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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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セーラー服

 二日目は土曜日だ。更に客が増えるだろう。


 鳴海達は、暗い気持ちで朝を迎えた。


 控え室と化しているAZの部室の角にカーテンが掛けられ、早川がセーラー服に着替えると、鳴海の疲れが霧散した。


 久保が早川のスカーフを結ぶと、そこには、壮絶に美しい超美少女が立っていた。


 今日は髪を下ろしているが、そうすると、緩やかな癖のある髪が背中まである。



 久保が、溜息をついた。

「セイ、きれいよ」

「リョウコのほうが、きれいだぞ。それに、なんかスースーして頼りない」


 一同、「口を利いてくれるな」と、懇願した。



 

 体育祭が終わった頃から、AZが早川にセーラー服を着せるらしい、と言う噂が広まっていた。


 だから、この日、入り口を開ける頃には、長い行列ができていた。

 行列は、教室のある本館から生徒玄関を通って職員玄関まで続き、あわや学校の敷地を出るほど続いているのだ。


 長瀬が、行列をジグザクに先導したが、一向に短くならない。


 みんな興奮状態だ。



 本邦初公開、本日限りの出し物だ。

 これを見ない手はない。



 ワタシは、見せ物か!

 と言う早川の抗議は無視された。



 長瀬は、行列の中に、北斗署の面々を見つけた。カンパに来てくれたのだ。


「今日はアケだ」と笑う面々に礼を言って、ファーストパスで誘う。

 並んでいる生徒達から文句が出るが、無視(スルー)した。



「仕方がない。待ってる間、薬品の購入でもしてくれ」と、薬品の販売を始める。

 まるで、昔の駅弁売りだと、森田がこぼした。


 行列の中に、泉川高校生徒会長の西川や小杉高校生徒会長の加藤、三水高校生徒会長の植村がいた。

 その豪華さに感心していると、紀夫センセや安田先生も並んでいた。


「安田先生、セイにセーラー服を着せたら、1万円くれるそうですね。予算のないAZにカンパお願いします」


 長瀬が言うと、安田先生が渋い顔で、「見てからだ」と言った。

 


 10時には、「これ以上並んでも入れません」の看板を掲げる羽目になった。


 早川は辛そうだった。

 ほとんどが、早川目当てで、思い切り握り締めていくのだ。

 

 久保目当ての泉川高の西川が来たとき、早川は心底ほっとした。


 小杉高の加藤が、目をしばたいて言った。

「セイ。きれいだ。でも、手、大丈夫か?」


「ざまはない。効果的なイベントではあったんだが、自分の限界を考慮してなかったんだ。

 自己嫌悪だ」


 加藤は、そのあまりの美しさに絶句して、手を腫らす様を可哀そうに思った。

 そして、こんなバカげたイベントを開催したクラブに怒りを覚えた。


「もう、止めろ」


「仕方がない。決めたことだ。それに、もうじき終わるんだ」

 こうなっても、この人の眼の強さは変わらない。


 加藤は、自分が何を言ってもこの人に聞いてもらえないことを痛感した。



 紀夫センセも安田先生も早川の美しさに絶句したが、久保の可憐な美しさにも感激し、結局、紀夫センセは、2,000円、安田先生は、5,000円カンパしてくれた。

 

 


 昼休みになると、長瀬が、保健室から冷たいお絞りを借りてきた。

 

 三人にお絞りを渡し、心配そうに早川の手を冷やす。


「セイ、すまない。

 ここまで効果的だとは思わなかったぜ」

「気にするな。ヨシのせいじゃない」

「小杉の加藤に怒られた」

「あいつは、ワタシをか弱い女子だと誤解しているんだ。

 それも気にするな。

 あいつは思い込みがきついんだ。

 今日は、圧倒的にリョウコとワタシの客が多いだけだ。

 リョウコも大丈夫か?」

「私は大丈夫。それよりセイよ」

「大丈夫だ。もう一頑張りで終わりだ。頑張ろう。

 ヨシ、薬は売れているか?」

「ばっちりだ。昨日、ほとんど完売だったから、山本も俺も、もう一ロット作った」

「ちゃんと寝ろよ」と、早川。

「お前ぇに、言われたくないね」

 長瀬が笑った。


「私、加藤くん見直しちゃった」

 久保が嬉しそうに言った。

「ん?」

 鳴海が首を傾げる。

「加藤くん、セイの手が腫れてて辛そうだからって、握手しないでカンパだけしてたでしょ」


「リョウコ、よく見ていたなあ。北斗署のみんなもそうだったぞ。カンパだけだ。

 山形さんなんか、1,000円もカンパしてくれたぞ」

「大人は良いの。加藤くんよ。セイを見るときの、あの眼。一途で良いわぁ」

「君は、ああいうのが好みなのか?今度、言っておこうか」と、早川。


「セイ!止めろ!久保さんは北斗高の宝だ。小杉になんか渡さない!」

 鳴海が吠えた。


 とんだところに、伏兵がいたもんだ。


 鳴海は、声を大にして叫びたかった。


 自分目当ての男にわざわざ北斗高の宝である久保を紹介するな!と。





 今年の北斗高校文化祭は、AZのためにあったようだ。


 客が引きも切らずに入り、早川達と握手してカンパした。


 写真部と共同企画でやった写真の販売も大成功だった。


 これは、事前に早川、久保、鳴海の写真を撮っておいて、一枚200円で売ったのだ。

 原価40円だから一枚売れるごとに160円の儲けになる。

 写真部と折半して一枚につき80円がAZの取り分だ。


 この企画は、個人情報保護法との関係もあって学校当局には秘密にした。



 だが、長瀬は、万一露見しても、安田先生は被写体の了解があれば目くじらを立てないだろうと楽観していた。


 夏以降、安田先生は何故か元気がない。


 早川が、「安田先生、何かあったのか?」と首を傾げたが、長瀬は、「問題ない。安田先生のプライバシーに関することだ。お前ぇが知る必要はねえ」と言って取り合わない。



 写真部の展示会場で、ポン引きよろしく、「良い写真あるんだけど、買わない?」と、声をかける。

 これが百発百中だったらしい。

 中には、噂を聞きつけて、自分から買いに来る者もいたようだ。


「何か、いやらしい写真を売ってるみたいで嫌ね」

 久保が文句を言う。

 この人は文句を言うのも可愛い、と男達は思った。

「そうだな。単に制服姿のスナップの売り方じゃないと思うぞ」

 早川も憮然として言った。


「売り方が嫌らしいだけで、物は普通だっていうのが、面白いんだ」

 長瀬が力説すると、鳴海がぼやいた。

「何にしろ、俺たちをダシにするのは、いい加減にしてほしい」


「イッキ、諦めろよ。男前は、それ自体が罪なんだ。握手だって大変だろうけど、大勢の女の子の手を握れてまんざらでもないんだろ?」


 森田の冷めた口調が、鳴海の抵抗をぶった切った。


 

 握手会は、午後2時には、「これ以上並んでも無理です」の看板を出して、やっとの思いで、4時に終わった。

 後片付けは、森田と長瀬が担当した。


 何故か野球部が手伝ってくれたので、鳴海は首を傾げた。



早川がセーラー服を着ると、大事件になります。

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