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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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作戦の成果

 夕方、魚勘前の通りを北斗高校の生徒がぞろぞろ歩くと、通りを行く人が、今頃、遠足でもあったか?と、囁き合う。



 3時50分頃から帰宅部が歩き、5時少し前には、各クラブが続いた。

 

 AZ達は、魚勘の近くで、帰宅部に百円玉を渡したり、クラブの確認をしていたが、野球部の清田が早川に片目をつぶって見せた。


 久保が嬉しそうに、「清田くん、セイに気があるかもね」と、笑った。



 早川が、「そういうことは、リョウコに任せる。君の担当だろ?」と、嫌そうに言うと、森田が、「セイに気があるなんて。死にたくないんだろうか?」と、唸った。


 5時を回ってから、AZ一同は北斗高校へ帰り、理科実験室でせっせと『惚れ薬』を作っていた長瀬と岐路についた。



 翌28日は金曜日だ。早川は北斗署に行く。

 早川にとって、金曜の北斗署と土曜の小牧道場はクラブ活動のようなものだ。



 早川が「5時までには、来るから」と、言い残して出かけたので、鳴海と久保と森田の三人が、帰宅部と各クラブの対応をする。


 鳴海と久保がクラブと帰宅部に対応し、森田が一般市民と客の数を数え、聞き耳を立てて売り上げ額をチェックした。

 売り上げのチェックは、身内じゃないとできない仕事だ。


 


 5時少し前に、魚勘前に早川が現れた。

 山県巡査部長に車――早川は言及しなかったが、多分、パトカーだ――で送ってもらったという。

 

 眼がギラギラしていて、顔つきがいつもより険しい。完全に戦闘モードだ。



 久保が、一瞬たじろいだ。



「セイ、どうかしたか?」


 鳴海が訊くと、「小杉高の一行が、明日、ウチの道場に来るらしい。でもって、今日は北斗署に来たんだ。おかげで、稽古がいつもよりハードだったんだ」と、苦笑いすると、一般の通行量がどの位増えたか尋ねた。


「一般の主婦の通行量は、あまり増えてないみたいだ。昨日は十四人、今日は十一人だよ」

 森田が答えると、

「始めたばかりだからな」と、難しい顔をした。


 5時過ぎると、魚勘が閉まる。



 一同、北斗高に戻った。


 北斗高に着くと、長瀬が、片付けながら「調子はどうだ?」と、訊いた。


「まだ、全然らしい」と、早川が答える。


「仕方がない、始めたばかりだからな」


 こちらも同じように言い、鳴海を振り返って言った。


「『惚れ薬』、100本作ったぜ。

 山本の『浮遊薬』は、あっちに置いてある。

 これで、『猫にマタタビ理論の薬』に専念できる」


「分かった。発送はこっちでやる。ご苦労さん」

 生徒会長の鳴海が請け負う。


「セイ、眼、きついぜ。ちょっとは周りの迷惑も考えろ」

 長瀬が注意すると、早川が何でもないように答えた。

「きついか?稽古がハードだったからな。モードの切り替えが上手くできないんだ」



10月28日(金) 3時半~5時 魚勘前

 

 通行したクラブは15。帰宅部員は30人。一般市民が11人。

 北斗高生が通行しても一般市民の通行量は変わらない。

              (裏のクラブ日誌より)








 居合わせた面々が驚愕した。



 日頃冷静な加藤にこんな激しさがあったとは。



 相手をするのは、北斗署のレオ。

 小柄で、いっそ華奢にさえ見える剣士だ。


 昨日の北斗署でも激しかったが、今日はそれを上回る。

 加藤は明らかに人が違っている。


 対する早川も平素と異なる猛々しさだ。

 いつもの舞うような足裁きは変わらないものの、意識して力業を試みている。


 滅多に息切れしない人が荒い息をして飛び回る。


 周りで稽古する人々が自分達の稽古を忘れて見惚れた。



 小杉高校の顧問の高杉先生が満足げに目を細めた。

 



 殺気立つ二人の間に、白いタオルがふわりと舞って、飄々とした声が響く。


「セイ、時間だ。終われ!」



 早川が肩で息をしながら振り向くと、ニヤリと笑った長瀬が立っていた。


「いい加減にしろ。俺が呼んでも聞こえなかったんだろ」


「呼んだのか?すまない。聞こえなかった」

「俺は良いけど。久保が怯えてる」

「リョウコが来てるのか?」




 振り返ると、柱の陰で、久保が恐る恐る見つめていた。

 心細げな視線の中に美しさが揺れる。


「セイ、どうしたの?いつものあなたと違うわ」


「タカが、本気で相手してくれるから、つい。

 大丈夫だ。心配するな。すぐ元に戻る」


「ううん。昨日から、おかしいわ。

 あなた、加藤くんと稽古すると、おかしいのよ。

 加藤くん何か大嫌い!

 彼の相手なんかしないで。彼の相手は山県さんで十分よ!」

 久保が涙ぐんだ。


「タカに頼まれたんだ」

「いくら頼まれたからって、それに応じることはないでしょ?」


 早川は、美しい久保の肩を抱く。

 荒い息のままで面を取り、そのまま、久保の額に自分の額を当てて、その目を覗き込む。



「大丈夫だ。リョウコ。泣かないで。君が泣くとワタシまで悲しくなる。


 迎えに来てくれたんだろ?

 行こうか。イッキや光太郎が待ってる」



 久保の頬にキスをすると、練習している一同に「本業がありますので」と礼をし、着替えに行ってしまった。


 

 その後ろ姿に向かって、

「お前ぇな、久保に何てことするんだ!

 みんな、パニクってるじゃねえか!」

  


 小杉高校の皆さんは、人形のように美しい久保と麗々しい早川に圧倒された。

 

 加藤は、剣だけのために北斗に通っていたんじゃなかったのか、と、囁き合う声がした。




10月29日(土)1時半~2時、3時半~5時 魚勘前


 帰宅部は、20人。だんだん減って来た。

 クラブは13。一般市民は15人。

 野球部から、帰宅時間をもう30分送らせて欲しいとの要望があった。

 魚勘のお祖母ちゃんに営業時間の延長を依頼するが、「客も来ないのに」と一蹴された。                (裏のクラブ日誌より)




 








魚勘前通行量増大作戦は、始まったばかりです。

小杉の加藤が北斗へやってきます。加藤は何を考えているのでしょう。真面目過ぎて、AZの早川達と相いれない人物です。

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