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妖精姉妹は必死に戦う

 全員がログハウスを出て畑から離れる。

 ここなら、ある程度の魔法が使えるからだ。

 いつもは無表情なツティが、目に力を込めて土魔法を使用する。

 土を巻き上げながら、巨人並みの手が大地から生えた。

 その大きな手の上にはカブが一つ。


「……ぺちゃん」


 小さな一言と共に、巨人の手がゆっくりと握り込まれる。

 土妖精の大量のマナを使った魔法。

 その名も、握力なんとか……えーっと……ちょい違うような気もするけど……まあそんな感じ。

 これにかかれば魔物だろうが、人間だろうが、つぶれたトマトになるわけで。

 まあ……普通ならね。


「…………つぶれない」


 ツティが小さくしょげた。

 だろうなぁとは思ってたけど、やっぱり無理か。

 魔王討伐御用達のカブだからねー。投げれば凶器。置いたら固い、と。

 主様は度が過ぎるほど改良するもんね。


「ツティ、そんなにしょげることはない。さすがにいい魔法だ。これなら固い岩が地中にあっても耕せる」

「……ありがと」


 え? 主様……なんか違わない?

 ノーダメージのカブの感想はないの?

 ツティもそれでいいの?


「くくっ。ツティはダメだったッスね。次はこのゼカが挑戦するッスよ! 風魔法は魔法の中で最強! 主様っ、もし傷つけられたら、ブドウ一房全部欲しいッス!」


 自信にみなぎる風妖精が、ツティの前にずいっと現れた。にやにやと挑戦的な笑みを見せている。

 主様が、小さく笑う。


「いいぞ。ブドウならまだ在庫がある」

「やっほーいっ! 燃えてきたっス!」


 ちょっと待ちなさい、ゼカ。

 この挑戦は、うちらが畑の護衛もできるって認めてほしいから始まったんであって、君のブドウは関係ないのだよ。

 勘違いはダメっ。

 …………それにうちはブドウよりトマトが欲しい。


「くらぇぇい! 私の超絶最強魔法<デルタトルネード>!」

「……それ、かなり広範囲の魔法でしょうが」

「大丈夫っ! うまくやるからっ!」


 思わずつっこんでしまった姉の方には振り返りもせず、ゼカが魔法を使用する。

 空中にいくつもの細い竜巻が現れ、その渦の先が吸い込まれるように一か所に集まる。

 もちろんカブに向けて、だ。

 穴でも空けるつもりらしい。

 けど――


「――っ、くぅぅっ、嘘だぁっ! 私の竜巻十連コンボで傷もつかないなんて! なんてカブ……」

「そんなことはない。なかなかの竜巻。畑にいい穴が空けられそうだ。肥料用にも植穴用にも使える便利な魔法だな」

「……そ、そうかな? 私の魔法すごい?」

「もちろん。それだけ竜巻を細くできるなら、使い勝手が良さそうだ」

「へへっ、やったッス! 主様に褒められたッス!」


 おーい。いい加減にしなさい。

 誰が主様に便利な魔法を見せろって言ったのよ。

 カ・ブをやっつけるのがゼカの仕事じゃなかったわけ? ツティもゼカも全然頼りにならないんだから。

 何が最強の魔法は風魔法よ。

 最強は火に決まってるでしょ。

 で、次は――


「ミジュはあんまり得意じゃないよね?」

「……まあね。こういう攻撃力だけの勝負はフラム姉さんよりは苦手だわ」

「うちには強いのにね」

「単に相性ってだけでしょ? 主様のあのカブに傷をつけるのは相性良くても無理。ゼカの魔法ですら皮も切れてないのよ? ミスリル鉱石を粉にしろって言われた方が可能性が高いわ」

「だよねー……」

「一応やってはみるけど……」


 小さくため息をついたミジュが前に出た。

 その隣では、無表情のツティとお手並み拝見という顔のゼカが様子を見守る。

 もちろん主様も静かに見つめている。

 ミジュが、真上に手を上げた。


「まさかと思うけど、水爆弾とかしないよね?」

「……姉さん、するわけないでしょ? まあ空から落とすって意味では一緒かもしれないけど」


 ああ、なるほど。

 ミジュの得意魔法だ。

 高圧で圧縮した水の塊を上空に作り、加速させて落とす。それだけのことなのだが、ミジュは姉妹の中で、誰よりも離れた位置に魔法を生み出せる。

 それを利用しての超高高度からの落水というわけ。

 しかも、ピンポイントで落ちる場所を調整できる凄腕妖精なのだ。


「いきます……」


 ミジュが手を振り下ろした。

 何秒経過したか、カブが突然揺れた。そして、爆発したかの破裂が起こった。


「やったっ!?」

「……いいえ。やっぱり無理」

「でも爆発したんじゃない?」

「爆発したのは地面だけよ。カブには当たったけど、弾かれてそのまま地面に突っ込んだわ。もうお手上げよ」


 ミジュは小さな肩をすくめた。

 土煙が晴れ、うちがそれを確認しにいく。地面に何かを撃ち込んだような小さな穴が空いていた。深くて底は見えない。

 すさまじい威力だ。

 だけど、カブには何の傷もついていない。


「……もしかしたら、って期待したけど……私にはやっぱりこういうのは向いてないわ。生き物なら水で覆うだけで始末できるのに」


 主様が、それを聞いてミジュに近付くと、頭に大きな手を乗せた。

 そのまま優しく撫でる。


「そうふてくされるな。空から的に向かって水を落とせるのはすごいぞ」

「……そ、そうですか?」

「自信を持ってくれ。その力は誰よりも作物の水遣りに向いている。狙った位置に、狙った量の水を与えるなんてすばらしい魔法だぞ。俺が身に付けたいくらいだ」

「…………ありがとうございます」


 にかっと笑った主様は、ミジュの頭をぽんっと軽く叩いた。

 ……ミジュ、照れてるんだけど。

 なにあれ?

