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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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桜川高校の坂本

 早川と久保は、生徒会室で文化祭の相談をしていた。


 生徒指導の安田先生は、他の出し物には、特にクレームを付けなかったようだ。まずは一山越えた。



 あれこれ相談していると、鳴海が体育館からやって来て封書を差し出した。


「これは、生徒会長宛に届いたものだが、お前が読んだ方が良い。

 対応もお前に任せる。


 あの薬、次から次へと副作用が出てくるぞ」と、苦い笑いを残して帰って行った。



 紀夫センセがうるさいのだ。


 紀夫センセは、今度は、全国制覇を目指している。

 しかし、部員一同は、県大会の優勝で満足しており、今度は、無理だと思っている節がある。



 鳴海自身、「準決勝で能代工業と当たるから、それまでもてば恩の字だ」と、笑っている。


 欲のない連中だ。




 これは紀夫センセの独り相撲になるかな、と、早川が笑った。

 




 早川は手紙を開いて唖然とした。


 K市の桜川高校の生徒会長からのもので、特定眼鏡視覚可能剤の購入希望だった。

 鳴海じゃないが、次々と副作用が出てくる。



 早川は天を仰いだ。


 久保が、気の毒そうに早川を見る。



 仕方がない。諦めて連絡をとろう。


 県の生徒会長の電話番号簿を探して、連絡を取ることにする。

 スマホを使うと、向こうにこっちの電話番号が表示されるのだ。こういう場合は、スマホじゃなく公衆電話が良いのだろう。

 だが、まさか、公衆の面前であの薬の話はできない。

 

 電話が終わったら着信拒否することにして、腹を括って発信する。



 呼び出し音が何回かなって、太い男の声がした。


「こちら、北斗高校生徒会長代理の早川という者ですが……」と話し始める。




 桜川高校の生徒会長は、坂本と言う。

 

 柔道部の部長もしているようで、今年の県の春大会で優勝した。



 桜川高校がどうして生徒会連絡調整会議に入っていないのか、誰も知らない。第一、どうしてあの十校が生徒会連絡調整会議に参加しているのか、その基準すら分からないのだ。


 いつもは、堅苦しい会議ばかりしているので、誰も気にもしない。


 しかし、今回は違った。

 よりによって、特定眼鏡視覚可能剤というヒット商品を販売したのだ。


 そういう商品があれば良いと、空想したことはあった。

 だが、まさか本当に作ったヤツがいたとは……。


 坂本は、桜川高校が生徒会連絡調整会議に入っていなかったことを残念に思った。


 さっさと要請して、交じっておけばよかったのだ。


 この上は、直接、北斗高校の生徒会に頼もう。

 意を決しての手紙だった。



 早川は早川で、これ以上、あの薬は作れない。

 

 山本とAZが特定眼鏡視覚可能剤に関わっていたらしいという噂が蔓延しているのだ。

 いつ、生徒指導の耳に入るかも知れない。


 証拠は抹殺した。

 知る人はいない。

 噂を消すために山本が『浮遊薬』の発明に没頭している。


 寝た子を起こすことはできない。



「申し訳ない。君の要請は分かったが、今年の販売はあれきり終了した。

 来年、作る際にオタクを最優先するよう手配する。

 それで勘弁て欲しい」

 この人にしては、珍しく下手に出ている。


 

 側にいる久保はハラハラする。


 万一の時は、鳴海と長瀬を呼びに行かなければと、腰を浮かすと、早川にものすごい目つきで睨まれた。


 久保は、早川の視線がきついのを知っていた。

 しかし、本気で睨まれたのは初めてだ。

 体がすくんで動けなかった。




「だから、風水研とは連絡がとれないんだ。


 あそこは、現在休眠中で、あの薬品を販売する目的であの時だけ活動していたんだ。

 鼻薬をかがせるも、脅すも、相手がいなけりゃ、やりようがないだろ?


 ああ。そう言うことだ。


 余分?そんなものないだろ。


 そんなもの置いておくのは、生徒指導に発覚するリスクを置いておくようなものだ。


 仮にあの会議の時にあったとしても、とっくに処分されているはずだ。


 いずれにしても、ウチの生徒会では、風水研を捕まえることができない。


 申し訳ないが、余所で残りが出たところがあるかもしれない。他を当たってくれないか?

 

 物が物だ。くれぐれも、極秘で探してくれ。


 そんなに怒っても、仕方がないだろ。


 ない袖は振れないって言うじゃないか。


 物はない。

 風水研は休眠中で居所不明。

 気の毒だが、ウチとしても、どうしようもない。


 ワタシが女だからって、お前のヒステリーに付き合う義理はない。


 ちょっと考えれば分かるだろ?頭を冷やして、他の手を考えるんだな。


 ウチの生徒指導にチクっても無駄だ。


 我々生徒会は何も知らない。

 現在居所不明の風水研が内緒でやったことなんだ。


 生徒指導も、風水研を捜すだろうが、無駄だろうな。云々」

 



 電話は、三十分も続いた。横で訊いていた久保がスマホのバッテリーが切れるんじゃないかと心配したとき、スマホじゃなく早川が切れた。



「頭の悪いヤツだな。これだけ言っても分からないなら、勝手にしろ!」


 思いっきり画面にタッチして電話を切ると、鋭い声で言った。


「リョウコ、ヨシに言うなよ。話を聞いたら、あいつ、絶対無理して作る。

 あの噂が蔓延してるんだ。あいつに、そんなヤバイ橋は渡らせない」


 ギラギラした視線で火傷しそうだ。



 息を弾ませたまま、「今日は帰る」と、出ていってしまった。


 

 久保は、慌てて部室へ走り、執筆中の森田に相談した。


 早川は、長瀬に言うなとは言ったが、森田に言うなとは言わなかったからだ。


 森田は頭を抱えた。


 ヨシに言うなって言われたからって、お鉢が回ってきたのだ。


 とりあえず口止めされたのは久保さんだけだから、僕からヨシに話しておく。イッキに電話の一件を報告しておいて、と言って、二人は体育館と理科実験室にそれぞれ走った。

 



 報告を聞いた鳴海は、「それしかないだろな」と言った。


 長瀬は、「そうか」とだけ言った。





 AZ研究会は特定眼鏡視覚可能剤に祟られる。


 長瀬の隣のテーブルでは、山本が汗をぬぐいながら、『浮遊薬』に取り組んでいた。

 森田は、恨めしそうに山本を見た。





7月22日(金) 生徒会室にて

 

 K市の桜川高校生徒会長の坂本から、特定眼鏡視覚可能剤の購入希望があった。

 製品は完売して残っていない。

 例の噂のせいで、生徒指導の監視――うすうす特定眼鏡視覚可能剤の存在に気が付いている節がある――がきついので再度の製造は無理だ。

 早川が電話で断る。

             (裏のクラブ日誌より)




AZ研究会は特定眼鏡視覚可能剤にたたられます。それもこれも、ヤバい薬で金儲けしたからです。

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