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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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魚勘の惨状

「何か、絶望的な話だ」

 鳴海が言った。


「森田くん、気の毒」

 久保が、優しく見つめる。


 森田は、こんな話題じゃなければ嬉しいのに、と思った。


「と言うことは、お前ぇの祖母さんが店を止めてくれれば良いのか?」

 長瀬が訊いた。


「どんな店だ?どこにあるんだ?」

 早川が尋ねた。


「北斗の中心の魚町通りにある。

 俺の家から十分ほどのところだ。

 

 子供の頃、夏にアジの味噌焼きやイカの鉄砲焼きがおいしいからって、よく買いに行かされたもんだ。

 そう言えば、最近、それもやってないんじゃないか?」


 鳴海が首を傾げる。


「お祖母さんは一人で暮らしているのか?」と、早川が訊いた。


「ああ。家が店になっていて、そこで暮らしているんだ。

 でも、北斗の町の今の状況じゃ、店をするは大変だ」と、森田。


「北斗の町の今の状況って?」

 早川には分からない。


「閑散としてるだろ?

 日曜日でも人出がほとんどないんだ。

 平日なんか、誰も町を歩いていない。

 

 しかも、お祖母ちゃんの店は、町の中央にあるリボン通り商店街から、魚町の角を東に行った盲腸みたいなところにあるんだ。

 あれは、商店街とは言えないよ。

 

 しかも、肝心のリボン通り自体、閑散としているんだ。

 

 お袋なんか、平日に町を歩いているのは、自分だけだって言ってる」


 森田が説明する。


「ウチのお母さんも同じようなことを言ってたな。

 北斗の町の人は、平日どこへ行ってるんだろう?」

 早川が首を傾げた。


「仕事だ。

 北斗は、昔から共働きが多い。

 だから、平日は仕事に出かけているんだ。


 でも、人口5万だ。

 平均的な4人家族だとして、世帯数は1万2,500。

 

 毎日のおかずをどこで調達しているんだろう?

 

 仮に、北斗に魚屋が100軒あるとして、一軒あたり125世帯の客がいることになる」


 鳴海の計算を長瀬が訂正した。


「イッキ、計算どおりにならないぜ。

 人口5万っていっても、端から端までだ。

 

 魚勘の近所――旧市街の家の数は、せいぜい3,000軒ほどだろうよ」


「それだって、魚屋がそこに100軒もあるわけじゃないだろう。

 

 主婦の皆さんはどこへ買いに行っているんだろう?

 不思議だ。口が五万あるんだ。どこかで魚も買ってるはずなのに」

 早川が首を捻る。


「分からないぜ。現に山本の家なんか、魚をほとんど食わない。

 あいつによれば、魚は神聖な生き物だから、海にそっとしておくのが良いんだと。

 単にヤツが嫌いなだけなんだろうがな」

 長瀬が笑って言った。


「平日のデータがほしい。

 平日、リボン通り商店街の通行量と魚勘前の通行量の違いを知りたい。

 それと、平日の客の数と売り上げが知りたい」

 早川が言うと、長瀬が訊いた。

「お前ぇ、ひょっとして、何かしようと考えてるのか?」

「うん。

 話を聞く限り、森田のお祖母ちゃんは、AZの弊害の典型だ。

 

 だから、第一目標は、お祖母ちゃんを自立させること。

 第二目標は、それができないのなら、店を止めてもらうこと、だ。


 AZの総力を挙げて、これまで稼いだ資金を全部つぎ込んで何とかできないかやってみたいんだ」と、早川が言う。


「無理だよ。もったいない。

 僕が言うのも何だけど、お祖母ちゃんに改善という言葉はない。

 どぶに捨てるみたいだ。


 そんなことに使う金があるなら、僕に貸してよ」

 森田が猛然と抗議する。


「光太郎、セイが良いって言ってるんだ。気にするな。

 俺はそんなことより気になることがあるんだ」

 長瀬が言うと、早川が目で問いかけた。



「お前ぇの言うとおり、光太郎の祖母さんの店を立て直すのは、研究課題としては面白いかもしれない。


 しかしだな、俺としては、ディズニーランドのご褒美がなくなるのは辛い。


 セイや久保とディズニーランドへ行く機会なんて俺の人生には二度とないだろう。


 だからだな、セイ、光太郎の祖母さんの店を何とかするにしても、このメンバーでディズニーランドへ連れてってくれ」

 


 長瀬が言うと、鳴海も大乗り気で賛意を表明した。


「ヨシ、お前、たまには良いこと言うなあ。

 全面的に賛成だ。


 久保さん、一緒に行ってくれるよね。たとえ、その時、恋人がいてもだ」


「そうだ、恋人がいてもこのメンバーだけで行くんだ」

 長瀬が重ねて言った。


「そうだ。そうして、焼けぼっくりに火をつけるんだ」

 鳴海も重ねて言う。


「お前達な、焼けぼっくりってのは、その前に火が燃えていたことが前提なんだぞ。

 どこに火が燃えてるんだ?」

 早川は渋い顔だ。


「硬いこと言うな。要は、気持ちの問題だ」と、鳴海。


「私も賛成だわ。セイ、ランドもシーも一緒に回りましょうね」

 久保も嬉しそうだ。


「サンクス、久保」

 長瀬がウインクした。



「分かった。光太郎のお祖母ちゃんの店を何とかするにしても、ディズニーランドへ行こう。


 みんなできるだけ早く合格すること。

 できれば、全員現役で合格して春休みに行こう」


 

 早川が言うと、一同、大いに盛り上がった。


 それぞれの思惑の中で、誰と一緒にアトラクションに乗っているかが微妙に食い違っているが、この際不問にする。





日時  10月19日(水)午後3時30分~5時

場所  AZ部室

議題  AZの正しい利用方法について検討した結果、零細鮮魚店の再建を目指し

   て、今まで得たAZをすべてつぎ込むことにする。この場合、第一目標は、

   再建。それが無理なら、第二目標として、閉店を勧めることとする。

記入者 久保




早川は、儲けた金を魚勘の救済に使おうと考えます。

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