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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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エピローグ

「10月27日から12月31日と1月7から10日まで、試験一週間前から試験中を除いて、延べ52日で、クラブが10~12通ってくれたので、約110万支出。

 帰宅部は最初は多かったんだけど、だんだん減ったから、50~60人で約55万円支出。

 補助金で約8万支出。

 あと、750円残った」森田が報告した。


「丁度良い、豚まん五つ買って終わりにしょうぜ」

 長瀬が言う。

「悪くない提案だ」

 鳴海が賛成した。


「自然科学のテレビでよくあるだろう。草食動物の一年を観察するようなやつ。

 生まれた子供が小さいうちに天敵にやられるけど、テレビの人は、助けたりしないんだ。

 ただ、録画してる。

 

 あれと同じだ。魚勘は、潰れるだろう。


 早めに店を閉めた方が被害が少なくなるんだけど、お祖母ちゃんは聞いてくれない。

 子供が、何言ってるって感じだ。


 お祖母ちゃんは、なまじ、家付き娘だったから、お店に関しては権限があるんだろう。

 『諾』というのは、自分の権限だと思っている。


 資金もないし、商売の仕方も杜撰で、どうしようもないのに……。

 株式会社なら、株主に首にされているところだ。


 お祖母ちゃんにとって、朝、市場で魚を仕入れるのは、顔を洗って、歯を磨くのと同じぐらい日常なんだ。

 

 これまでの生活を維持するお金がなくても、体がそう動くんだ。

 確信犯より、もっと深刻だ。生き甲斐対策の域を超えてる。


 帳簿を付けないのは、つけて赤字が分かっても、店を止める気がないからだ。


 行った先に崖があって、そのまま進むと落ちるのが分かっていても、慣性で進み続けるんだ。


 周りの者は、自然科学のテレビと同じで、それを観ていることしかできない。


 

 お祖母ちゃんに、『ここは、砂漠だから、朝、顔を洗うな』と、言うようなものだ。

 お祖母ちゃんは、砂漠の真ん中でも毎朝、顔を洗うんだろう。


 すまない。せめて、店を止めることができるかと思ったんだけど。有り金全部はたいて、何とかしたかったが駄目だった。


 ワタシの読みが甘かったようだ。

 これは、AZの敗北宣言だ。


 ワタシの責任だ。情けない」



 早川が項垂れた。



「セイ、自分を責めないで。みんなで納得してやったことでしょ?」

 久保が優しく言った。

「そうだ。AZの弊害もよーく分かった。確かに、AZは、真面目な労働者によろしくない。

それで、良いじゃないか」 

 鳴海も言った。

「僕も、あそこまで、魚勘がひどいとは思わなかった。セイのせいじゃない。

 やるだけやってもらったと思うよ。AZをあてにしないで、自分の学費は自分で何とかしなきゃならないんだ」と、森田。


「あとは、ディズニーランドだな」

 長瀬が言うと、早川が真っ青になった。


「どうした?セイ」

 鳴海が不思議そうな顔をする。


 あまりにも挙動不審な早川に、一同、嫌な予感がする。

 

「もしかして、お前ぇ、ディズニーランドの分の金まで使っちまったのか?」

 長瀬の質問に早川が、明後日の方を見る。


 AZ一同は、自分達が魚勘前通行量増大作戦に夢中になりすぎて、ディズニーランドのための費用がなくなっていると確信した。



「「「ディズニーランド……」」」

 鳴海、長瀬、森田の声が沈む。


「申し訳ない!」

 平謝りの早川に一同の目は冷たい。

 

 何しろ、久保と一緒にディズニーランドへ行ける生涯たった一度のチャンスだったのだ。

 落胆するなという方が無理だ。



 部室に垂れこめる暗雲をはらったは、久保だった。


「大丈夫。セイ、前年度のテストの問題を売ったお金は、別に置いてあるから」


 久保が女神に見えた瞬間だった。


「だって、最初に、セイが言ったでしょ?

 過去問の販売は、私に任せるって。

 売る問題の原本預かってたし。結局、定期テストの度に、一年、二年に売ったから、結構な額になってるの。

 これは、へそくりとして、箪笥預金にしといたから。

 ディズニーランドの費用は、旅費、パスパート代、ホテル代ぐらいは貯まってるわ。

 卒業旅行にしましょうよ」


「リョウコ」

「久保さん」

「久保~」

「さすがだ、久保さん」


「そうだ。大学へ合格したら、みんなでディズニーランドへ行こう。

 たとえ、その時、恋人がいたとしても、この五人で行こう」

「イッキ、良いこと言うねえ。そうだ。他の学校のヤツ等は交ぜてやらねえ」 


 かくして、AZ一同は、来年の春、卒業旅行としてディズニーランドへ行くことが決定された。




 ディズニーランドの一件が無事に決まって、ほっとしたのもつかの間、長瀬が爆弾を落とした。


「ディズニーランドは、行けるから……。


 セイ、後は、お前ぇの好きにしろ。

 俺は、悪いが、ここで抜ける。


 ディズニーランドに行くためには、大学へ受かってないと面白くねえ。

 俺は、今から勉強する」



「ヨシ、お前……?」

 早川が驚く。

「正月に悪い物でも食べたのか?」

 鳴海も驚愕する。

「いんや。寝ながら考えた。

 お前達、K大だろ?

