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やりすぎファーマーは護衛を労う

「フラムのおかげでカブが変化するという思わぬ進歩はあったが、結局、畑の護衛は今までどおりということになるな」

「……だって主様のカブおかしいッスよ。あんな異常な野菜に傷なんてつけられないッス」


 事実を淡々と告げる主様に、ゼカが口を尖らせて抗議の声をあげる。

 だが、主様は苦笑いするだけだ。


「カブは野菜だ。鉱石ですらない。それをどうにもできない以上、お前たちの攻撃魔法を畑を守るために使うわけにはいかない。だろ?」


 だろ? とか言われてもなぁ。

 姉妹全員が不満そうな顔をしている。

 他の野菜ならともかく、最高硬度のカブは無理だって。あれで鉱石なぐったら、たぶん鉱石が砕けるし。

 主様、いまだにあのカブの固さを分かってないからねー。固いと分かっていても、どれくらい固いかは知らないのね。

 まあ、もういいけど。

 約束は約束だし。

 でも――


「じゃあまたBBみたいな畑荒らしが現れたら、主様が全部撃退するんスか?」

「……それしかないな」


 それなんだよね。

 主様が畑を離れたときにあいつらが現れると、毎回呼び戻さないといけなくなる。連絡が付けばいいけど、そうじゃない時もあるだろうし。

 畑も昔よりは数が増えちゃってるし、監視の人手も欲しい。

 となると――

 ここはやっぱり、主様の誤解を解くべきかな。

 我に名案あり!

