ソフトテニスボールのゲーム
「いつもすごいけど、今日のセイは特にすごい。動きが違う。」
「分かったか?困ったな。師範に叱られる」
悪戯っぽく眼をきらめかせて笑う。
「どうして?」
「ドーピングした。」
加藤が目を剥いた。
「ドーピングって、体に悪いんだろ。セイ、止めたほうが良い」
「相変わらず、真面目だな。飲む薬じゃないから、問題ない」
早川が涼しい顔で言う。
そういう問題じゃない、と喉まで出かかったが、口にする前に、早川が言った。
「タカも使ってみるか?
防具に山本の『浮遊薬』スプレーしたんだ。軽くて良いぞ。
今日は、これからヨシと遊ぶから、動きやすくて良いかもしれないって、ひらめいたんだ」
「『浮遊薬』、できたのか?」
「やっと一時間効果を保てるようになったんだ。
これは、試作品。
ただな、いくら軽くても、この質感はそのままなんだ。ちょっと変な感じだ」
唖然とする加藤に、早川はスプレーを取り出し、嬉しそうに眼を輝かせて自分にスプレーし、ついでに加藤にもスプレーする。
「師範には内緒だぞ。また、叱られる。
お前はこれから帰るから、こうしておくと道中軽くて良いだろ?」
早川がくすくす笑った。
こうしていると、普通の女の子だ。しかも、超絶にきれいな女の子なのだ。
加藤の心情は、複雑だった。
道場の入り口に声がした。
長瀬が来たのだ。
ノート型パソコンを小脇に抱えて、片手を挙げる。
早川は、新しいソフト作ったって?試してみよう。それと、この前、攻略できなかった最後のやつ、と嬉しそうだ。
「人使いの荒いヤツだぜ」
長瀬も口では文句を言っても楽しそうだ。
加藤に気がついて、「よお、県大会優勝おめでとう。二年連続だってな。大したもんだ」と、全然たいしたものだと思ってない口調で言い、ついでのように訊いた。
「お前ぇもやるか?」
「タカは、帰るんだ」
早川が代わりに答える。
そうか、と言いながら、長瀬はパソコンをセットしてそこにあったコードにつないだ。
道場には、何に使うか分からないコードが何本かあって、その中の一本をパソコンにつなぎ、押入れから出してきた機械を道場の四隅において、それにも繋いで行く。
「何するんだ?」
興味が湧いた。
二人が顔を寄せて、もっと離した方が良いだの、もう少し、スピードをあげたら面白いだの、言い合っているのを見ても、何をするか見当もつかない。
「百聞は一見にしかずだ」
早川が言う。
長瀬が、「よし、できた」と、言って、四隅の機械の上についている籠にソフトテニスのボールを入れていく。その間に、早川が、道場の入り口、窓、その他の開口部を閉めていく。
「じゃあ、始めるぜ。加藤、こっちへ来たほうが良い。そこは危ない」
加藤は言われるまま、長瀬の側に座る。
長瀬はパソコンに手早く入力し、エンターキーを押して籠をかぶせる。
「かぶせないと万一の時、パソコンが潰れるからな」と、長瀬が笑った。
次の瞬間、四方から、ソフトテニスのボールが飛び出した。
道場の中央で、早川が四方から飛び出すソフトテニスのボールを竹刀で弾き飛ばす。
きちんと計算されているのだろう。
角度も、飛び出す回数も不規則だ。
中央で、早川が必死にソフトテニスのボールをはじく。
それでも、時々、はじけ損ねて当たる。
「痛!」と、言いながら、必死に食い下がる。
きっちり、三分で終わった。
「お前ぇ、七つも当たったぞ。
手裏剣なら、とっくに死んでるぜ」
「思ったより速かったんだ。
それに、すごくイレギュラーに出てきた」
「当たり前だ。俺が、必死で考えたんだ。お前に規則性を見破られるほど簡単じゃねえ」
「もう一回やらせて」と、早川が微笑む。
こういうおねだりするときの彼女は、本当に可愛く見える。
加藤の喉が干上がった。
二人は、道場に散らばったソフトテニスのボールを拾いながら、これを自動的に集める機械だったら、なお良いのに、道場全体を機械化しない限り無理ってもんだ、と、楽しそうに言い合う。
早川は、更に三回挑戦した。最後には、ボールが一つしか当たらなかった。
呆然としている加藤に長瀬が誘った。、
「折角だから、お前ぇもやってみるか?レベル1、つまり初心者向けプログラムでやってみると良い」
加藤に否やはなかった。
やってみて驚いた。ソフトテニスのボールは予想以上に速く見える。
頭で考えていてはついていけない。
反射の問題なのだ。
初心者向けと言うのに、六個も当たってしまった。
ソフトテニスのボールも、当たると痛い。早川が側で心配そうに見ていた。
「大丈夫か?結構、痛いだろ?」
「もう一回させてくれ!」
思わず叫んでいた。
「お前ぇもセイと同類だな」
長瀬が笑った。
三人で一時間ほどソフトテニスのボールと格闘していると、突然、防具を重く感じた。
「シンデレラみたいだな。時間切れだ」
早川が言うと、長瀬が笑った。
「なんだ。お前ぇ、山本の『浮遊薬』使ってたのか?
道理で動きが軽いはずだ。
それじゃあ、その重いのでやってみな」
「それも、面白いかもしれない」
早川がニコリ笑って竹刀を取った。
長瀬は、早川のやりたいことのために全面的に協力する竹馬の友なのです。




