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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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柴田兄妹

 6月22日の例会には別の客が来た。


 歴史研究会部長の柴田先輩だ。

 

 柴田先輩から特許について話があるので、例会に参加させて欲しいとの要請があったのだ。

 

 部室のことでは、ひとかたならぬお世話になっているAZとしては、お断りすることができなかった。


 更に「できれば、AZの例会を見学してみたいので、最後にして頂ければ嬉しいんだけど……」と、やんわりと圧力を掛けられる。


 仕方がない、柴田先輩の話が最後だ。

 

 例会では、特定眼鏡視覚可能剤の売り上げから始まり、期末テストで万一露見した場合の誤魔化し方の検討まで行った。


 柴田先輩は、それはそれは興味深そうに聞いていた。

 久しぶりに気分が高揚したようだ。


 最後の議題になった。



 柴田先輩の名前は、彰子と言う。

 平安時代からある超オーソドックスな名前だが、その性格も古風で、今時の高校生としては頑固な方である。

 そのため、他のクラブが廃部になったときも、持ち前の粘り強さで切り抜けて、何とか、存続することを得た。


 しかし、本人を目にすると、意外の感を禁じ得ない。


 頑固で定評のある柴田彰子は、丸顔でお下げ髪、丸いフレームの眼鏡をかけた童顔で、どうかするとAZの面々より幼く見えるのだ。


 柴田先輩はおもむろに言った。


「特定眼鏡視覚可能剤の成功おめでとう。


 ところで、以前、涼子ちゃんが、発明で特許を取るって言ってたでしょ。

 

 その件なんだけど、できれば特許申請にウチの兄貴を使ってほしいの。


 ウチの兄貴は、弁理士なんだけど、ここらって田舎でしょ。

 本来の弁理士の仕事があんまりないのね。


 仕方がないので、今のところ、家業を手伝っているんだけど、かねがね本来の仕事をしたいと思っているらしくて。


 手続きに係る費用については、兄貴もできるだけ協力するって言ってるんだけど、悪い話じゃないと思うわ。お願いできるかな?」



「先輩のお兄さんって?」

 久保が訊いた。


「この前、涼子ちゃん達とここで会ったでしょ。あの時一緒だったわ」


「そんな人に会ったか?」と、早川。

「ああ、あの真面目そうな人。」と、森田。

「どんな感じだった?思い出せないぜ」

 長瀬が首を捻る。


「顔はどうでも良いんだ。特許が取れて、手数料が安いなら文句はない」

 早川が身も蓋もない言い方をする。


 セイ、いくらなんでも、そんな言い方はないでしょう、と、久保がフォローに入る。


 柴田先輩は、いくら兄貴の頼みでも、やっぱり、これはあんまり素敵な話じゃないみたいだ、と、心底兄に同情した。

 


 柴田先輩の兄、柴田健太郎(こちらも友人達から、「古風な名前だが、本人の性格を表している」と笑われている)は、弁理士の資格を取って地元へ帰って来た。

 

 しかし、北斗は田舎だから、折角の資格を活用することができないのだ。


 弁理士として特許の仕事がしたいと思いながらも、家業の工務店の経理、広告、営業などをやっている。


 この前、部室で久保達に会ったときは、柴田先輩と一緒に部室におけるアスベストの使用状況の調査に来たのだ。


 柴田先輩が青春の一時期を過ごした部室にアスベストが使ってあったかどうかというのは、柴田家にとっては由々しき問題で、両親の命を受けて調べに来たのだ。

 

 壁や天井、外壁その他を調べて帰ろうとしたとき、AZ一同が、例によって小瓶へ入れる作業をしようとやってきたのだ。


 最初、久保と森田が、少し遅れて、早川と長瀬がバケツを運んできた。長瀬がすぐに理科実験室へとって返したので、柴田健太郎と顔を合わせたのは三人だけだ。


 

 しかし、彼は、久保に会ってしまったのだ。


 柴田健太郎にとって、久保は今まで見たこともないほど美しい少女だった。


 思わず見とれると、久保が恥ずかしげに俯いて顔を赤らめる。


 この時点で、柴田健太郎は、久保に絡め取られてしまった。


 早川が、久保の様子を見て、目線で鋭く非難する。

 柴田健太郎は、早川に嫉妬した。



「先輩、いつもスミマセン。すぐに終わりますので」

 久保が頭を下げる。


 壮絶に美しい少年が、

「先輩、申し訳ない。この作業が終わったら、ワタシとリョウコはすぐに帰る。邪魔かもしれないが、辛抱してください」と、笑った。


「良いのよ。私の方の用事も終わったから、そろそろ帰ろうと思っていたところなの。

 相変わらず、派手にやってるって感じで良いわね」


「ぼちぼちですね」と、笑いながら、三人は作業を始める。慣れた手つきで小瓶に詰め、50セットが完成した。

「今日の作業はお終い。リョウコ、生徒会広報の校正、手伝おう。光太郎、後を頼む」


 早川が久保と部室を出て行く。


 柴田兄妹は、あっけにとられて何も言えない。


 しばらく呆然としてたが、早川が振り向いて輝くような笑顔で言った。


「先輩、光太郎にコーヒー入れてもらうと良いよ」



「おあいにく様、あなたに言われなくても、森田くんはいつもコーヒー入れてくれるわ」


「じゃあ、今日は、お客さんの分も入れてもらうと良い」


 笑いながら行ってしまった。


 

 生徒会室へ向かう途中、早川が久保に向かって、

「リョウコ、いくら何でもあんなに真正面から媚びを売るな。

 ワタシでも、あれをやられたら、くらくらするぞ」と、真面目に意見した。


 久保は、嫣然と微笑んで言った。


「嘘ばっかり。

 セイは、絶対にあんな手口に引っかかりません。

 それに、どうせ柴田先輩の知り合いでしょ?

 この際、AZのために、何か手伝って頂いても、罰は当たらないと思うわ」




 頭を抱える早川に、久保が笑って言った。


「セイを口説き落とすのは難しいけど、男の人の一人や二人、こちらに協力したいと思わせるぐらい、簡単なものよ」


「時々君が分からなくなる」

 早川が呻いた。






久保は、小悪魔チックなところがあるようです。

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