表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
2/57

集まるメンバー

 入り口に人の気配がして、振り返ると、長瀬吉秋が立っていた。


 長瀬吉秋――通称『ヨシ』は背の高い痩せぎすの高校二年生である。

 度の強い銀縁の眼鏡をかけているが、眼鏡越しにも大きな目がゆっくり室内を見回したのが分かる。


 彼は、部屋中を眺め回して尋ねた。 

「セイ、お前一人か?」


「今の所は。

 ヨシ、ここ、すぐ分かったか?」

 セイと呼ばれた生徒が訊いた。


「分かりにくいねぇ。でも、久保が連れてきてくれたぜ。

 ありがたいこった。

 セイとつるむと、久保と親しくお付き合いができる。他のヤツ等の羨望の的だぜ」


 長瀬がニヤリと笑った。


「リョウコも一緒か?」


 長瀬の陰から細身の美しい少女が現れた。


 長瀬たちの高校の制服は男子が黒の学生服、女子が紺のセーラー服に紺のスカーフだ。

 そのセーラー服がよく似合う髪の長い――ポニーテールにして、腰まであるのだ。平安貴族にだって負けないストレートヘアだ――少女だ。手には、これからクラブ日誌にする予定のノートを持っている。


「セイ、ここ、掃除したほうが良いんじゃない?」

 久保若しくはリョウコと呼ばれた美少女が顔をしかめた。


「そうか?さっき、ざっとしたから、大丈夫だと思うんだけど……」


 一応(!)掃除をしたというのに、文句を言われるのは心外だし、これ以上の労働はゴメンだとセイの顔に書いてある。

 

「でも、も一つみたいだよ」

 今度は、小柄で丸顔の男生徒が顔を覗かせた。


「我慢すれば良い」

 長瀬が笑って、適当に座った。




「光太郎も一緒か?揃ったみたいだな。じゃあ、始めようか」

 セイが、招き入れた。


「これで、全員かい?」

 長瀬が訊いた。


「イッキが来ることになってるんだけど……。あいつ忙しいから、先に始めても良いだろう」

 セイが笑った。




「でも、豪華だねえ。セイに久保さん、そしてイッキとヨシ。

 僕が交ぜてもらえたのは、奇蹟みたいだ。ラッキー!」

 

 光太郎こと森田直之がピースサインを出した。 




 どこの町でもそうだが、市役所や駅というのは町の中心部にある。北斗市だって例外じゃない。しかも、私鉄もない田舎だから、駅といえばJRの駅だ。

 北斗駅の出口は北側に一つ。都会なら、出口が複数あって苦労するが、その点、田舎は簡単だ。

 そこを出て、西に200メートル、踏切を渡って、更に西へ50メートル行くと、県立北斗高校がある。長瀬たちの通う学校である。


 

 北斗高校は、この地域じゃ有名な進学校だ。

 だが、クラブ活動や生徒会活動もそれなりにやっていて――まあ、あくまでも『それなり』なのだが――バスケットボール部やボート部が全国大会にまで駒を進めることもある。

 ごくたまにだが。


 文化系クラブで有名なのは、理科クラブだ。

 有名なのは天文班と呼ばれるグループで、校舎の屋上の天文台を使って天体観測をしている。

 

 この他、野球部、バドミントン部、美術部や吹奏楽部など体育系、文系もろもろのクラブがある。 

 

 

 北斗高校は、教室のある本館、職員室や事務室のある管理棟、特別教室のある別館、体育館、図書館と言った建物からなっているが、別館の裏にプレハブの建物があり、通称クラブ長屋と呼ばれている。


 ここは、第二次ベビーブームで生徒数が増えたとき、部室不足を解消するために建てられたものだ。平屋の長屋形式で六室あるが、現在は、一番奥の歴史研究会がかろうじて活動しているだけだ。


 残りの五室のうち一つ、風水研究会は現在休眠中だし、後の四つに至っては長い間休眠状態が続いたので、二年前廃部になったのだ。


 唯一活動している歴史研究会も、三年生に部員が一人いるだけで、来年は廃部になるだろうと言われており、クラブ長屋そのものも、歴史研究会の廃部に伴ってスクラップされるとの噂もある。





 今、歴史研究会の部室では四人の生徒が集まって、新しいクラブについての話し合いが持たれようとしていた。




 部室に一番乗りし、掃除までして一同を待っていた人物――セイこと『早川 セイ』は、細身で学生服が似合う生徒だ。


 しかし、その形の良い頭の中で何を考えているのか誰にも分からない。


 この集まりに先立って、それぞれざっと話があったものの、一同、よく分からないのだ。


 大体、早川は、簡単な話を難しくする才能があって、よく聞いても、何度聞いても、周りの者に分からないことがある。


 ただ、一同、早川が、今、何かを提案しようと必死になっていることは、何となく分かる。分かる以上は、聞いてやらねばならない。そういう関係だった。

 


 この人の一番の特徴は、その眼光の鋭さだ。

 知らない者は「何を怒っているんだろう?」と、思うほどだ。


 何かに集中しているときのこの人の視線は痛いほどで、間違っても逆らいたくないと思わせる。

 

 今も、側にいることに怖さを覚えるほどで、こういう時は、誰も早川の話の腰を折らない。


 こんな時、早川の邪魔をするのは、殺してくれと言っているようなものだということを、一同、これまでの付き合いで学んでいるのだ。





 入り口に、人の気配がして、噂の人物――鳴海一輝が現れた。 


「遅れてスマン。生徒指導の安田先生に捕まった。

先生、やっぱり、このクラブのこと、面白く思ってないみたいだぞ」


「安田先生の反応は、想定範囲内だ」

 早川が口の端だけで笑った。



 鳴海一輝は、通称『イッキ』と呼ばれている。

 スポーツ万能、成績優秀、加えて男前だ。

 身長が高く無駄な贅肉のない引き締まった体に、野性的で甘いマスクをしている。

 高校二年の現在、生徒会長をしているが、小学校、中学校とモテまくったので、この学校へ入学したときも、当然、それを期待していた。


 しかし、この学校には、早川がいたのだ。


 容姿に自信がある鳴海は、入学式で自分より美しい少年を見つけて驚愕した。


 男に美しいという形容詞を使うのもどうかと思ったが、それ以外言いようがなかった。



 通常、入学式というものは独特の緊張感があるものだ。これから大勢の知らない人々(メンツ)と付き合わきゃならないからだ。

 初めて会う人間と友人関係を構築するにはどうすれば良いかとか、教師と合わなかったらどうしようとか、学校に慣れる以前に、対人関係に頭を悩ませるものだ。


 だが、鳴海の場合、同じ中学から四十~五十人も入学したこともあって、さほどの緊張感も期待感もなかった。ぶっちゃけ、通常モードだったのだ。


 ところが、そんな鳴海が度肝を抜くことがあった。

 

 これまでの人生で見たこともない生徒がいたのだ。

 鳴海の常識が音を立てて崩れたような気がした。



  




鳴海は、気の毒な青年です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