 セイ、お前ぇは、どうせ法学部だろ?

 俺も同じ大学へ行きたい。

 お前ぇと一緒だと面白いからな。

 俺は化学を専攻する。学部は違って良い。

 お前ぇと同じ学校へ行って、お前ぇを見ていたいんだ。

 だから、AZは一休みだ。あと一年だ。俺、お前達と違って、危ないから」


「ヨシ、お前、公衆の面前で告るな!」

 鳴海が吠えた。


「長瀬くん、素敵よ。セイの周りの男の子は、みんな素敵!」

 久保が感嘆した。


 鳴海の目が点になる。

 公衆の面前で告白すると、久保の感覚では、プラス評価なのか?だったら、俺だって、久保さん、君が好きだと、告白したい。


 

 早川は、しどろもどろだ。

「ヨシ、でも、……」



日時  1月11日(水)3時30分~5時

場所  AZ部室

議題  魚勘再建計画の失敗を宣言し、AZ研究会の終結を決定した。

記入者 久保


1月11日(水)3時半~5時

 魚勘再建計画失敗。AZ研究会の終結を宣言する。全員で相談の結果、AZは、惜しまれつつ解散することとなった。

 森田が、AZを軸にして小説にすると約束した。

 山本の『浮遊薬』の推進力が改善された暁には、みんなで自転車に乗って月に向かって走る約束がされた。

 早川と久保は、箒に試してみる計画も立てた。

 大学に合格したら、恋人がいても、この五人でディズニーランドへ行く。できれば、この五人のなかに恋人がいて欲しい。それぞれの思惑の中で、相手が錯綜しているが、この際、不問とする。

 長瀬の『猫にマタタビ理論の薬』の特許を申請する。デパート、スーパーその他のイベントに使えるので、特許申請とともにその販売を柴田氏に任せることとした。

                          (裏のクラブ日誌より)






 早川は、県警本部へ稽古に行った。


 この日、初めて女子更衣室を使ったので、県警本部の皆さんは絶句した。

 それまで本当に男だと信じていたのだ。


 小杉高校の高杉先生もひどく驚いたようだった。


 小杉高校の女子部員も、顔面蒼白だった。


 一人加藤だけが、大喜びで早川の相手をした。

 確かに、実りある稽古なのだが、……高杉先生の胸中は複雑だった。


 練習が終わり、女子更衣室から出てきた早川は、戦闘モードのままで眼をギラギラさせている。

 加藤と激しくやり合ったせいで、息が荒い。

 バラ色に頬を染め、髪をライオンのようにほどいている。息を飲むほど美しかった。


 県警本部の皆さんが遠巻きにして見つめる中、加藤が、嬉しそうに駆け寄った。


 早川が、悪戯っぽく笑いながら言った。


「お前、ワタシが女子更衣室を使うって言ったのに、信じてなかっただろう?」

「いや。そう言うわけでは、……」

「言っただろう。ワタシは、嘘はつかない」

 ニコリと笑う。


「でも、本当ほんとのことも言わないぜ。相手の誤解を奇貨とするんだ」

 笑いながら長瀬が現れた。手にはチーズケーキを持っている。


「ヨシ!」

 一瞬辺りが輝くような笑顔だった。


「俺より、こっちが嬉しいんだろう。薄情なヤツだぜ。ほれ、ご用命のチーズケーキだ」


「お前、何しに来た?」

 加藤が固い声で訊いた。

「見りゃ分かるだろう。パシリに使われているんだ」


「お前だって、ワタシをパシリに使ったぞ。チューチュー買いに行かされた」

「そう言うけどな。裏門を出てすぐの駄菓子屋と、K市の風月堂じゃ、パシリのレベルが違う!」

「だって、お前、県警本部に用事があるって言ってたじゃないか!」


「用事って、何だ?」

 加藤が冷たい声で尋ねた。


「虫除けだ。セイ、ちょっと、顔貸してくれ」

 長瀬がニヤリと笑った。


「ん?」

 怪訝な顔で振り仰ぐ早川の唇を軽くついばむ。


「お前な、公衆の面前で何てことするんだ!」 


 早川が叫ぶのと、加藤が断固として整理券保持者の権利――この場合、長瀬と同じことをさせて欲しいと――を主張するのが、同時だった。

 

 県警本部の皆さんに至っては、陸の上の魚と同じで、声も出ない。


「長瀬。県警本部の虫からは、俺が責任を持って守るから、セイに俺の権利も認めてくれるように、頼んでくれ!」


 

 この三人はどういう関係なんだろう。


 高杉先生が頭を抱えた。


「お前ぇ、よく分かってきたなあ。

 セイにもの頼むときには、理詰めと泣き落としに限る」

 長瀬が感心した。


「お前のおかげだ」

 加藤が軽く胸を張る。


「ヨシとは、幼稚園からだぞ」

 早川が笑いながら加藤の鼻をつつく。


 壮絶に美しい早川が悪戯っぽく笑うと、それだけで絵になり、小杉高校の面々は血の気が失せた。


 早川が笑いながら、

「今日は、手を抜かないで、本気で付き合ってくれてありがとう。これはお礼だ」と言って、加藤の唇に軽くキスした。


                                                                   完



早川をめぐる長瀬と加藤の関係はどうなるか、この時点で答えは出せませんでした。

読んでいただいてありがとうございました。

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