 うちは、ぴしっと手を上げた。


「主様、ここはヨーガンに戦ってもらうっていうのはどうかな?」

「ヨーガンに? だが、あいつは肥料係兼監視係でしかない。戦う力は無いぞ?」

「そんなことないんだって。ヨーガンは本気で戦うとすごいよ」


 うちはここぞとばかりにヨーガンの説明をする。

 ヨーガンという名の溶岩スライムについて。火山地帯に生息し、溶岩を寝床に昼寝ができるスライム。

 出会うことすら困難な真っ黒なスライムなのだ。主様は溶岩地帯の鉱石を探しに行った時にこの魔物を手なずけて連れてきた。

 初めて見るモンスターにリンゴをあげたら勝手についてきた、というのが事実らしいけど。

 ちなみにネーミングセンスのない名前を付けたのは当然主様だから。


「まあ、できるかどうか本人に聞いてみようよ。おーいっ、ヨーガーーーン! ちょっと集まってー!」


 山に声が反響した。

 遅れて、広範囲からずるずると小さな黒い物体が集まってきた。知らない人が見たらおぞましい光景に見えるだろう。

 黒光りする何かが集まってくる……ノーサンキューです。

 手のひら程度の量の粘液が次々とくっついて、目の前で大きな水たまりのようになった。

 これが溶岩スライム。

 普段ヨーガンは、各畑に散らばって侵入者を監視している。感知すれば妖精の誰かに<メッセージ>を使って伝えてくれる。意外に器用なのだ。

 それ以外は、畑に落ちた枯葉や虫の死骸なんかを取り込んで肥料にして土に混ぜ込んでくれる。

 なにを隠そう、魔王の死体を肥料に変えたのはこのヨーガンだ。死んでいるとはいえ、あの頑丈な魔王を溶かせる力を持つモンスターなのだ。

 うちは中央が少し盛り上がった黒い物体に質問をする。


「ヨーガン、主様の畑を誰かが荒らしに来たら守れるよね?」


 盛り上がった部分が、ぴょんと縦に二度ほど震えた。全身に小さな振動が流れる。

 これはYESの意味だ。この子はかしこい。<メッセージ>を使わないと言葉が聞こえないのがたまに傷だけど。

 うちは主様に、「ね?」と言いながら微笑む。


「守ると言ってもだな……そもそも戦えないだろ」

「……じゃあ、主様、あのクマ刈鎌貸して」

「クマ刈鎌?」

「ほらっ、この前BBと戦った時に使ったデス・エンペラーの鎌のこと」

「ああ……草刈鎌のことか。これでいいのか?」


 主様がアイテムボックスから、禍々しい鎌を一振り取りだした。

 間違って深緑の刃の部分に触れれば、うちの細い指なんてすぱっと切れてしまうだろう。取り扱いは要注意。


「この鎌、もらってもいい? 普段使わないよね?」

「使いづらいから別にいいが、どうするんだ?」

「こうするの。…………ヨーガン、これ溶かして」


 かるーく、鎌をヨーガンに投げた。

 予想通り、それだけで刃によって深緑の軌跡が描かれ、黒い体がズバンと真っ二つになった。

 こわっ。普通のBBは死ぬわけだ。

 でもヨーガンは、すぐに鎌を挟みこむように粘液を集め、呑み込んでいく。

 鎌が小さな泡を吹き始め、漆黒の体の中でみるみるその形を無くしていく。

 主様が、驚きに目を見開いた。


「……この草刈鎌を溶かせるのか!? 信じられん……なんて熱量。ただのスライムだとばかり思っていた。俺の鍛えた鎌を……」

「ね? ヨーガンって切られても死なないし、すごく熱くなれるから強いんだよ?」

「確かに……これはすごい」


 うちは得意げにさらに指示を出す。


「ヨーガン、壁になってみて。ツティ、<アーススパイク>を撃って」


 言葉を理解した溶岩スライムは、形を変えて一枚の壁になった。

 漆黒の一枚岩だ。

 末妹が魔法を放つと、尖った岩がにぶい音をたててぶつかる。と同時に、即座に触れた部分が燃え出す。


「……岩すら燃やせるのか」

「元々、溶岩の中に住めるレアな子だから。ね、大丈夫そうでしょ? これなら大抵の畑荒らしは撃退できると思うよ」


 ほんとのところは、そんなレベルの話じゃないけど。

 この溶岩スライムが街中に現れたりしたら大災害だからねー。

 切っても死なない、魔法は効かない、捕縛も無理、で。

 こんなやばいやつが畑の周りをウロウロしてる時点で魔王城より怖いかもしれない。体の端っこだけでも脅威的な存在だ。


「知らなかった……俺は肥料を作る能力しかないと思い込んでいた」

「それ主様の悪い癖だよ? どんなモンスターも視点を変えて見たら、違う一面があるんだって。覚えておいてね」


 うん、今いいこと言ったかも。

 主様も深く頷いている。


「わかった。だが、さすがフラムだな。みんなのまとめ役だけのことはある。いつも広い視点で見てくれているんだと改めて感じたぞ」

「でしょでしょ? 妖精姉妹の長女だからね。これくらいは当たり前だから、いつでも頼ってくれていいよ?」

「ああ。これからも俺を助けてほしい。どうも俺は考え方が凝り固まってしまうことがあるようだからな」


 照れ臭そうに頭をかく主様を、うちは少しいい気分で見つめる。

 そして上機嫌でヨーガンの方を指差した。

 言われたことをこなした溶岩スライムがおねだりをしているからだ。

 体を壁にしていたヨーガンが、見事に形を変えている。


「……これは、リンゴ?」

「うん。ヨーガンがリンゴ欲しいんだって。あげてくれる?」


 目の前で大きな黒いリンゴ形になったヨーガン。言葉が通じないのでボディランゲージといったところかな。

 よっぽど最初にもらったリンゴが気に入ったのだろう。

 種族は違っても、味を知っているって点で、うちらは仲間だよね。


「ヨーガン、すまないがこれから畑の護衛も頼むぞ」


 ぷるんと揺れたヨーガンが放り投げられたリンゴを労わるように包み込んだ。

 まるで抱きかかえるように優しい。クマ刈鎌と扱いがまったく違う。

 溶かさないところを見ると、また後で食べるんだろう。

 うちもその気持ちは痛い程分かる。

 大好物の果物はどんな宝物より貴重なんだよね。


「主様の負担が少しでも減れば嬉しいな」

「ありがとう、フラム」


 主様はそう言って、ヨーガンに近付いた。

 愛おしそうに黒いスライムを撫でている…………って大丈夫? もし熱いときに撫でたら腕が焼けてなくなるんですけど。

 まあ、ヨーガンもその辺はわきまえてるか。

 だよね? え? ほんと熱くないよね? 熱がってるように見えないもんね?


「フラム姉さん、ちょっと」

「なになに、ミジュ……え、みんなも?」


 少しばかり心配して主様を見ていたうちは、三人の妹たちに引っ張られた。

 そのまま離れた場所に連れられ、大木を背に三方からにらみつけられる。集団暴行一歩手前です。


「……な、なに? 怖いんだけど」

「どうしてヨーガンを推薦しちゃうわけ?」

「そうッスよ。クマ刈鎌を溶かして認めてもらえるんなら、私らだってできたかもしれないッス。風魔法で粉々にできたかもしれないッス」

「…………カブより楽」


 え? え?

 そ、そんなこと言われたってさ……ぱっと思いついたこと言っちゃっただけで。


「あれだと、ヨーガンの評価だけ上がって私たち四姉妹は弱いって思われたままなのよ!? 主様の役に立ちたいって気持ちは同じだと思ってたのに違うの!?」

「しかも、リンゴまでもらって……羨ましいッス。嫌がらせに黒ボディをスパッとやりたいッス。効かないけど」

「……ヨーガン、なでなでされてた…………なにもしてないのに……コロス」

「え、えぇぇぇぇっ、お姉ちゃんが悪いのっ!?」

「フラム姉さんは主様の一番近くにいるから知ってるでしょ? 他に壊したら誉められそうな農具ないの!?」

「カブよりは柔らかい野菜とかでもいいッスよ?」

「…………早くしてほしい」

「み、みんな待って。お姉ちゃんも知らないことが多くて……ね?」

「まさか、自分だけ評価上げて終わりってこと!?」

「うっ、苦しい……ミジュ……違うの、お姉ちゃんほんとに……あんまり考えてなかっただけで……」


 両肩を大木に押し付けるように圧力をかけてくるミジュにたじたじだ。

 だが、そのミジュの肩が二人の妖精によって止められた。

 ゼカが呆れたように「ミジュ姉、フラム姉はたぶんほんとに考えてないようッス」と言いながら、ツティを見た。

 最年少の妹が、音もなくミジュに近付く。


「…………ミジュ姉さん、耳貸して」


 ツティがミジュに耳打ちをすると、瞬く間にミジュの瞳が輝いた。

 なんとなく嫌な予感。


「ツティ……ほんとなの?」

「……ほんと」

「私もさっき見てきたけど、マジッス」

「それはすごいわ。BBに感謝しないといけないわね……」

「もう少し経てばすごいことになると思うッスから、主様にも内緒ッスよ?」

「もちろんよ。いくらでも待つわ」


 解放されたうちは、おずおずと声を上げる。

 三人の冷たい視線が突き刺さった。


「……ねえ、みんな……何の話? お姉ちゃんも仲間に入れてほしいなぁ……」

「ダメッス」

「一人だけ評価の高い姉さんには必要ないわ」

「…………内緒」

「そんなぁぁぁぁっっっっ」


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