 失敗したのに何でうらやましいことになってるの?

 うちだってあんなのなかなか無いのに。

 そういえば最近、主様にあんまり誉めてもらってないし。

 ふーん、だ!


「……フラム姉さん、あとはお願いね」

「ふーん、だ!」

「ええっ?」

「……ち、違う、違う。ちょっと間違っちゃった。よーっし、って言いたかっただけなの。気にしないで、気にしないで」


 ぽかんと口を開けたミジュに、何でもないと手を振った。

 大丈夫。

 これでリカバリOK。

 うちは大丈夫。

 なんたって、ここがうちの見せ場だからね。三人の妹がダメだったところを、うちが成功させて締めくくる。

 火妖精の名は伊達じゃない。威力だけなら風魔法を凌ぐのだ。

 四姉妹の長女が見せてあげよう。


「いくよー! <ヘルファイヤー>!」


 カブを呑み込むように炎が立ち上った。

 柱状に燃え盛る地獄の業火。でも、カブはまだ炎の中で生きている。

 感じる……感じるぞ。

 無駄な抵抗は見苦しいのに。

 うちの炎の前には炭になるしかないのだ。

 うはははは。


「……くっ、まだ耐えようとするのか、カブめー! でも温度はまだまだ上がるんだぞ!」


 さらに温度アップ、と。

 さすがにもうそろそろだと思うんだけどなー。カブって言ったって野菜だからさ。火には弱いはずなの。

 フライパンでずっと焼いたらどんな野菜でも黒焦げでしょ? あれと一緒。


「…………て、手ごわいカブめ……いい加減にしろ」


 さらに、ファイヤー! ってやばいやばい。これ限界なんだけど。

 え? どうすれば?

 ずっと焼いてたら炭になるって考えてたのに……ちょっと甘かったかな?


「……………………」


 あっ、妹たちが全然こっち見てない!

 あいつらー、ほんと薄情ものなんだから。

 分かったよ。もう素直に言うよ。

 ムリっ!

 がんばったけどこれ以上温度上がらないし。

 このカブ、やっぱりおかしいわ。

 うちの炎でなんで焦げないのっ!? 普通なら百回は炭になってるって。固いのは仕方ないけど熱にも強いわけっ!?

 あぁ……もうっ!

 いいもん、もう止めた。

 お姉ちゃん、潔く負けを認める。主様には敵わない。ごめんね、妹たち。ほんとにがんばったけど……


 ――って、聞けよ。何が「今日のブドウ美味しかったッス」だ。うちは一口も食べてないんですっ! 少しは姉に期待しなさい。

 でもいいもんね。うちも主様に慰めてもらうから。

 良い子良い子してもらうもん。


「……主様、ごめんなさい」

「いや、仕方ない」

「…………」


 あれ?

 フラムの炎は最高だよ、とか無いのかな?

 焼き芋に使えるな、とか。

 たき火いらずだな、とか。

 え?

 うちだけないの?


「うーん……焼畑には使えるか……だが……小さな面積を焼くだけなら……」

「ぬ、主様?」


 腕組みをして考え込んでしまった。

 これはダメージが大きい。

 カブをしとめられなかったことよりもつらい。主様がフォローの言葉を選んでいる。

 妹たちにはすぐにフォローがあったのに。

 うちは必死にアピールする。はっきり言って死に物狂いだ。


「うちの魔法は範囲を広げることもできるから……だから……どこでも焼ける……んだよ……」


 なんでこんなに自分の声が震えたんだろ。

 当たり前のことを言ってるだけなのに……


「そうなのか? 俺はてっきり――んんっ!?」


 うちから視線を外した主様が、突然走り出した。カブを間近に見に行ったのだ。

 なにかまずいことをしたのかと、うちらが全員ついていく。

 そしてカブを覗き込み――


「……カブが染まっている」

「ほんとだ……桜色でキレイ」

「真っ白だったのに……」

「フラム姉さんの力かも……」


 主様が目を輝かせて、飛んでいるうちの両脇に手を入れた。

 掲げられるように体が持ち上がる。


「すごいじゃないか、フラム! こんな魔法の使い方があったなんて! 野菜を焼いて進化させるなんて思いもしなかった。何年かぶりの新しい進歩だっ! お手柄だぞ、フラム! さすがは妖精だっ!」


 思いもかけない事態に、うちは目を白黒させた。

 でもすぐに体の力は抜けていった。


「……えへへへっ」


 うちは心の底から笑顔になった。


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