第二十一話 従業員を雇う
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『割れるフロント、帝国か?王国か?』
ここ数日の新聞の一面はこればかりだ。どの貴族は帝国派でどの貴族は王国派か当事者には大変な問題だろうが俺にはたいして関係ない。どうせリベレたちの帝国派が勝つ。俺は水を飲んでこれから何をすべきか考える。
今の脳内の議題は実店舗をどこに構えるかという問題だ。本音を言えば人口の多い場所ならどこでも良いができるだけ幸先の良いスタートを切りたい。そうやって真面目に考えていると彼女が話しかけてくる。
「おはようユータ、昨日銀貨三枚稼げたよ……。」
!?呼称も口調も違う。彼女に何があったんだ?ミーラはすごく恥ずかしそうな様子で俺の返答を待つ。
「ミーラどうしたの?」
「ええっと……やっぱりな、何でもないです。忘れて下さい。」
ミーラは恥ずかしそうに訂正する。彼女が敬語を使わなかったのは初めてだ。きっと何か理由があるのだろう。俺はその理由には特に触れず話を続ける。
「銀貨三枚稼げたの?」
「はい。アイスさんも手伝ってくれました。」
最近、宿とか露店とか回って金銭感覚も身について来た。銀貨三枚はだいたい三千円ぐらいだ。ミーラは凄いな。俺は彼女が渡してきた銀貨を手の平にのせて見て返した。
「良かったね……。」
「所でユータ様は昨日は何したんですか?」
「昨日は商会の設立。今日は従業員と店舗を確保する。」
「従業員ですか……?」
「うん。まだ何も決まってないけどね。」
ミーラは悩んでから別の所へ向かう。そしてしばらく経ってからまた俺の所へ戻ってきた。
「私もついて行っていいですか?」
「今日は冒険者はいいの?」
「アイスさんには許可を貰いました大丈夫です。」
彼女が俺の行動に興味を示すのは珍しい。F/A-18(艦上戦闘機)を空母の上で見たとき以来だろうか。そして何故かアイスも合流してくる……。彼女達は本当に俺と勝負してるのか?もしかして敵情視察か分かったぞ。俺は勝手に結論付ける。
「すぐ人を雇える所って知らない?」
俺はアイスに尋ねる。こういう事はアイスの方が詳しい筈だ。せっかくついて来ている事だし聞いてみることにした。
「……………奴隷商ね。すぐそこよ。」
「ま、まさかユータ様奴隷を買うんですか?」
「奴隷制をそもそも今初めて聞いたよ。」
歴史の中でしか見ない制度だ。人すらも商品として扱うのは究極の資本主義を感じさせるが俺のいた時代にはもう存在しなかった。少し見てみたい気持ちが俺の心を占める。身分制はもうリベレたちによって崩壊しつつある。きっと奴隷という存在を見るのもこれが最後だろう。
「結局、行くのかしら?」
「うん。せっかくだからね。」
アイスが指した方向に向かうと広い敷地が見えてきた。ここが奴隷商らしい。店員がこちらに話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。どのような奴隷をお探しですか?」
「接客が出来そうな子をお願いします。」
「ならA群ですね案内します。」
奴隷は思っていたものとは違った。全員健康そのもので衰弱した様子もない。俺は檻の中を見る……。鑑定とかそんなスキルは持っていないから価値も分からない。だが悩んだ時の伝統的な決め方がある今こそそれを使うときだ。どれにしようかな天の神様の……決まった。
「あの娘ですか……分かりました。」
何か含みのある口調で店員は彼女を連れてくる。会話をして最終的に買うかどうか決めるシステムらしい。開口一番彼女は俺にこう言って来た。
「×××じゃないか?何でここに……。」
「違うよ。人違いだ。」
彼女は俺を全く知らぬ名で読んだ。×××とは俺の名前なのだろうか?もう覚えていない。彼女は困惑しながら次の質問をとばした。
「な、なら日本とか北アメリカって知ってる?」
……え?この異世界にそんな地名は無い筈だ。少なくともミーラやアイスは何言ってるんだ?みたいな顔をしている。
「知ってる……。まさか俺と同じなのか?」
「本当に僕の事覚えてないのかい?僕は三瀬 百希こっちではユキだけ。」
和名だ。もう久しく聞いていない。彼女はどうやら日本人のようだ。俺は何一つ覚えていないのに彼女は忘れなかったその違いはどこだろう?
