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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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小杉高校の生徒会長

 田植えが終わった頃だった。この地域は早場米の産地だから、稲刈りも田植えも早い。ゴールデンウイークには田植えが終わっているのだ。

 あちこちの田んぼに植えたてのか細い苗が涼やかにそよいでいる。


 彼は、期待に胸を膨らませて、先輩達の後に続いた。


 剣道部の顧問が県警本部の稽古に連れて行ってくれるのだ。


 先輩達は、二週間に一度、隣のK市の県警本部へ稽古に行く。

 県警本部には、強い人がたくさんいて、密度の濃い練習ができるのだ。

 彼は、入部したばかりだから、これが初めての機会だ。


 挨拶して道場へ行くと、たくさんの大人が稽古していた。その中に一人、他の人より頭一つ小さい姿があった。


 先輩達が「珍しい。レオが来てる」と、囁き会う。


 レオというのが、その剣士の通り名のようだった。


 次から次へと申し込む大人達と軽々と戦い、縦横無尽に跳び回る。

 年を取った師範が眼を細めて、それを見ていた。


 小杉高校の顧問が師範に彼を紹介すると、口をつぼめて笑い、「同じ年頃じゃの。セイ、手合わせをお願いしなさい」と言った。

 

 ここで、小柄な剣士が『セイ』と言う名だと知った。


 先輩達は、あちこちで大人を相手に稽古を始めている。


 彼は、小柄な剣士に「加藤です」と名乗る。「ハヤカワです」意外と可愛らしい声だった。


 加藤は大敗した。一本も取れなかったのだ。


 小学校から剣道を習っているが、こんな負け方は初めてだった。


 動きのキレが全く違う。平面的な動きも鋭いが、上下の動きが半端じゃない。

 飛び跳ねたり、沈み込んだりするのだ。

 その上とんでもない眼をしている。

 相手の繰り出す技を瞬時に見極めきり返す。


 手も足も出なかった。


 稽古が終わって、息を弾ませて面を取る。


 あれだけ動いたのに、レオは、薄く汗をかいているだけだった。


 その顔を見て、一瞬、時間が止まったかと思った。

 見たこともないほど美しい少年だった。


 眼の光が尋常ではない。あの眼で相手の技を見極めるのだ。


 つくづく自分の小ささを思い知った。



 後で、先輩から、「レオに負けたからと言って、気にする必要はないぞ。師範の孫で、小さいときから県警本部でも有名なんだ」と聞いた。


 それから、何度も、県警本部へ行ったが、二度と会えなかった。

 どうやら、レオは忙しくて県警本部へ来られないらしい。

 会いたかったら、地元の警察署で稽古をしているから、行ってみたら?と、言われたが、あの大敗を思い起こせば、そこまでする気になれなかった。



「小杉高校の、加藤か?お前、『小杉の鷹』って言うんだってな」


 早川が言うと、相手の殺気が霧散した。


 客がニヤリと笑う。



 ここまで見届けて、長瀬は山本を伴って部室へ帰った。


 後は、早川に任せる。



 長瀬は、山本と製造工程の合理化について話し合わなければならない。

 それが、長瀬の仕事だ。




「覚えていてくれたか。もう一年以上も前だが、その視線のきつさは変わらないな。

 会いたかった」


「ワタシの視線がきついって?他人ひとのことを言えた義理か。

 お前こそきついぞ。殺されるかと思った」


 軽く息を吐いて、ニコリと笑う。そうすると、幾分眼のきつさが抜ける。



 小杉高校の生徒会長もするどさを緩める。


「ゆっくり会うのは、初めてだな。もう一度名乗ろう。俺は、加藤 隆。隆だから、小杉のタカってわけだ」

「ワタシは、早川 清だ。

 礼儀だから名乗るが、他言無用に願いたい。あんなヤバイ商品に関係していることがばれたら、えらいことだ」


 悪戯っぽく笑う早川に、加藤は口の端で笑って了解した。


「しかし、男前だな。イッキと良い勝負だ」


 確かに、加藤は、上背も高く、切れ長の目が印象的で端正な顔立ちだ。


 早川は楽しそうに話した。


「去年、一年なのに県大会で優勝したんだって?さすがだな。ウチの師範が、褒めてたぞ」

「それだ。

 お前、どうして県大会に出なかったんだ?俺はお前に勝つために死にもの狂いで練習したんだ。

 それなのに、すっぽかされた。優勝できても、不完全燃焼みたいで半端だ。

 デートをすっぽかされたような気分だ」


「お前、デートすっぽかされたことなんかあるのか?」


「今年は出てくれ。お前と勝負したい。それを言いたかった」


「無理だな。ウチの高校に剣道部はない」

「個人戦に出れば良い。なぜ、出なかったんだ?」

「いろいろ事情があってな。

 お前には関係ない。

 ワタシと戦いたい時は、地元の警察署か祖父の道場練習に来てくれ。

 

