を見つけた気がしたわ。あなたのスキルは強力で私みたいに冒険者になって自由に生きないで革命の支援をしてた。私とは反対で羨ましい。
他の人のために生きるあなたが好き。
あなたはいつも私と対等に接してくれた。他の人が貴族とかSランクとかそんなくだらない肩書に壁を作っていたのに普通に接してくれたそれに疑ったりも。嬉しかったわ。たまにからかったり、仕返しされたりそんな普通が楽しい。
変わらないあなたが好き。
でもそんなあなたが死にかけた時は泣きたかった。あの時、あなたを失いたくないって誰よりも思ったわ。それと後悔したの。たくさん伝えてないことがあって、伝えるべきだったって。伝えたらあなたは全てを分かった上で肯定してくれた。お人好し過ぎて心配になる。
優しいあなたが好き。
私はミーラさんみたいに裏表無くあなたを愛せないけど色々な好きを言えるわ。だめ……この手紙をずっと書いてると心臓が体が熱すぎて溶けちゃいそう。このまま書き続けたら私の好きが抑えきれなくなりそう。この手紙を読んであなたがどんな反応をするか考えるだけでもドキドキする。
ユータ、もし私と一緒にいてくれるならここにサインしてくれないかしら。
メラージ・アイス』
……前に重力で上に落ちたけどこれ以上の苛烈な報復を覚悟した方がいいかな……。できる限りゆっくり手紙を畳む。
内心でそんな事を思ってたのか全く顔に出ないから分からなかった。どっちかって言うと打算の要素が強いと思ってた。
この場にいる誰もが俺の発言を待っていた。もうすぐ手紙を折り終わる。本当にどうしよう……。こんな時彼女ならどうするだろうか?
ちらっと彼女を見ると目があった。彼女はただ真っ直ぐ俺を見据えている。言葉にはしないけど分かった。そうだね思った事をそのまま言えばいいかな。
「俺、アイスの事を誤解してた。気づけなくてごめん。」
彼女はただ続きを待っている。その先があると確信している。その様子を見ていると彼女を完全に理解できる日は来ないなと思った。
「俺からも頼むよ。これからも一緒で。」
「ええ一生ね。」
……微妙に一音違う気がする。さらっと発言が変えられた。それでもアイスとなら別にいいかな。このぐらいの距離が彼女とは丁度いい。くっつき過ぎず離れ過ぎず特に何もひどいことされてないし今日はラッキーだ。
「嬉しそうですね。」
「まぁね。この手紙大事にするよ。」
アイスが本物の招待状を無言で差し出す。俺がそれを受け取ったすきに大事な方が彼女の手に渡った。ちょっ……後で読み返そうと思ったのに。
「私が預かっておくわ。無くしたら嫌でしょう?」
……さては恥ずかしいから抹消しようとしてるな。返事が欲しいって言ってるのに部屋から出ようとしたり今までの矛盾した行動は恥ずかしさで説明がつく。
「返して貰うね。」
俺は神速で彼女から手紙を取り返す。我ながら上手いな、スリになれるかも。俺がそうやって油断をしてる。
「本物はこっちよ。」
そう彼女の手が動いた方を見たすきにまた取られた。はっ……騙された。
「ちょっ返して。」
アイスはそれを高く持ち上げる。彼女に近づいて全力で背伸びをするがそれでも届かない。
「ジャンプしても無駄よ。」
得も言われぬ敗北感だ。後二年か三年したら余裕で取り返せるのに。ふと彼女の顔を見ると羞恥心が彼女を殺そうとしていた。
「その近いから、は早く離れてくれないかしら?」
「分かった。」
「あっ……。」
そう言って身を引こうとすると今度はしゅんとしてしまった。何だこの可愛い生き物は。もし彼女にミーラみたいに尻尾があったら垂れていると思う。もうすこし素直になって良いと思うけどな意趣返ししよう。
「なんてね。」
俺は半歩下がった足を元に戻してもう一度背伸びする。彼女はまた手紙を取りに来たと思い込んで上に意識が向いている。俺は不意打ちで少々強引にキスをする。
二人共オーバーヒート、手紙も床へ落ちた。これでアイスの恥ずかしがる様子が見れる筈だ。愉快、愉快。
「…………回よ。」
……?
「もう一回よ。」
「えっ?」
その反応は予想してなかった。次の一手が思いつかない。そもそも思いつきで行動したから次の策などあるはずもない。
「ほら早く。」
彼女の艶めかしい微笑を見て勝てる気がしなかった。多分、恥ずかし過ぎて逆に開きなおったんだ。こうなると俺の方が不利だ。
「そこまでです、この手紙は私が預かっておきます。」
そう言ってミーラが手紙を拾って俺と彼女の間に割って立つ。ええ……後で渡して貰おう。そして本物の招待状を読んでる百希がさらなる爆弾を投下してくる。
「ユータ、華族になるから名字を決めないといけないらしいよ。三瀬とかどうかな?」
これで俺がうなずいたらどうなるか興味があるけど俺もそこまで馬鹿ではない。何で火事になっているところに水ではなくて油を入れるのか……。どうしよう。
「どうする気なの?私も使うのよ。」
変なのを言ったら殺されかねない雰囲気だ。胃が痛い。
「保留で。」
結局先延ばしにする以外解決策が思いつけなかった。まぁ時間がこの問題を解決してくれるでしょう。




