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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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赤字の理由

 北斗では、魚屋の定休日は日曜日だ。


 AZは、平日の通行量と客の数、それに売り上げ総額がどのくらいかの調査を柴田健太郎氏に依頼した。


 久保が直々に頼みに行ったので、柴田氏は、実家の工務店を休んで協力してくれた。


 話をすると、リボン通り商店街の鯛焼き屋『越路屋』の主人が同級生だと言うことが分かったので、こちらの通行量を越路屋の主人に調べてもらい、比較することにした。

 

 北斗高校では、10月20日から中間テストだったので、24日の月曜日を調査日として柴田氏に頼む。

 

 前日に、森田が魚勘へ柴田氏を同行し、柴田氏が頼まれた消費者動向調査で、魚勘前の通りの通行量を調べたいので一日店にいさせてほしいと頼んだ。


 気の良いお祖母ちゃんは、そんな仕事があるんですねえ、大変ですねえ、どうぞどうぞ、いるだけならいくらでも、と、気持ちよく了解してくれた。

 越路屋には、柴田健太郎氏が単独で頼んで来た。



 AZ一同、今回の試験は、魚勘前の通行量調査を気にしつつ乗り越えることになった。




 「セイと組むと、平穏に試験を受けることができない」と、鳴海がぼやいた。

 



 10月26日の例会では、柴田氏から、通行量等についての報告あった。


「僕があの店にいた午前9時から午後5時までの間に、一日の通行量は、東西どちら向きも両方カウントして、十二人。

 そのうち、客として店に入ったのは、三人。

 一人、平均700円ぐらいの買い物をして帰って行った。


 これに対し、リボン通りは、午前十時から午後七時まで、これは越路屋の営業時間だ、で四十人通った。

 これも南北、どちら方向も数えたようだ。

 

 リボン通りもひどいけど、魚勘前は最悪だ。


 北斗じゃ、仕事帰りの主婦が5時前に道を歩くのは考えられない。

 それなのに、魚勘は5時には店を閉めてしまった」

 


 早川が、眼で久保を促し、柴田氏に退席を願う。



「いろいろ、お世話になりました。私たち学生は平日動けませんので、助かりました」


 久保が艶然と微笑んで送り出すと、鳴海の歯軋りが聞こえた。

 


 柴田氏が退席すると、AZの本領発揮の場だ。


「こんなに人通りが少ないとは。

 魚勘の近所の店は、どこも潰れそうなのか?」

 早川が頭を抱えた。


「どこも危ないのは確かだよ。

 魚勘の隣の肉屋なんか新聞配達までしてるって噂だし。

 少なくとも魚勘より事態を深刻に受け止めて何とかしようとしているだけましだ。

 実際、地所を売りに出して、撤退することも考えていると言う噂まであるんだ」

 森田の説明が切ない。


「魚勘は、何で5時に店を閉めてしまうんだ?」

 長瀬の素朴な疑問。


「客が来ないからだって。お祖母ちゃんは、どうかすると3時か4時頃お風呂に入るんだ。

 暇だし、待ってても客が来ないんだって」

「しかし、共働きの多い北斗じゃ、5時に店を閉めるようじゃ、客は望めないぞ」

 鳴海のもっともな台詞に一同頷く。

「そうなんだ。どうも、会員制のお店みたいな感じなんだ。

 北斗の町には魚屋が多いだろ?そして、それぞれが得意客を持っている。


 魚勘もお袋が子供の頃で得意客を三十~四十持っていたらしい。

 それが、客の高齢化に伴って、上得意の客がどんどん死んじゃったんだ。

 それに、死なないまでも代替わりして台所の権限が若奥さんに移ったりすると、スーパー御用達になってしまうんだ。


 お袋によれば、魚勘では、愚痴ばっかりなんだ。

 客が馬鹿だと思ってるんだ。


 大体、魚勘みたいな北斗の魚屋は、北斗の浜で上がった魚しか売らないんだ。

 他所で水揚げされた魚は『タビ』って呼んで、格下の扱いをするんだ。


 でも、この頃の景気だろ?

