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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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上手く行かない作戦

「冗談じゃない。

 お祖母ちゃん、何考えてんだ?


 こんなに毎日、北斗高生が通るのに、さっさと5時に店を閉めるなんて。

 昨日なんか、5時前に閉めてた。

 

 店を閉めた後でも、話し声やら、笑い声やら聞こえるだろうに。

 あの人たちを相手に商売しようって、気がないんだろうか?


 北斗高生が通るようになってから、一般の主婦の通行量も少しは増えてるんだ。


 どうして、呼び込みをしないんだ?


 何にもしないから、主婦は、魚勘前を通り過ぎて、スーパー『どんぶらこ』へ行くんだ。

 

 結局、お祖母ちゃんには、やる気がないんだ」



 森田が激高した。各クラブが練習後に魚勘前を通ることにしたら、お祖母ちゃんは、全く気にせずに店を閉めたのだ。

 

 森田が、「せめて、5時半まで開けておいてよ」と、頼んでも、例によって、「客も来ないのに」と、一蹴されたのだ。


「客が来ないのじゃなく、来てほしくないんだ。

 客が来たら、相手をしなくちゃちならない。見ていたテレビを諦めて、魚をおろさなくちゃならない。

 冬は水が冷たいし、炬燵から出るのは億劫だ。


 それだけじゃないか。


 お祖母ちゃんは、毎日、ウチの親父や叔母さんが働いている時間に、茶の間でテレビを見て、お茶とお菓子で時間を潰すんだ。


 店番をしているという名目のサボりだ。


 一日が終わると、さっさと片付けて、仕事をしたつもりになってるんだ。


 仕事をするなら、お祖母ちゃんが、スーパーの鮮魚売り場にでもパートに行けば良いだけだ。

 年だからと何とか変な理屈をつけて、店にしがみついているだけなんだ。


 本気で店をするなら、あんなに通る高校生を横目で見ながら店を閉めることなんかできないはずだよ」




 憤慨する森田に、早川が提案する。


「明日から、帰宅部に補助金を出そう。

 魚勘で魚を買ったら、三割補助する。

 高校生が魚を買わないから、お祖母ちゃんの動きが鈍いんだ」


「でも、高校生が、補助金だけで買ってくれるかしら」と、久保。

「仕方がない。何もしないより、ましだ」


「セイ、ヨシはどうしてる?」

 鳴海が訊いた。

「なんか、あいつすごいんだ。怖くて側に行けない」





11月20日 魚勘前


 先週からクラブの練習が終わってからの通行になったが、お祖母ちゃんは、気にせず店を閉めている。

 明日から、帰宅部に補助金を出すことにする。

 魚勘で魚を買った場合、三割を補助する。

                  (裏のクラブ日誌より)





 「補助金を出しても、売り上げはそんなに増えないみたいだ。

 でも、北斗高生が七~十人、魚を買っている。

 お祖母ちゃんも少しは、北斗高生を客だと認識してくれれば良いのに。

 やっぱり、5時前に店を閉めるんだ。


 しかも、北斗高生が買いに行くと、胡散臭そうに見るんだ。

 客を歓迎するという態度じゃない。


 お祖母ちゃんには、商売をしているという自覚がないんだ。

 一体、何考えてるんだろう?」



 頭を抱える森田の横を通って、山本が魚勘に入る。


 すみません。黒鯛を二つ。あ、それで良いです。塩焼きにしますので、調理してください。

別々に包んでもらえますか。はい、ありがとうございます。いくらですか。


 支払いを済ませると、AZの面々の元へ来て、久保に一匹差し出す。


「久保さん。ほんの気持ちです。僕は、魚が嫌いだけど、昨日のは、いけたから」

「ありがとう、山本くん」



 鳴海が鬼のような形相で睨みつけた。


 でも、純な山本のほうが一枚上手だ。


 恋は技巧じゃない。気持ちに素直にならないと。



 山本の気持ちは、魚に乗って久保へと届く。



 小杉の加藤だって、一生懸命だったじゃないか。



 森田が、うんうんと頷く。

 

 彼は、魚勘の事情より、恋愛事情の解説の方が上手い。


 


 長瀬の事情も理解できる。


 加藤と長瀬はどうなるんだろう。

 セイは、一筋縄ではいかない人だ。

 セイは、男でも女でもない。セイなんだ。



12月7日 魚勘前


 テスト一週間前の11月22日からテスト終了の12月7日のテスト終了前日まで、魚勘の観察ができなかった。

 魚勘は、補助金を出しても、店を5時に閉める。

 少なくとも、売り上げは五割アップのはずだ。お祖母ちゃんはどうなってるんだろう。明日は、五割の補助金を出してみることにする。


 5時前に柴田氏と野々口先生が魚勘に来てくれた。

 ブリの造りを買って、柴田氏が野々口先生にプレゼントしたらしい。                         (裏のクラブ日誌より)



 


 鳴海は、困っていた。


 久保に思いを伝えたい。


 しかし、久保は早川しか見ていない。



 早川は、長瀬を心配し、加藤と剣の稽古をし、魚勘を睨んでいる。


 久保が、早川を溜息混じりに見つめている。



 魚勘は、五割の補助金を出して、売り上げが増大し、珍しく完売した。


 さすがに5時に閉めることはなくなった。


 だが、売れると仕入を増やしたようだ。

 森田のお祖母ちゃんは、何故、北斗高生が前を歩くようになって、売り上げが増えたのかを考えようとしない。


 漫然と事実を受け止めるだけだ。


 仕入額を増やして、完売できると思っているのだろうか。



 AZは、補助金を止めた。


 売り上げは以前の通りに戻り、魚が売れ残る。

 次の日、売れ残りがあるにもかかわらず、仕入れをする。

 ますます、魚が売れ残る。

 当然、昨日の魚は味が落ちる。

 昼過ぎに知り合いに配って来たのだろう。魚が減っていた。


 堂々巡りだ。




 早川は、頭を抱えた。




12月14日(水) 魚勘前


 補助金を出すと魚が売れ、止めると売れ残る。

 お祖母ちゃんは、それを訝しく思わないのだろうか。

 売れると仕入額を増やし、売れ残ると翌日配って歩く。

 自分のやってることが、意味のないものだということに気がつかないのだろうか。               (裏のクラブ日誌より)





お祖母ちゃんは、手強い相手です。AZの早川達の手に負えません。

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