逃がしはしない
少し短いのですが、キリが良いのでアップします。
早川が更に言った。
「AZが発足するに当たっての、歴研顧問の菅原先生からの三つの条件については、さっき言った通りなんだ。
だけど、これまでの話で想像できるように、目一杯不当な活動をしてみたいんだ。
すると、裏帳簿ならぬ、裏日誌が必要になるんだ。
菅原先生に提出するクラブ日誌は、リョウコが書く。先生も、美人のほうが嬉しいだろうし。
しかし、本物のクラブ日誌は、いわば『裏のクラブ日誌』と言えると思うんだが、光太郎、お前が書いてくれ。
獲得したAZの総額や通帳が要ると思うんだが、その残金総額や裏の根回しの方法やなんかを書いて欲しい。
本当は、こういうものを残さない方が安全なんだろうが、いろいろ検討して次回に生かすという意味でも、記録を残したいんだ。
ただし、これは、絶対に学校当局に見られないよう万全を期す必要がある。
万一の時も、森田なら、小説を書いているとかなんとか、言い逃れもしやすいし、筆も立つ。ベストの人選だと思う」
森田は、「セイの役に立つなら、嬉しいよ。万全を尽くすよ」と頷いた。
この高校に男子が何人いるかは知らない。
しかし、声を掛けられなかった全ての男子が地団駄踏みそうな展開だった。
学校の誇る二人の美女(一人はともかく、もう一人を美女というのは抵抗があるが、美女であることは間違いない)と組むのだ。
森田は、声を上げずに快哉を揚げ、それでも平静を装って確認した。
「僕は、記録係。イッキは、生徒会との調整担当。ヨシは、やっぱり発明係かい?」
「俺か?俺は、将来の発明のために消費者ニーズを掴むという意味では、AZが参考になると思ったのは事実だ。
金になる発明ってのは、消費者ニーズを無視できないからな。
だがな、そんなことより、セイに頼まれたんだ。
竹馬の友としては、いたしかたないと言うものだろうよ」
長瀬は口の端で笑いながら早川を振り返って言った。
「しかし、お前ぇが始めると、無茶苦茶だな。
簡単な話を難しくしてしまうのは、いつものことだけど、無茶をするためのクラブを作るってんだから。大したもんだぜ。想像以上だ」
褒めているのだろう。
褒めているのだろうが、素直に褒めているとは思えない。
だが、言質はとってあるのだ。今さら逃がしはしない。
嫌でも、付き合ってもらおう。
「お前な。付き合うって約束だぞ。今更逃げるなよ」
「逃げねぇよ。約束は約束だ」
「つまりだ。
無茶苦茶に稼ぐだけ稼いで、普通じゃない使い方で無茶苦茶に使い切ってしまおうってことか?」と、鳴海が悲鳴を上げた。
「その通りだ。さすがに頭良いな。ワタシより説明が上手い」
男達は頭を抱えた。
久保は瞳を輝かせて早川を見つめた。
久保の唇が小さく動いた。
「神様」と、呟いたようだった。
日時 4月27日(水)3時30分~5時
場所 歴史研究会部室
出席者 早川、鳴海、長瀬、森田、久保
議事内容 ①クラブの名称 AZ研究会
②活動内容 最近の我が国における泡銭崇拝、泡銭願望を憂えて、
泡銭の研究を行うのとする。具体的には、性質、獲得方
法、消費方法の研究を行う。
③活動方針 違法な行為及び公序良俗に反する行為は、行わない。
④活動期間 当面一年をもって活動を終わる。
次回は、5月11日。それまでに、各自AZの獲得方法と消費方法について研究してくる。
記録者 久保