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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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坂本の来訪

 北斗高校は、7月中と8月の終わりに補習授業がある。補習があっても、午前中だけだから、夏休みの開放感で一杯だ。



 早川と久保は、文化祭の準備を進める。

 鳴海は、全国大会の練習に追われる。

 長瀬は研究にのめり込む。

 森田は、執筆作業に夢中になる。


 みんな、宿題しているんだろうか。


 こんなことばかりしていると、夏休みの終わりに痛い眼を見る。

 

 誰かが忠告したほうが良さそうなものだが、誰もしない。

 みんな自分のことで忙しいのだ。 

 よしんば、誰かが忠告したとしても、誰も聞かないだろう。

 


 ある日、久保が生徒会室で文化祭の特別予算の要求を整理していた。


 早川は、AZの口座残高の計算をするために部室に籠もっている。

 AZは、特定眼鏡視覚可能剤や県大会の賭けの他に、ちまちまと小金を稼ぎ、一度、きちんと整理する必要があったのだ。

 

 これは、本来、久保の仕事だが、鳴海がレンタル中のため久保は生徒会の仕事に忙殺され、早川にお鉢が回って来たのだ。


 森田は、狙っているネット小説大賞の締め切りが9月30日なので、当分の間、執筆作業に集中させてもらっている。

 夏の間はクーラーの利いた図書館で執筆すると言って、さっさと帰って行く。


 長瀬は理科実験室に籠もって研究中だ。


 

 生徒会室の開け放たれたドアが、わざとらしくノックされた。

 

 久保が顔を上げると、見慣れない生徒が立っている。


 北斗高と同じような制服だが、見かけない顔だ。

 縦横ともに大柄で、強面の男だ。


 不審に思う久保に対して、向こうはその美しさに呆然としている。



「どなたでしょうか?」

 久保が尋ねると、我に返った男が言った。


「桜川高校の坂本だが、会長代理に会いたい。会長でも良い」


「会長は、ただ今、バスケットボールの全国大会で青森ですわ。代理を呼びますね」


 久保が立ち上がると、夏の淀んだ空気がさらりと揺れた。

 じっとり汗ばむ気温だが、久保の周りは涼風が吹いているようだ。


 坂本は、久保を凝視したまま立ちつくした。


 「どうぞ、お掛けになってお待ちください」

 

 誰かとスマホで連絡を取った久保に言われて、坂本がどさりと座る。

 喉がからからに乾くが、暑さのためだけじゃないようだ。


 しばらく待たされた。


「お待たせした」


 声に振り返る。入り口に壮絶に美しい少年が立っていた。



「会長代理の早川だ。先日は、どうも」

 眼の光が強くなる。視線の強さに気圧されるほどだ。


「お前、この前の電話の女か?」

「そうだが」


「風水研究会に紹介してほしい。後は、こちらで何とか話を付ける」


 早川が困ったように笑った。


「申し訳ない。風水研とは、連絡が付かないんだ。

 あの電話の後で、こちらも調べてみたんだが、風水研があれを発明したというのは嘘だったらしい。

 本当は、ある会社が発明した商品を通販で買って、自分達で発明したと言って売ったらしい。

 生徒会連絡調整会議で好評だったので、風水研がもう一度注文しようとしたら、その会社が倒産したか、詐欺的な会社だったかで、二度と連絡ができなかったようだ。


 そう言うわけで、坂本くんの要望にはお応えできない」



 どこが申し訳ないのか、ふてぶてしいほどの態度だ。


 横で見ている久保がハラハラした。


 坂本は、話の内容より、早川の美しさに驚いたようだ。

 久保の美しさにも驚いたが、後から来た早川の圧倒するような存在感には度肝を抜かれた。



 坂本の容貌は、醜悪と言って良い。


 容貌には自信がなくても、生徒会活動やクラブ活動で目立って是非とも女の子にモテたいと思っているのだ。


 そんな坂本にとって、北斗高校の早川は、神の悪戯というか嫌がらせそのものだった。


 大きく息を吸い、自らを落ち着かせる。

 問題の倒産した会社の名前と住所を確認してメモすると、これ以上することはない。



 仕方がないので話題を変えた。


「お前、女だったな」

「そうだが。それが?」

「どうして、セーラー服を着ない?

 北斗高はセーラー服だろう。美人なのに。もったいない」



 久保が、声を上げて笑い出した。

「私も、聞きたいと思ってたの。

 セイ。あなた、きれいなのに。どうしてセーラー服着ないの?


 坂本くん、よく言ってくれたわ。

 北斗高の皆さんが聞きたくても聞けない大きな問題なの。

 余所の学校の人の方が甲斐性があるわ」



 坂本は美人に褒められて悪い気はしないし、早川も楽しげに笑う。



「そういう質問を受けるのは、新鮮な感覚だな。

 でも、ノーコメントだ」

 

 生徒会副会長の一年の中嶋がやって来て、


「失礼します。今さっき、青森の鳴海会長から職員室に電話がありまして、予定通り能代工業に破れたので明日帰る。慰労会よろしく。とのことでした」と、覚えてきたことを一気に棒読みで言う。


 そこに見知らぬ男を見つけた。


「中嶋くん。こちら桜川高校の生徒会長の坂本くん。特定眼鏡視覚可能剤のことでいらした。

 坂本くん、ウチの副会長の中嶋くんだ。

 来年は会長だろうから、何かあったら、彼に訊いてくれると良い」


 早川が紹介する。


 中嶋は、特定眼鏡視覚可能剤とは、現在、巷で囁かれつつある例の薬のことだとピンと来た。


 しかし、対応しているのが、関係を噂されているAZの幹部二人だ。ここは、余計なことに巻き込まれる前に逃げた方が良い、と瞬時に判断して、挨拶もそこそこにの回れ右して消えてしまった。


「さて、坂本くんにお答えできることは、ここまでだ。

 

 悪いが、ワタシは作業中なんだ。申し訳ないけど、失礼して良いかな?」


 早川が言うと、戦意が消えた坂本に、久保が缶コーヒーを差し出して言った。


「どちらも、文化祭の出し物には、頭が痛いですものね。

 うちの会長もバスケ部にレンタルされてなかったら、今頃同じ悩みで東奔西走していたと思いますわ」



 艶やかな花のような笑顔だ。

 

 坂本は、久保の美しさに圧倒され、何も言えず帰って行った。

 



7月27日(水)生徒会室にて

 

 桜川高校の坂本会長が早川に会いに来た。風水研に紹介して欲しいとのことだった。

 風水研は、倒産会社の製品を自作として販売していたと説明してお引取り頂く。

                   (裏のクラブ日誌より)




早川と久保のペースに桜川の坂本も巻き込まれます。

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