 お前が来たら、みんな喜ぶぞ」

 


 ちょうど、部室へ帰ってきた鳴海は、二人を見てニヤリと笑った。


 加藤あいつも真実を知れば、驚くだろう。


 だが、鳴海たち北斗高校の面々だって驚いたのだ。

 加藤だって驚くべきだ。

 じゃなきゃ、面白くない。




 せいぜい驚け。俺たちだって驚いたんだ。


 心の中で、つぶやいた。





 長瀬と山本は、打ち合わせを終わって、早速やってみようということで早川に声を掛けた。


「セイ、お話し中悪いが、永井に話を付けてくれるなら、早急に付けてくれ。

 俺達ゃすぐにでも始めたい」

「ヨシ、あれで良いと思うか?」

「バッチ、グーだ。お前ぇは天才だ。大好きだぜ」

「お前に好かれてもな。でも、この際、良しとしよう。加藤くん、時間あるか?」

「せっかく、お前に会ったんだ。意地でも作る」

「じゃあ、少し待ってて」


と言って、別館の理科実験室に行き、永井を捕まえる。


 永井は、不承不承に十二あるテーブルのうち、クラブ長屋に近い方のテーブル三つを譲ってくれた。


 彼は、まだ死にたくなかったのだ。



 ありがとう。お礼は、何が良い?と、訊かれても、そんなものあてにするほど馬鹿じゃない。


「礼なんか要らない。用が済んだら、さっさと明け渡してくれれば良い。


 第一、三つのうち、二つは長瀬と吉本が占拠していたものだ。一つしか譲ってない」




 永井は、やけくそだ。


 後から来た久保――彼女は、泉川の西川会長につきまとわれて、逃げ回っていたので遅くなったのだ――が顔を覗かせて、「永井くん。悪いわね。お世話になります」と、必殺の笑顔でだめ押ししたものだから、理科クラブのメンバーは、半ば上の空で何がなんだか分からないまま、テーブルを開け渡すことになった。



 


 ここまですませて、早川は、加藤と向き合った。


「お待たせ。じゃあ、行こうか。

 

 せっかく加藤くんが来てくれたんだ。

 

 イッキ、ワタシは、お先に失礼する。後、よろしく」

 



 生徒会連絡調整会議の後始末をどうするか、増産体制に入った長瀬たちのフォローをどうするのか、相談したいことは山ほどあったが、早川が加藤と連れだってさっさと帰宅してしまったのでは、何もできない。



 続きは月曜だ。




 ええい。生徒会連絡調整会議が土曜というのは、失敗だった。

 

 せめて、金曜にしておくべきだった。と歯がみしたが、後の祭りだった。


森田が、

「デートかな。かなりハンサムな会長だったね。小杉高校の生徒会長って、剣道部なんだ。セイも、剣道強いって話だから、良いカップルになるかも知れないね」と、呑気に言う。



 それを聞いて、おさまらない久保と鳴海だ。


「セイは、北斗高校の宝です。小杉なんかに、渡せません!」

「ウチの高校の宝は、久保さん、君だ。間違えないように。

 君を泉川に渡せない。あの西川の野郎、良い気なもんだ。開催校じゃなかったら、放りだしてやるのに!


 しかし、セイのヤツ、どこへ行ったんだろう?」



 二人して地団駄踏んだが、後の祭りだ。



 森田が、裏のクラブ日誌を書きながら、断言した。


「大丈夫。何かあるなら、真っ先にヨシが反応するだろ?そのヨシが全く気にしていないんだ」


 

 さすがに小説家を志す男だ。その観察力はただものではなかった。




6月11日(土)3時半~ 第一会議室にて


 生徒会連絡調整会議(全部で十校)が1時半~3時半まであった。3時半から、風水研究会の名前を借りて、特定眼鏡視覚可能剤の販売をした。準備した各校40セットは完売。この40セットを含んで泉川200、三水100、小杉100、加島40、伯井100、仲嶋150、鹿東80、和島50、戸岐150以上、全部で970セット契約成立

 最初に作った400セットのうち360は各校に渡す。残り40セットは、和島に10、泉川に30渡す。よって、泉川へは、残り130セット渡すこととなる。


 最初の400を引くと、第二次生産するのは570セット。

 1ロット50セットだから、11.4ロット作る必要がある。

 

 早川と吉本が検討して、一気に6ロットずつ作る方式を開発した。今後、校内にも追加注文が予想されるので、12ロットを効率的に作ることとする。

 

 ちなみに、970セット売れた場合の純利益(一個700円、原価300円だから  700-300=400円)、970×400=38万8,000円で、うち二割の7万7,600円を長瀬と吉本の発明料。

 AZの取り分は、31万400円になる。

                     (裏のクラブ日誌より)




鳴海の敵がボロボロ出て来ます。鳴海くん、ガンバ!

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