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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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早川 清

 その少年は、隣のクラスにいた。



 小柄で華奢だが、圧倒的な存在感があった。


 身長は、鳴海より20センチは低いだろう。つまり、160ほどだ。だが、そこにいるだけで輝いて見えた。

 オーラが違うのだ。


 顔の造作が美しいのだが、可愛い系だとか、きれい系だとか、そういうのとは違って、美というものを実体化すると、こういう形になると思わせる顔だった。


 髪の色は、光の加減で碧く見える黒。緩いウエーブのかかった髪には独特の華やかさがあった。首の後ろで無造作に束ねているが、ほどくと背中までありそうだ。

 生徒の大半が茶髪の昨今、その長い黒髪は目立った。


 だが、目立ったのは、顔の造作や髪だけじゃなかった。

 

 眼の光が並じゃなかったのだ。そこには、周りを圧倒する強さがあった。



 こんなヤツがいたんだ。

 世の中、甘くない。



 その生徒の上から下まで見て、もう一度、顔を見る。

 漆黒とも碧とも言える髪と鋭い視線。




 上には上がいる。


 鳴海は、思わず見とれた。


 見ると、周りも同様のようで、居合わせた全ての生徒、教員、保護者がその生徒に見とれていた。




 どこにでもあるような入学式が終わり、あちこちから、軽い吐息や咳が漏れる。


 ふと、薄桜の訪問着を着た美しい母親が、教師の一人に挨拶をしているのが目に留まった。


 フォーマルドレスの多い昨今、着物姿は目立った。単に目立っただけでなく、その母親は、鳴海の母と同じ年頃とは思えないほど若く美しかった。


 上級生達も「何者だろう?」と、囁き合っている。


 薄桜の訪問着の母親が、微笑んで、美しい新入生に手招きした。

 少年は、列に並んだまま、母親の相手をしている教師に礼をとる。


 まるで、スポットライトが当たっているようだった。


 後で、訪問着の母親が早川の母親で、相手をしていた教師が生徒指導の安田先生だと知った。



 早川の母と安田先生は、どうやら、高校の同級生だったらしい。安田先生は、久しぶりに会った美しい同級生に相好を崩していた。

 




 鳴海は、その美しい少年が同じクラスでなかったことに密かに安堵したが、翌日、中学時代の友人から、とんでもない事実を聞いた。



 なんと、早川は女だったのだ。



 入学式の後で行われた最初のホームルームで分かったのだ。


 順番に自己紹介をして、早川の番になった。


 一同、この目立ちまくっている少年の自己紹介に期待していた。


 だが、「西山中学から来た早川  せいです。よろしく」と、簡単に言った声は、幾分低めではあったが、女の声だった。


 誰かが、「お前、もしかして女か?」と問い質すと、「そうだ」と、薄く笑ったという。


 西山中学出身者を除くクラス全員が絶叫した。


「何で、学生服着ているんだ?」と言う悲鳴に、「問題ない」と本人は涼しい顔で答えたそうだ。



 鳴海にこの話をした友人は、

「あいつ、西山中でも学生服で通したらしい、結構有名だったって話だ。

でも、中学じゃ、よく女に男の制服を認めたもんだ」

と言っていたが、鳴海に言わせると西山中学も西山中学だが、うちの高校も同じようなものだった。


 よくもまあ、女子に学生服の着用を許可したものだ。



 北斗高校の七不思議が一つ増えて、学校当局は、どうして早川に男子の制服着用を許可したかというのが、最近一番の謎になった。



 少なくとも、生徒指導の安田先生がよく許可したものだと言うのだ。


 生徒の間でまことしやかに流れる噂によれば、早川の母親が、安田先生の初恋の相手だったので、あの母親に頼まれたら、安田先生は拒みきれなかったのじゃないか、と言うのだ。


 入学式での、美しい母親と、鼻の下を伸ばしきった安田先生の様子を思い起こせば、まんざら荒唐無稽でもないと思われるのが、辛いところだ。



 早川が女だと分かってから、物好きな上級生が、彼女をガールフレンドにしようと画策した。


 しかし、早川は、恋愛や男女交際に全く興味を示さなかった。

 しかも、強引に口説こうとする豪傑(物好き)に対しては、実力行使で断った。


 早川は、生半可な男子より武道、特に剣道や柔道が強かったのだ。

 

 鳴海にしてみれば、「恋愛を無理強いしてどうする?」という気分だが、馬鹿な先輩もいたものである。


 

 

 早川が男子と恋愛しないのは本人の趣味だから、知ったこっちゃない。だが、おかげで、鳴海は、とばっちりを受けることになった。


 つまり、鳴海は、本来なら女子の人気を一身に集めるべきところ、早川のせいで、四割程度の人気しかないのだ。


 この四割というのは、去年の文化祭で、新聞部が実施した『恋人にしたい彼と彼女』と言うアンケートで出た数字だ。


 恐ろしいことに、この高校では、女子の五割がオンナの早川に逆上せているのだ。二位の鳴海は四割弱の得票率だった。


 


 ここに至って、早川は、完全に鳴海のライバルと化した。


 鳴海だけじゃない。北斗高校男子全員に敵認定された。


 男たちが、陰で『歩く非常識』もしくは『歩くはた迷惑』と呼ぶようになったのは、この頃からだ。




 このときの女子部門で、一位は久保の六割、二位が早川の三割、残り一割を何人かの女子で分け合っていた。


 早川は、女子にも男子にも人気があるのだ。

 


超非常識な早川は、鳴海の天敵となります。

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