 主婦たちは、何も高いお金払って北斗の浜に上がった魚を食べなくても、タビの安い魚を買うんだ。冷凍設備も進歩したし。

『どこに上がっても魚は魚』って。


 でも、お祖母ちゃんたちは、おいしい北斗の魚を買わず、格下のタビの魚を食べる若い主婦を頭から馬鹿にするんだ。

 あんな、質の悪い魚しか買わないなんて。ウチの方がモノも良いし値段も手頃なのに分かっていないって。


 こんなに売れなくなる前に、お袋が『惣菜でも売れば?』って言ったらしい。

 すると、『近所の○○さんで売ってるから駄目だ』って。

 『車で移動販売したら?』って言うと、それも、『△△さんがやってるから、仁義を欠く』だって。

 

 この景気だろ?パイが限られてる以上、近所の○○さんと魚勘のどちらかが潰れるんだ。△△さんと魚勘のどちらかが店を閉めないといけないんだ。


 それに気づいてないんだ」


 森田の説明に一同、溜息をついた。




 

 商店の営業にとって通行量は重要なポイントだ。


 人通りのない道筋の店は、それだけで不利だ。

 人通りが多くても、通行人のすべてが買い物してくれるわけじゃない。


 しかし、そもそも人の通らない道では、勝負にならないのだ。


「ネットとか、通販はしないのだろうか?」

 早川が訊いた。

「ありえない。お祖母ちゃんはスマホなんか持ってないんだ。

 本人はアナログ人間だからって言ってるけど、あれは単に新しいものを勉強するのが面倒臭いだけって感じだ。

 でも、電話の御用聞きは時々してるよ。


 ただ、限られた客だけが相手なんだ。

 そして、その相手がどんどん死んでる」


「お前ぇの言い方聞いてると、連続殺人事件みたいだぜ」

 長瀬が笑った。


「客が、どんどん減ってるってことは、新規の客を開拓しない限り状況の改善は望めないことになる。

 新規の客は、あるのか?」

 鳴海が訊いた。普通の人が考える普通の思考だ。


「イッキの言う通りだ。新規の客が来ない限り、ジリ貧だ」

 早川も同調する。


「僕が聞いた限りでは、今までの得意客が減ることはあっても新規の客が増えることはない」

 森田が言い切った。



 一同、そんなことを自慢気に言われても……という気分だ。


「暗いな。で、毎日、いくらぐらい仕入れて、いくらぐらい売れるんだ?」と、早川。


「お祖母ちゃんは、帳場をつけないから詳しいことは分からないけど、十日に一度の支払いで、5~7万払うって話だから、一日5,000円は仕入れていると思う。


 売り上げ額は、柴田氏の調査の日は、三人の客が700円ほど買ったそうだから、2,000円ほどになる」

 森田が計算すると、久保が言った。


「結局、一日3,000円の赤字よ。でも、そうだったら、定休日もあるから、営業日が月二十五日あるとして、毎月7万5,000円の赤字になるわ」


「魚勘が、毎月、7万~10万の赤字になるっていうのは、そういうことだったんだ。

 5,000円仕入れて、小売値2,000円で売る。この場合、売れ残りは、3,000円以上だ。下手をすると4,000円以上になる。残った魚はどうしているんだろう?」と、早川。


「お祖母ちゃんが、知り合いや親戚なんかに配って歩いている。ウチも時々もらうけど、鮮度が落ちてるから、味が落ちてるんだ」


 そんな魚食べさせられる身にもなってみろ。

 森田が憮然として答えた。


「お前ぇの祖母さんは、知り合いに配るために5,000円も仕入れているのか?信じられないぜ」 長瀬が目を剥いた。


「魚は、鮮度が命だ。鮮度が落ちたら、売り物にならないだろう。難しいな」

 早川も暗い。


「お袋が子供の頃は、それなりに回転していたらしい。

 でも、この頃は、この景気だ。どうしても売れ残る。売れ残ると、魚勘で二~三日寝かせることになる。

 いくら北斗の浜で上がったおいしい魚でも、魚勘で寝てたら、味も落ちてしまう。

 お袋が、『そんなに仕入れるな』って言ったら、『いろいろ置いてないと売れない』って言うんだ。

 確かに、難しいところだよ。いろいろあって選べるから客も来るんだ。

 でも、いろいろ置いておいても、客が三人しか来ないと、ほとんど売れ残ってしまうんだ」

 説明する森田も暗い。


「とりあえず、人通りを多くすることを考えよう。少なくとも人通りが多いほうが、客は増えるはずだ」

 早川が言った。



 一同、他に知恵が浮かばない。森田が悲観するはずだ。



調べれば調べるほど暗くなる話です。

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