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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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AZ研究会のルール

法律用語が出て来ますが、分からない場合は、スルーしてください。要は、早川が理屈っぽい人だということなのです。


 「とにかく、部室ができたのは、良かったぜ。それで、何するんだ?」

 長瀬が訊いた。


「それだ。安田先生が、気にしていた。」

 鳴海がしつこく質した。真面目すぎるのだ。



 早川が、笑いながら続けた。


「規約の素案を用意している。

 これを見て分かるとおり、規約上、AZ研究会は、違法な行為と公序良俗に反する行為は行わない。

 

 しかし、ここが肝心なんだが、不当な行為は『可』とする。

 

 つまり、刑法上又は特別法上、違法とされて、犯罪になる行為は行わないが、単に不当な行為は、ギリギリの線までやって稼ぐ。

 

 だから、安田先生が言うような、違法ではないが高校生のクラブ活動としては不適当だと言うような行為は、積極的に実践してAZの獲得の研究に充てたい」


「風俗はどうするの?セイと久保さんなら、風俗でぼろ儲けできるよ」

 森田が爆弾を落とした。


 

 早川と久保の目が冷たく光る。

 

 この時ばかりは、鳴海は森田の命の心配をした。


「風俗は考えない。我々は、高校生なんだぞ。その品位を汚すようなことはしない。

 

 だいたい、ワタシとリョウコがぼろ儲けできるというなら、お前たち男組も、ホストクラブでバイトできるぞ。

 

 イッキなんか、ナンバーワンだ。ただし、顧問の菅原先生からの条件にもあったとおり、公序良俗に反する行為だからしない」



 早川が憮然と言った。


 

 長瀬も、知らないと言うことは強いものだと感心した。


 早川が森田の発言で爆発しなかったのは、奇蹟だった。



 早川は、更に続けた。


「我々は、違法なことと公序良俗に違反する行為はしない。


 不当なことなら、多いに結構だ。


 民法上、不当な利得として返還請求される程度のことをせっせとやって、小金と大金を稼ごうというのが、このクラブの趣旨だ。


 刑法上、違法なこと、つまり、強盗、窃盗、横領なんかだが、そういうことをして金儲けするのは、前途ある高校生としては好ましくないと考える。

 

 昔の映画に『明日に向かって撃て』ってのがあっただろ?あれなんか、強盗の話だから、我々AZは取り得ない。


 以前、お年寄りを相手に振り込め詐欺を働いた少年達の事件があったが、あれも、社会的弱者からお金を奪うから、不可。


 『お金を取る相手が社会的弱者であるかどうか』というのは、AZの重要な基準としたい。

 

 だから、不当利得返還請求についても、原告になる人が弱い立場であるような場合は避ける。



 要は、江戸時代の義賊のように、『弱気を助け、強気をくじく』んだ。


 そういう儲け方が理想だ。


 お金のあるところから、程々に頂く。そんな感じだな。


 水戸黄門なんかに出てくる金持ちの悪人から、法に違反しないギリギリの線で金を頂くようなことができれば、と思っている。


 株は、素人が手を出してどうにかできるものじゃないので、これもしない。


 だから、現実としては、人畜無害な儲け方になると思う。

 何か良い方法があったら、教えてくれ」


「セイ、一儲けしようというなら、ファンドだ。

 合法的だし、当たりはずれはあるけど、大いに儲かる」


 鳴海が提案すると、早川が切って捨てた。


「当たりはずれのないAZが良いんだ。

 要は、確実に儲かることをしたいんだ。

 

 ファンドはリスクもあるし、金持ちがするAZだ。

 我々庶民の高校生が小遣いで金儲けするには、資金的に不可能だ。止めておこう」


「セイ、違法とか不当とかいうは、どういうことなの?」

 森田が悲鳴に近い声をあげる。


「行政法では、違法とは刑法その他の特別法に違反することで法の定める要件を欠く場合で、不当とは公益に反する場合を言うんだ。

 どちらも、瑕疵かしつまり傷のある行政行為として無効となる。


 ただ、実際上は、違法の場合は始めから法的効力を全く生じないのに対し、不当の場合は、その成立に瑕疵があるか、あっても裁量権の範囲内かどうかとか、いろんな検討事項がでてくるから、限りなく黒に近い灰色みたいな場合もありえるんだ。

 そうやって検討しているうちに、我々は卒業してしまう。

 学校当局が我々を処分するには時間切れだ。


 だから、我がAZでは、限りなく黒に近い灰色であっても、黒でない以上、可とする」



 早川が平然と言うと、全員脱力した。


 要は、無視しようと言うのだ。




「お前、そんな言葉、どこで覚えてきた?」

 鳴海が唸る。


「ん?変か?」と、早川。


「どこの高校生が、行政法なんか論ずるんだ。さっきから、民法上のとか、刑法上のとか。普通、高校生は、そんな言葉を使わない。そもそも高校では、そんなことは教えない。お前、サスペンスか、法律関係のテレビの見過ぎじゃないか?」


「ん?でも、ウチじゃ、これが普通なんだ。母さんも、父さんも、ワタシも、普通にこれで話が通じるぞ」


 長瀬が苦笑しながら、割って入る。


「イッキ、止めとけ。

 

 セイのウチじゃこれで普通なんだ。セイがまだ、ちっちゃい頃から、サスペンス見ちゃ、過失致死だとか、未必の故意があるから殺人罪だとか言ってるんだ。


 セイが変わっているのは、見てくれだけじゃねえってことだ」



 鳴海は、目を点にして森田と久保を見た。


 森田は、ここは逆らわない方が無難だ、と合図する。

 久保は、感動の面もちで早川を見つめている。



 ボッチ感が半端じゃなかった。

  


「安田先生が、反対しているんだ。

 せっせと、こっち方面の勉強して頑張らないと、せっかく立ち上げたのに、一発退場なんてことになりかねない。


 そっちは、ワタシが頑張るから、みんなは、せいぜいAZの獲得に励んでくれ」



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