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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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長瀬の行動

「セイ、どうした。疲れたのか?」

「体は大したことないんだけどな。ストレスだ。何でもない」

「何があった?」

「何もない。この前、小杉高校が来たんで、気を遣ったんだ」

 息を吐く。

「少し休め」

「そんなわけにはいかない。『猫にマタタビ理論の薬』もお前に任せっきりだ。

 魚勘を何とかしないと」



 理科実験室には、長瀬しかいなかった。

「山本は帰った」と、長瀬が笑う。


 自分も疲れているくせに、青い顔の早川を気に掛ける。

 

 早川は、長瀬のテーブルに夜食のスナックを置くと、いつもの席にくずおれる。


「どうした?」

 長瀬が訊く。


 早川は空ろな眼で長瀬を見上げる。


「セイ、何があった?」

 長瀬は早川をゆっくり立たせると、大切に抱きすくめた。

「お前ぇ、変だぞ。何かあったのか?」

「お前まで、こんなことをする」

 早川の顔がゆがんだ。

「お前まで?セイ、誰がお前に何をした?

 らしくねえぜ。セイ。目、見るんだ」

 

 視線を合わせない早川に長瀬は気付いた。


「加藤か?加藤だな?あいつ何をした?

 あん畜生め!」


 長瀬が力一杯、肩を掴んだ。


「止めろ。痛い!」


「あいつ、お前ぇに何をした?

 言うんだ。セイ!」

「何もしない。何もさせるわけないだろう?」

「嘘は駄目だ。お前ぇは嘘は言わない。

 正直に言うんだ」


「お前が、今してるようなことを、した。」

 早川が眼を上げて叫んだ。

「お前が悪いんだぞ。お前が剣を止めなけりゃ、あいつに『来るな』って言えたんだ。

 タカの目つきが嫌だって言ったときも、『普通に付き合ってやれ』って、お前が言ったから……。


 でも、あの視線が粘っこいんだ。だから、息苦しいんだ。

 

 それに、あいつ、ものすごくおかしくなって来たんだ。

 

 だから、さっき、『もう、来るな』って言ったんだ。


 だから、あいつ、もう来ない。


 離せ。痛いだろうが」



 長瀬は、力を緩めると、もう一度、そっと早川を抱き寄せて言った。


「そうか。お前がそれで良いなら、そうしろ。


 でもな、セイ、他人のせいにするな。自分で決めることだ」



 

 重苦しい会話だった。


 魚勘もうまくいかない。

 薬もできない。

 そうして、剣の付き合いも諦めなければならないのだ。



 


 一週間が、ゆっくりと過ぎた。


 魚勘は、相変わらずだった。


 森田は、情けなさで痩せる思いだ。


 AZの面々は疲れてきた。

 

 野球部、バスケ部、その他のクラブから、練習時間の延長要請、つまり、魚勘前を営業時間が終わってから通行することを了解してほしいとの要請があった。


 早川達は頭を抱えた。

 


 土曜がまた来た。


 加藤は来ない。山県は、仕事で来なかった。

 

 早川は、練習が楽しくなかった。

 


 加藤がいたら、楽しかったのに。

 

 小さな溜息をついた。


 お爺ちゃんの小牧師範は、加藤が来ないのは珍しいと、ポツリと漏らす。


 加藤はこれから来ることはない。


 よっぽど言いたかったが、口にするのを止めた。


 師範は加藤を気に入っていた。


 何も言えない。

 ただ、黙って稽古した。



 魚勘も気になった。


 何もかも不完全燃焼のようで、胸の中に重いものが留まり、息苦しい。



 早川は、長瀬を迎えに行った。


「あいつ、来なかったか?」


「来るなって、言ったから」

「お前ぇ、それで良いのか?」

「あんなことするヤツなら、要らない」

「あんなことしなけりゃ、来て欲しいんだろ?

 他人のせいにするな。セイ。

 剣に付き合ってほしかったんだろ?

 お前、楽しそうだったからな。

 

 でも、それじゃ、あいつも辛いぞ。


 嫌なら、振ってやれば良かったんだ。


 あいつも、まさかお前がそこまで育ってないとは思わなかったんだろうよ」


「育ったら、おかしくなるのか?お前も、おかしくなるのか?」

「俺は、これ以上おかしくならない。

 ガキの頃から、お前に惚れているから。


 加藤と違って、そういう感情がお前にとって負担にしかならないことを知ってるから。


 でもな、他の女に恋でもすりゃ別だろうが、お前ぇの場合、それは難しいだろうな。


 美しすぎるんだ。


 これから、いろんなヤツがお前ぇに逆上せるだろう。


 お前ぇ、そう言うことに頓着しないだろ?


 加藤がおかしくなるのも責められないと思うぜ。

 

 そのくせ、相手が自分に逆上せたからって、泣いて怒るんだ。全く、歩くはた迷惑だ」



 そう言いながら、長瀬は早川を抱き寄せた。


 早川の体から力が抜けた。


 思い通りにならないことは多い。

 制限された条件の中で、自分のやりたいことやる、それが自分なのだ。


「お前ぇ、何震えてるんだ?」

「ワタシは、どうしたら良いんだろう?」


 長瀬は、早川の眼を見つめながら、唾を呑み込んで言った。


「お前ぇの好きな理屈で言いうと、二説ある。


 一つは、俺を振るんだ。

 加藤との話はその後だ。加藤と付き合いたいなら、そうすれば良い。

 お前ぇの決めることだ。

 心配するな、薬は作ってやる。


 もう一つは、お前ぇが、俺と付き合うことだ」


「ヨシ、聞いて良いか?」

 早川の眼が、つと、長瀬の目の奥を射た。

「何だ?」

「普通な、学説では、対極に二説ある場合、つまりA説とB説が対極にある場合にだな、真ん中に折衷説と言おうか、中間説っていうのがあるもんなんだ。

 

 どうして、お前もタカも、それがないんだ?」



 鋭い視線が、体の奥まで届いた。


 長瀬は、クスリと笑って、「お前ぇは、最高だ!」と、抱きしめた。



 そうして、形の良い唇を見つめながら言った。



「お前ぇの意に添わないことはするつもりはない。

 

 嫌なら、拒め。

 お前ぇは、俺よりそのくらいは強いはずだ。

 

 お前ぇが、拒まないときは……承諾したものと見なす。……して良いか?」

「?」

「許すと言ってくれ」

「……許す?」




 長瀬の顔が近づいた。

 

 早川は唇に暖かいものを感じた。

 何が起きたか分からない。


 長瀬が熱い眼をして優しく見ていた。




どさくさに紛れて、長瀬は早川にキスします。

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