「その……彼女は別世界から来たと妄言を言ってますが計算も出来ますし人と話せるタイプなのでその一点だけ目をつぶれば優秀です。」
店員が補足を入れてくる。だから含みのある口調だったのか納得した。ミーラは異世界転移を信じてくれたけど普通の人は信じないよな。
「何で奴隷になったんだ?」
「……お金に困ってそれで……。」
百希も苦労してきたみたいだ……。俺は彼女を買う事を店員に伝える。金貨三十枚で彼女と奴隷使用上の注意という冊子をもらった。金貨三十枚は三百万円ぐらいの価値だ。真面目に市場を見て最近それがわかってきた。
「分かった。ならすぐに契約しよう。」
「よろしいですね。では互いの手を重ねて待っていて下さい。」
奴隷契約というものはずいぶんと単純な物で手を重ねて呪文を唱えるだけだった。百希が躊躇なく手を重ねたことには驚いたがそれ以外では特筆すべきことはなかった。
さて現在の俺の総資産は白金貨十枚つまり百億円だ。この百億円を倍々ゲームで増やす予定だ。それぐらいやればミーラとアイスにも勝てるだろう。
百希とミーラ達が仲良くしてるので俺は放置して実店舗を買いに行く。彼女達に手の内を明かしていては勝てない。敵がプラチナの鉱山を見つけたという前提で本気で勝ちに行こう。
視点は変わる。
ここはとあるカフェのテーブルだ。三人は自分のお金で頼んだ飲み物を飲んで話す。
「ええっとユキさんはユータ様と旧知なのですか?」
「そのはずなんだけど……ていう彼の名前は×××だって。」
「真偽判定をしましょう。」
百希の左手に奴隷紋が浮かんでいる。この場所には王族以外の全ての身分が揃っていた。身分を超えて彼女達が話すのはこの場にはいないユータの事についてだ。
アイスはアイテムを取り出して机の上に置く。
「これは真実と嘘を見抜く事ができるアイテムよ。未来のこと以外は全てこれで見抜ける。」
そのアイテムは真円と斜線が組み合わさった形をしている。実はこのアイテムは占いとも呼ばれ、ユータに使われるのは二回目なのだがミーラ達は知る由もない。
「ふ〜ん、もう試して良いの?」
「ええ、いいわよ。」
百希はアイテムを不思議に思いながらも真実を確かめる。
「×××とユータは同一人物である。」
百希がそう言うと、真円の方が光る。百希は勝ち誇った顔でミーラ達に話す。
「僕は正しかった!あれでもそれだと×××は何で僕の事覚えてないんだ?」
「×××ではなくてユータ様です……。」
「彼は前の世界の身近な事を忘れてるのよ。あなたも例外ではないわ。」
百希の表情が曇った。彼女の手が震えて、アイテムにその振動が伝わる。
「そんな……。あんまりじゃないか。この世界に来てようやく会えたのに……。浮かれてた僕が馬鹿みたいだ……。」
気の毒と思ったのか二人は百希を慰める。それでも彼女が立ち直るには数時間を要した。彼女にしては長い時間である。百希の気持ちを少しでも紛らわせようとミーラは疑問を投げかける。
「ユータ様って昔はどんな風でしたか?」
「……う〜ん、よく物を無くしてたな……。その度に僕が貸してたんだ。」
「所で君達はユータとどんな関係?」
ミーラは恥ずかしそうに目をそらしながら答える一方アイスは堂々と答える。
「恋人……です。」
「友達よ。」
「そっか……。僕は一からまたスタートするよ。」
どこか悲しげに百希はそう言った。そしてその後百希はミーラを見ていた。
「逆に、ユキさんとユータ様はどんな関係だったんですか?」
「僕と×××はね、恋人だったんだよ。」
彼女の持つアイテムの斜線部分が光る。ミーラはそれを見てホッとしていた。アイスは嘘を指摘する。
「嘘はやめた方がいいわよ。」
「……ごめんちょっと見栄を張った。」
「本当は、僕が一方的にアプローチしてただけ。」
「この世界の彼は人間関係に恵まれてるね……良かったよ。」
「ずっとAIと話してた頃の×××に言ってあげたいな……。」
最後の発言の意味は二人には分からなかった。ただ二人共ユキが悪い人では無いことを確認した。二人は今日の目的を達成したようだ。
城塞都市には時刻を知らせる鐘の音は無く、日の傾きで彼女達は判断して宿へ帰ることにした。
今後も異世界の死の商人をよろしくお願いします。




