花火大会
「長瀬くん、吉本くん。おやつ持って来たわ」
久保の柔らかい声で沈黙が破られた。
久保と早川が来たのだ。
理科実験室は花が咲いたようだ。
「セイが差し入れしたらしいけど、私が作ったカップケーキも食べてね」
久保が可愛く微笑むと、山本はしどろもどろだ。
早川は、喉の奥で笑って言った。
「リョウコが泊まりに来てくれたんだ。お前達に差し入れまで作ってくれたんだぞ。
山本、文化祭には売りたい。頑張ってくれ。
でも、リョウコの私服姿は可愛いだろ?」
加藤がいるのに気が付いて、早川が固まった。
「君も、何を着てもきれいだ。もっと、女らしい服を着れば良いのに」
加藤が微笑む。
「久保、ありがとよ。薬ができたら、一瓶やるよ」
長瀬が、笑いながら言うと、やっとの事で声を取り戻した早川が遮った。
「ヨシ、リョウコには、『惚れ薬』なんか要らない。
出会う人みんな夢中になってしまう美少女なんだぞ」
「確かに」
長瀬も山本も笑った。
加藤が唖然として言った。
「君は、そんなものを作っているのか?」
「そうだぞ。
それに、山本は『浮遊薬』を作ってる。
更に言えば、例の特定眼鏡視覚可能剤は、この二人の作品なんだ。
北斗高が誇る天才達だ」
早川のよいしょを長瀬が切って捨てた。
「おだてても何もやらねぇぜ」
一同の、穏やかな(?)会話に殴り込みをかけたのは、久保だ。
「加藤くん、何しに来たの?ここは、北斗高の極秘スペースなの。
セイは、小杉に、渡さないわ。
あなたは、男前なんだから、お相手は、小杉でGETすれば良いでしょ。
セイ、行きましょ。
私達が用事があったのは、長瀬くんと山本くんで、小杉のタカさんじゃないわ。
あ、長瀬くん、暗くなったら、セイのお家で花火するからいらっしゃいよ。
山本くんもね。
加藤くんは、さっさと小杉へ帰らないと電車がなくなるわよ」
気心知れたグループの中で、久保が一人、ハリネズミのようだ。
あまりにもツンケンするので、逆に加藤が気の毒になる。
「久保よ。そんなに虐めるもんじゃねぇぜ。加藤が来ても、セイは構わないと思うぜ。
それにな。付き合うかどうかは、久保が決めることじゃねえ。
セイが決めることだ。
そうだな、セイ?
それでもって、今回の花火はどうする?
加藤の参加を許可するか?」
数秒悩んだ後で、早川が固い声で言った。
「とりあえず……許可する」
「そうか。それも良い」
長瀬が微笑んで、早川の鼻の頭を指ではじく。
「じゃあ、時間があれば、加藤くんもどうぞ。当然、鳴海くんや森田くんにも連絡するのよね」
久保は、やけくそだ。
「そうしてくれ。八時半頃、山本と加藤を連れて、セイん家へ行くよ」
長瀬が笑った。
じゃあ、待ってる、と言いながら、二人は帰っていった。
山本の手にカップケーキが残る。
久保が作ったカップケーキだ。
山本は、カップケーキと長瀬達の顔を交互に見て、「食べようよ」と誘う。
色気より食い気だ。
「やれやれ、久保もあそこまで嫌わなくても良いのに」
長瀬が溜息をついて訊いた。
「加藤。どうする?一緒に来るか?」
「近くに親戚があるんだ。泊まれるかどうか訊いてみる。それからだ」
「泊まるなら、道場がベストだな。
何人も泊まれる。師範に頼んでみるか?」
長瀬がスマホを取り出して、電話を掛ける。
結局、鳴海、長瀬、森田の三人のAZと山本と加藤が、道場のお世話になることになった。
花火は大盛況だった。
鳴海と森田も来た。二人とも、早川の家に泊まれる、しかも、ここが肝心なのだが、そこには久保が来ているということで、燃えに燃えていた。
突然のお泊まりだ。早川家に迷惑はかけられない。
近所のコンビニで朝ご飯の準備をし、心おきなく花火に興じた。
鳴海が打ち上げ花火を持ってきたので、みんなで港へくり出した。
特別参加の山本は、「今度、口を滑らせたら、ただじゃおかない」と、全員に脅かされたが、そんなことはどうでも良い。
久保と一緒に楽しい時間を過ごせるのだ。
開発途上の『浮遊薬』を花火にスプレーして、空飛ぶネズミ花火だ!と、歓声を上げた。
ただし、効力が長続きしなくて一分ほどで落ちてくるのだ。
山本は、「これに一週間ほどの効力を持たせるのが、今後の課題だ」と、難しい顔で言った。
加藤は、滅茶苦茶な集団にただただ呆れている。
その中心が早川なのだ。
早川は、小声で長瀬に言った。
「ヨシ、リョウコに電話してくれたんだって?ありがとう。」
「後は、自分で考えろ。
大丈夫。久保が側にいてくれる。
お前ぇは、自分がどうしたいのか、よく考えるんだな」
長瀬が早川の頭をくしゃりとかき回す。
素直に頷く早川がいた。
7月30日(土)早川家及び港にて
AZ花火大会をする。出席者は、早川、鳴海、長瀬、久保、森田、山本そして小杉の加藤の七人。
そのまま、全員早川家に泊まる。
合宿みたいだった。男組は道場に寝たので、次の日に5時半に起こされて、早川のお祖父さんの早朝練習に付き合わされた。
(裏のクラブ日誌より)
早川は恋愛体質じゃないので、彼女に恋する人は大変です。




