AZの儲け
我に返った柴田健太郎は、舞い上がってまくし立てた。
「今の少女は、誰だ?
何年生だ?
何でここに来たんだ?
お前の知りあいか?
住所はどこだ?
電話番号は?
できれば、スマホのが良い。
そうだ。肝心なことは、あの美人はあの少年と付き合っているのかどうかだ。
お前、知っているか?
食事に誘ったら、付き合ってきくれるだろうか?
どんなものが好きなんだろう?
お前、知り合いなら、今度正式に紹介してくれないか?」云々。
柴田兄妹のためにインスタントコーヒーを入れていた森田は、あまりにも平凡な反応なので脱力した。
平均的な男が誰しも取りそうな反応だ。
もっとオリジナリティーを出してくれなきゃ小説にも使えない。
内心ぼやきながらコーヒーを勧める。
「いい加減にしてよ。お兄ちゃん。
あの子は、幼なじみの久保涼子ちゃん。
覚えてない?
今、高二で、ミス北斗高の誉れ高い才媛なの。
さっきの学生服の美少年はオンナなのよ。
しかも、AZだけでなくて、生徒会も裏で仕切っているって噂のある凄腕なの。
悪いことは言わないから、あの二人に深入りするのは、止めときなさい」
柴田先輩が必死になって説得する。
しかし、一目で恋に落ちた柴田健太郎は、妹の忠告も耳に入らない。
この上は、是が非でもAZと関係を持ちたい。特許を取る予定があるなら、僕が手続きを破格の手数料でしてみせる。タダでも良い。
打ち合わせであの子に会えるだけで意味がある。云々。
ここに至って、柴田彰子は、説得を諦め、兄の意向をAZに伝えるため、例会に参加したのだ。
参加してみて驚いた。久保と早川が並んでいるだけでも目の毒なのに、今日は来ていないが、鳴海まで参加しているというのだ。
AZは、このメンバーだけで、入部希望者が押し寄せるだろう。
慢性的な部員不足に悩んだ歴史研究会の部長としては、羨ましい限りだった。
しかし、早川は、部員より、むしろ金を集めることに興味があるようだった。
柴田先輩の提案は、余所より手数料が安くて親切だと言うことで、有り難いことだと全員一致で可決された。
古典の佐々木先生が、『ありがたい』の語源は、『世の中に有ることが難い、つまり、なかなかない』と言うところから来ていると、言っていたが、まさにこういう申し出というのはなかなかないので、AZ一同ありがたく受けることにしたのだ。
久保は、早川に勝利宣言した。
確かに、久保の力に寄るところが大きい。
柴田先輩が帰ろうとすると、早川が声を掛けた。
「すみません、先輩。先輩は、AZ以外で特定眼鏡視覚可能剤の秘密を知る唯一の人になります。
くれぐれも他言無用に願います。事情を知っている以上、先輩も我々と共犯になることをお忘れなく。
受験を控えた先輩が学校当局と無用なトラブルを起こすのは、好ましいことじゃないでしょう?」
眼に冷たい光が増している。
「早川さん。あなた脅かす気?」
「いえ、単にご忠告申し上げているだけです。
学校が有名校の推薦なんかをちらつかせて、先輩を落とすことも考えられるので」
「失礼しちゃうわ。
大丈夫よ。私の第一志望は、国立だから、学校当局は何にもできないわ。
それに、実力で入ってみせるわ」
柴田彰子は真っ赤な顔で抗議した。
「セイ、先輩は、私達を売るようなことはしないわ。失礼よ」
久保も柴田先輩の肩を持つ。
「そう願いたいものです」
早川が口の端だけで笑う。
「涼子ちゃんの言う通りよ。兄貴にも、AZの仕事は、超極秘だからって、よーく言っておくから」
わざとらしくドアをピシャリと閉めて出て行った。
「上出来だ。てぇしたもんだ。口封じは必要だ」
長瀬が目を細くして早川を見ると、息青吐きながら早川が頭をかいた。。
「自分が嫌になる。でも、これで安全だろう」
久保がきょとんとして、
「ひょっとして、今の芝居?」と、訊いた。
日時 6月22日(水)午後3時半~5時
場所 歴研部室
出席者 早川、長瀬、森田、久保、柴田先輩(鳴海はレンタル中)
議題 特許申請について。今後、長瀬が中心となった発明の特許申請は、柴田
先輩のお兄さんに手続きをお願いすることとなった。
記入者 久保
6月22日(水)午後3時半~5時
① 特定眼鏡視覚可能剤の売り上げ 生徒会連絡調整会議の売り上げ
67万9,000円
純利益 38万8,000円
AZの取り分 31万 400円
北斗高内 売り上げ 5万6,000円
純利益 3万2,000円
AZの取り分 2万5,600円
AZの口座残高 35万2,000円
② 期末テストの秘密防衛工作について
特定眼鏡視覚可能剤の秘密を守るため、風水研の部室に出入りがあったよ
うな偽装をしておく。万一、露見した場合は、AZはあくまでも過失を主張
する。風水研から阿須商事がばれたとしても、阿須商事で追求がかわせるよ
うにする。
③ 特許の取得について
柴田先輩のお兄さんに依頼する。柴田先輩には、厳重に口止めした。 (裏のクラブ日誌より)
結構儲かったみたいです。




