AZのカラオケ大会
北斗高生御用達のビックリカラオケは、さほど大きなカラオケ屋ではない。
市街地の中小のカラオケ屋が次々と倒産の憂き目にあう中で、ここは、昔から北斗高生がテスト開けや文化祭や体育祭の打ち上げに利用している。
料金は、高校生の懐を慮って、平日で学割30分80円(土、日は120円)と安くて計画が立て易い上、何かと便宜を図ってくれる。
だから、北斗高生に圧倒的に支持され、北斗高生がカラオケと言うと、ここになる。
7月17日、日曜日、ここで山本を交え五人のAZが、慰労会を行った。
北斗高校の平均的な男生徒である山本は、久保とカラオケに行けるというので、前日眠れなかったようだ。
彼は、特定眼鏡視覚可能剤の製造時にも徹夜していたので、この薬の一件では睡眠不足だったが、最後まで睡眠とは縁がないようで、眼をしょぼしょぼさせて現れた。
久保は、ジーンズに白いタンクトップ。サーモンピンクの長袖シャツを上着代わりに着ている。生来の色の白さが、サーモンピンクに映えて、若々しさの中に楚々とした雰囲気がある。
男達は、申し合わせたように、ジーンズだったが、長瀬、森田、山本がTシャツなのに、鳴海だけタンクトップにアロハシャツを上着代わりに引っかけていて、野性的な風貌に良く似合っていた。
早川は、長瀬達と全く同じくジーンズにTシャツだった。
同じジーンズと言っても、久保のはブーツカットだが、早川のはストレートで、モスグリーンのTシャツは一サイズ大きいのだろう、ゆったりと着ている。
こういうゆったりとした服を着ると、早川は男に見える。
今日は、髪もまとめず、背中に流している。
真っ黒で緩やかな癖毛が、背中まで流れて見事なものだ。
一同、これまでのストレスを発散すべく、歌いまくった。
男達の目当ては、久保とのデュエットだ。
山本は、心底AZと付き合っていて良かったと涙ぐんだ。
長瀬も森田も久保と仲良くできてご機嫌だった。
鳴海に至っては、この目的のために早川と付き合っているのだ。
何度も久保を引っ張り出して歌いまくった。
森田が熱唱しているとき、選曲している長瀬に久保が訊いた。
「長瀬くんは、セイと幼なじみだって話だけど、いつ頃からの付き合いなの?」
「幼稚園の頃からの付き合いだから、かれこれ十年以上の付き合いだな。言うなら、竹馬の友もしくは筒井筒だ。
あの頃のセイは、ちっちゃくて、巻き毛が可愛くて、あんまり可愛いから俺がはさみで切ったことがあるくらいだ。
そんぐらい可愛いくて、そうして強かったんだ。
俺が虐められていると、いっつも助けに来てくれたんだ。
まるで、ライオンの子供みたいだった」
長瀬が眼を細める。
早川が吹き出した。
「ライオンと言えば、女子の一部がセイのことを『北斗高のライオン』って呼んでるみたいよ。
特に、一年生の女子に絶大な人気があるみたい」
「女子に人気があってもな。
でもな、リョウコ、ヨシの竹馬の友ってのは、本当だぞ。
本当に、竹馬の友なんだ。
幼稚園で竹馬をやったんだけど、ヨシは上手くできなかったんだ。
だから、ワタシが特訓して乗れるようになったんだ」
早川は笑いながら長瀬を振り返った。
「ヨシ。筒井筒は止めておけ。
あれは、幼なじみで結婚する話だぞ。
君ならずして 誰かあぐべき だ」
「別に良いじゃねえか。
俺の第一志望は久保で、第二志望は、セイ、お前ぇで辛抱しておく。
できれば、もうちょっと、視線をソフトにしてくれるとありがたいんだが」
長瀬が言うと、鳴海が吠えた。
「ヨシ、お前、図々しいぞ。
何が第一志望だ。久保やセイが第一、第二志望なら、お前、第三志望の滑り止めを確保しておけ。
絶対、浪人確定だ!」
「そうだそうだ。
リョウコが第一志望だなんて、図々しい。
無駄な努力だ。お前になんかに渡さない」
断固反対する早川に、鳴海が頭を抱えた。
「セイ、久保さんのことより、自分の心配をしろ。第二志望は、お前だ」
つくづく常識のないヤツだ。
「セイ、長瀬くんの第二志望より、小杉高の加藤くんは、どうなってるの?」
久保が話題を変えた。
「加藤か?ああ、良いヤツだぞ。
去年、県警本部の剣道の練習で会ったんだ。
県警本部には、ワタシが女だとは言ってない。で、あっちが勝手に男だと思いこんでいる。
だから、あいつも、ワタシを男だと信じてるみたいだぞ」
ニヤリと笑う。
「何、それ?悪趣味だわ」
「セイは、そういうヤツなんだ。嘘は言わないけど、本当のことも言わない。
相手の誤解を奇貨とするんだ」
笑いながら長瀬が説明する。
「奇貨ってどういうこと?」
「これ幸いって、乗ることだ」
「それで、あの日、加藤くんと何したの?デート?」
今日の久保は結構しつこい。
「あの日は、ウチの道場で立ち会ったんだ。
あいつ、去年より、かなり強くなってから、師範が感心してた」
「山県さんと、どっちが強い?」
これは、長瀬だ。
「同じくらいかな。だから強いよ。楽しかった」
早川が遠くを見るような顔で言った。
「あれから、会ってるの?」
久保が更に追求する。粘着気質なのだろうか。
「土曜に、たまに道場に来る。
師範が喜んじゃって、もう、嫌になるほどだ。
大体、お祖父ちゃんにすれば、子供はワタシの母さんだけ、つまり女だけだろ。
そのまた子供も女のワタシだけだ。
ワタシが男ならって、よく言ってたんだ。
加藤が来て分かった。
きっと、お祖父ちゃんは、ワタシをあんな風に指導したかったんだろうな。
つくづく、男に生まれたかったよ」
「仕方がねえ。お前ぇは、女だ。やれることをやるしかねえだろ」
フォローしたのは、やっぱり長瀬だった。
7月17日(日)10時~15時 ビックリカラオケにて
特定眼鏡視覚可能剤の販売及びバスケ部の県大会の賭に係る慰労を込めたAZの最初のイベントをビックリカラオケで開く。久保とデュエットできて良かった。鳴海だけ七回もデュエットした。許せん。(裏のクラブ日誌より)
儲けたお金でカラオケを楽しんだ一同でした。久保は、人気者です。




