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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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騎馬戦

 鳴海が、体育祭の最終プログラムを持って部室に来ると、早川が一人で何かしていた。


 早川は差し出されたプログラムを見て言った。


「へぇ、仮装大会は今年もやるんだ」

「名物だからな」

「騎馬戦も名物か?」

「そうだ」

「第二校歌のダンスって何だ?」

「炭坑節だ」

「なるほど」


 北斗高校では、折につけ炭坑節を踊る。

 遠足でも、修学旅行でも、文化祭でも、そして体育祭でもみんなで歌って踊るのだ。


「紀夫センセの了解は取った。体育祭においては、紀夫センセが法だからな。」


 確かに、鳴海は有能な生徒会長のようだ。


「何してるんだ?」

 今度は、鳴海が聞いた。

「欠点課題。宿題テスト、赤点だった」


 しょんぼり言うのが、いじらしい。


「お前、成績良かったんじゃないのか?」

「数学と物理は駄目なんだ。今年は、花火大会したり、坂本が遊びに来たりしたから、全然できなかった。教えてくれないか?」


 仕方がない。教えてやるか。

 鳴海が問題を引き寄せる。


 つと、体が寄って、早川の長い髪が鳴海の顔にかかる。


「ゴメン。邪魔だな」


 ポケットからゴムを出して、無造作に束ねる。

 首筋が細い。



 この見た目とあの戦闘能力の落差は何なんだ?


 こんなに華奢なのに、と思いながら数学の問題と格闘する。


 早川が上目遣いで見上げると、かすかに汗とシャンプーの香りがした。



 もしかすると、久保より細いかもしれない。

 抱きしめると折れそうだ。


 鳴海は、頭を振って妄想を振り払った。

 




 体育の紀夫センセが忙しい。


 体育祭の準備が佳境に入る。


 生徒会がパシリに使われ、紀夫センセが、あっちこっちの生徒におごる。


 早川が紀夫センセに頼み事をした。



 鳴海が走り回る。全校生徒720人の一日がかかっている。






 秋晴れの中、体育祭が始まった。


 鳴海は、生徒会席から大会本部席の紀夫センセと連絡を取りながら大会を進める。


 午前中のプログラムが滞りなく終わって、鳴海、早川、久保が、クラス対抗リレーに出た。


「体育祭で目立つと、後に続く文化祭の宣伝になる。頑張ってくれ」と、早川が言った。


 久保は、あの美しさに関わらず意外と速いし、早川に至っては男かと見まがう程だ。

 


 少し前、「森田はクラスにレンタルした」と、早川が鳴海に言っていた。


 以前、バスケ部に勝手にレンタルされた経験のある鳴海は、森田に同情した。


「しかし、クラスじゃ、レンタルとは言わないんじゃないか?」

「いいや、お前も、クラブにレンタルしただろ?同じだ」

 早川が笑いながら言った。

「ついでに、ワタシもレンタルしてる」

「どこへだ?」

「当日分かる」

「そうか」




 あの時、鳴海は何気なく聞いていた。


 そして、あの日の早川は、いつも以上強気だった。


 午後の部が始まっても、森田も早川もレンタルされた形跡がない。


 担がれたかな、と思う。


 体育祭が佳境に入り、後は、男子による騎馬戦と、名物仮装大会を残すだけとなった。


 北斗高校の騎馬戦に出場するのは男子だけだ。

 しかも、二年の男子全員が出て、勇猛果敢な格闘技のような様相を呈する。


 女子は、応援に徹する。


 これに目立てば英雄だ。去年の二年の大将達は一騎打ちを演じ、大いに面目を施した。

 だから、今年二年の鳴海達も、バスケの練習の合間に騎馬戦の戦い方の研究をして準備万端整えている。

 


 合図の太鼓で入場し、紅組の大将を務める鳴海は目を剥いた。


 白組大将は早川だった。




「セイ、お前、何やってんだ?

 

 騎馬戦は男の種目だ。

 女はすっこんでろ!てめぇに、参加資格はない!」と、鳴海が怒鳴る。


「ノー プロブレム。問題ない。

 

 光太郎の代理だ。

 あいつ、次の仮装大会の準備で出られないんだ。

 だから、ワタシがレンタルされた。


 紀夫センセの了解済みだ」


 早川がニヤリと笑う。



 久保がいそいそとマイクを持って紀夫センセに渡す。


 紀夫センセは、おもむろに朝礼台に登ると、大相撲の審判長よろしく説明を始めた。


「ただ今の、紅組代表の抗議にお答えします。


 紅組代表の抗議は、騎馬戦が男子の種目であるから女子に参加資格がないと言うものでしたが、そもそも、騎馬戦の参加資格が男子と限られたのは、当該種目が激しい格闘技であり、身体能力に劣る女子を保護するためであるからです。


 しかるに、早川の場合、本人から保護の辞退があり、また、春に行った体力測定の結果も男子の平均値を優に越えています。

 よって、必要以上の保護は、性差別撤廃の趣旨から言っても不適当だと判断し、参加を認めることとします」


 白組から嬉しそうな大きなどよめきが起こる。


 女子は大喜びだ。


「はやかわさ~ん。頑張って~」

「セイ!セイ!」

 黄色い声で叫んでいる。


「そんな~」

 紅組から、ブーイングがわき起こる。

「紀夫センセ、気でも違ったか!」

「きたねぇぞ!早川!」

「セイ!頼む、止めてくれ!」


「お前、課題手伝ってやった恩を忘れたか!」

 鳴海が吠える。


「お前が言ってただろ。体育祭では、紀夫センセが法だと。

 それにな。課題とこれは関係ない」

 早川が不敵に笑う。




「それでは、競技を始めます」

 紀夫センセがピストルを取り出す。


 銃声とともに、騎馬戦が始まった。




「鶴翼の陣!」

 早川が叫んぶと、両サイドがぐっとせり出す。


 何?鶴翼の陣だって?



 鳴海は耳を疑った。


 白組は流れるような動きで陣形を作る。要所要所に野球部員がいて、「そこ、右」、「中川、前だ」、「山野、もう少し左」と、指示を出している。


 普通、騎馬戦というのは、相手の陣営の動きを見ながら、陣形を模索するものだ。


 早川は、最初から陣形を指定して、全員を動かしたのだ。


「どこのどいつが、体育祭の騎馬戦ごときに鶴翼の陣なんか組むんだ!」

 鳴海はやけくそだ。


「やったもん勝ちだ」

 涼しく言って、早川が叫んだ。



「かかれ!」

 

 ここに北斗高名物騎馬戦の幕が切って落とされた。


 白組は、紅組の陣営を周りから包み込む。

 二騎一組で攻撃するのだろう。


 見たこともない計算ずくな陣形だ。鳴海の背中に冷たい汗が流れた。






歩く非常識は、女子なのに騎馬戦に参加し、戦い方も非常識なのです。

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